米国財団法人野口医学研究所

トーマスジェファーソン大学 Problem Based Learning Clinical Skills Program レポート

学生二木良平

2015年3月米国トーマス・ジェファーソン大学

今回のトーマスジェファーソン大学での研修は、Emergency Department, Internal Medicine, Pediatrics, Family Medicineの4つの診療科を見学させていただきました。

私自身はアメリカに合計15年間住んでおり、また父がアメリカで小児科医として働いていたということもあって、アメリカの医療事情については多少聞いていました。しかし、話で聞くのと、実際に経験することは別物であり、今回のトーマスジェファーソン大学での研修を通して多くのことを学ばさせていただきました。特に印象に残ったチーム医療における医学生の位置づけ、シミュレーションセンターの活用、医学生の時から他の医療従事者との連携の3つに絞って書きたいと思います。

まずチーム医療における医学生の位置づけについてですが、アメリカの医学生は最初の2年間の講義の後、3年生、4年生は病棟実習を行なう。その際、医学生にはインターン(研修1年目の医師)がついて評価を行ないます。また、インターンの上にはレジデント(研修2年目以上の医師)、レジデントの上にはアテンディング(指導医)がついて評価をするという屋根瓦方式が徹底していると感じました。日本ではほとんど権限を持たされることのないインターンの評価によって医学生の希望科や就職先が変わります。そのため、病棟実習を真剣に取り組み、インターンも学生から指導について評価を行なわれるため、お互いにチェック機構となっています。医学生は受け持ち患者をもち、患者の問診、病態の変化をレジデントにプレゼンテーションし、カルテの記載を行なっています。ときにはレジデントの同意のもと、他科の医師にコンサルテーションを行なうなど医療チームの一員として行動していました。私自身は日本での病棟実習が始まって3ヶ月程しか経験していませんが、ここまで責任を医学生に持たせて、コンサルテーションまでさせるというのには驚きました。特にコンサルテーションをするためには要点をうまくまとめ、分かりやすく他科の医師に伝える必要があります。医学生ながら患者の病態をしっかりと把握し、伝えられる実力があると感じました。逆に言うと医学生は日頃からインターンへのプレゼンテーション、他科へのコンサルテーションを行なっているため、医師になるころには要点を掴む、プレゼンを行なう技術が備わっていると考えられます。

次にシミュレーションセンターの活用について述べます。トーマスジェファーソン大学では、シミュレーションセンターを実にしっかりと活用しています。現場での失敗は患者の命に関わるため、シミュレーションセンター内で十分に失敗し、失敗の原因を探究、改善するということを重点に置いています。医師や学生だけでなく、看護師や理学療法士 も使用しており、現場でのミスを防ぐためにシミュレーションで問題点の洗い出し、分析、改善のステップがしっかりと行われています。トーマスジェファーソン大学の医学生は、カリキュラムの中にシミュレーションセンターで練習するコマ数が相当割かれており、患者役として標準患者(standardized patients)を雇っています。標準患者(standardized patients)は20代から70代までと幅広く、時給を払って依頼しています。彼らは医学生の対応が良かった、またはある仕草が気になったなど、医学生の評価やフィードバックをしっかり行ないます。こういった環境で、トーマスジェファーソン大学の医学生は、医療現場に出る前に練習しているため、病棟実習中もスムーズな対応が行なえると考えられます。私が所属する琉球大学内には、数年前にシミュレーションセンターが建設されており、1年生には患者への付き添い方、4年生ではOSCE練習のときにマネキンを用いて練習する場となっています。しかし、トーマスジェファーソン大学のようにシミュレーションセンターで行なったことの評価、それに対する改善策を考えたりすることは行われておらず、やりっぱなしというのが現実です。立派な設備にも関わらず残念ながら十分に活かしきれているとは言えません。そのため、トーマスジェファーソン大学のようにフィードバックをしっかり行えるように整えることが課題だと考えられました。

最後に、他の医療従事者との連携について述べます。トーマスジェファーソン大学では専門職連携教育(Interprofessional Education)を取り入れています。専門職連携教育の中に、グループ学習、実臨床での見学、シミュレーションなどがあります。グループ学習の中にはHealth Mentorsというプログラムがあります。これは、ボランティアで協力してくれる慢性疾患の患者(Health Mentor)と医学生、薬学部生、PT、OTの学生などが合同で行なうプログラムがある。Health Mentorと学生は2年間で4回集まり、Health Mentorが生活で抱える問題点を学び、相互の尊重、共通された価値観に基づく環境形成についてディスカッションをします。その中で、患者の治療における自分の役割及び他の医療従事者の役割を学ぶ。学生の内から他の医療従事者となる学生と活動することで、各々のフィールドを理解し、患者のために自分がどう動けば良いかが分かり、チームとしての強化を行なえると考えられます。私の大学では、医学科は他の学科との授業や実習での接点が全くないため、他の医療従事者の仕事内容を良く分かっていない場合が多いです。そのため、トーマスジェファーソン大学のように調整が大変ではありますが、合同で複数の科の学生が患者について学び、お互いの役割を知るようなプログラムを作るようにするべきだと考えらます。

今回のトーマスジェファーソン大学での研修は1週間と短かったですが、医師の臨床能力の高さはもちろん、評価やフィードバックをしっかり行なっている点で、アメリカが医学教育においては日本よりもまだまだ先に進んでいると感じました。私は将来的にはアメリカに臨床留学をしたいと考えています。今回の研修でアメリカの医療事情を知ることができ、更に臨床留学をしたいという思いを強くしました。
最後に、Dr.Gonnella が仰っていたことで、“Doctor is a clinician, teacher and a manager.”を引用したい。医師というのは、臨床能力は最高水準まで持っていくことはもちろん、他の医師や学生に教える先生でもあり、そして患者や医療チームをマネージメントするリーダーでもあります。これらを意識してこれからも医師になるに向けてより自分を高めていきたいと思います。

今回の研修を参加させてくださった野口医学研究所、トーマスジェファーソン大学の先生、スタッフ方に感謝しています。

 

今回の研修の機会を与えてくださり助けてくださった浅野嘉久先生、佐藤隆美先生、Mr. Mike Kenney、Dr. Joseph S. Gonnella、Dr. James Erdman、Dr. Wayne Bond Lau、Dr. Hasan Bayat、Dr. Leiloni Kaluhiokalani、Dr. Devi Patel、Dr. Tara Berman、Dr. Anne DuBreuil、Ms. Maki Nakasato、Ms. Shoshana Sicks、Ms. Crystal Waters、Ms. Susan Emery、Mr. Gary Kaplan、Ms. Rino Sato、ラディ由美子さん、木暮貴子さん、樫本享子さん、飯島信子さんに心から感謝します。