米国財団法人野口医学研究所

Thomas Jefferson大学病院での1週間を振り返って

学生梅津新矢

2015年3月米国トーマス・ジェファーソン大学

私は、2015年3月23日から28日まで5日間、アメリカ・フィラデルフィアのトマス・ジェファーソン大学にてオブザーバーとして研修させていただきました。研修内容は病棟や外来で担当医師の行動を見学するシャドーウィング及び各分野の医師の講義を聴き取ることでした。BSL(Bed Side Learning)の内容は防衛医大と基本的には同じですが、研修を通して幾つかの差異に気がつきました。

 

I 日米の医療対応差異

(1) 診療時間

米国では1人の患者さんに対応する時間が長いことに気がつきました。内科の入院病棟、救急外来、家庭医外来、小児科外来を見学しましたが、入院病棟では最低10分、外来では最低20分、1人の患者さんに時間をかけて対応していました。

(2) 病棟

病棟では、アテンディング医師1名、レジデント3名、学生2名が1チームとなり、レジデントや学生がアテンディングに説明し指導を受けることを繰り返し行います。病棟では患者、患者家族、医療チームが同席して、質疑応答を行い、患者、家族に充分な説明を行います。医療チームは1チームあたり最大でも14名の入院患者しか担当せず、外来も受け持ちません。そのため現病歴に関することは勿論、既往歴や家族歴などまで詳細に聴取することができます。従って患者さんへの共感empathyも深まります。

(3) 外来

外来では患者さんが待っている部屋に医師が入り、詳細に病歴を聴取します。身体診察も日本なら専門科に回すところを、医師たちは自ら所見を取ります。例えば家庭医外来で結膜炎疑いの患者さんに、家庭医の医師が眼科の機械を準備して診察していました。

(4) カルテ

最近はカルテをSOAP(Subjective, Objective, Assessment, Plan)に従って記録しますが、SOに関しては米国の方が時間をかけて聴取し、カルテに丁寧に記録していました。

 

Ⅱ 感想

(1) 病歴聴取

詳細な病歴聴取は問診の「漏れ」を防ぐだけでなく、患者さんと医師との信頼関係を築くことが分かりました。日本の医師は疾患を確定させ、眼前にある症状に対処する、という視点で病歴聴取を行うものと考えていました。アメリカでは、医師、患者、患者家族の信頼関係を構築したり、漏れなく情報の整理を行ったりすることが病歴聴取の目的だと考えられているようでした。

 

 

(2) 治療

ER実習時、来院された蜂窩織炎の患者さんに、いきなりバンコマイシンを投与しました。 日本では培養結果が出る前はまずセフェム系抗菌薬を投与するのが一般的だと思いますが、米国のERでは、特にMRSA感染が強く疑われなくともいきなりバンコマイシンを投与したので驚きました。同じくER実習時、足白癬疑いの患者さんに丁寧に病歴聴取をするのですが、結局鏡検せずに抗真菌薬を投与していました。

米国では保険の関係で病院に何回も受診することができない等の背景があるようですが、特に薬の処方に関しては日本と考え方が異なるように思います。

 

III まとめ

米国では日本よりもEBMに基づいた高度な医療が行われていると考えていましたが、現実は個々の症例ごとに医師達が真摯に判断・対処しているのに共感しました。米国の内科系ではディスカッションが重要で、各疾患についての知識・解釈・治療法の見識をより深め、語学力を含むコミュニケーション能力を高めるよう日々精進したいと思います。

最後に、米国留学の機会を与えてくださり、計画してくださった野口財団の浅野嘉久先生、木暮貴子さん、樫本享子さん、現地で研修の準備をしてくださったThomas Jefferson大学Japan Centerのラディ由美子さん、飯島信子さん、ご指導いただいたThomas Jefferson大学病院の佐藤隆美先生、Mr. Mike Kenney、Dr. Joseph S. Gonnella、Dr. James Erdman、Dr. Waynebond Lau、Dr. Hasan Bayat、Dr. Leiloni Kaluhiokalani、Dr. Devi Patel、Dr. Traci Trice、Ms. Maki Nakasato、Ms. SHoshana Sicks、Ms. Crystal Waters、Ms. Susan EmeryMr. Gary Kaplan、Ms. Rino Satoさん、そして一緒に研修した9名の同僚に感謝いたします。