米国財団法人野口医学研究所

NMRI報告書

学生竹本愛実子

2015年3月米国トーマス・ジェファーソン大学

1週間という短い期間ではありましたが、今回学んだことは数えきれません。どの経験も刺激的ですばらしいものでした。特に感じたことをいくつか挙げるとするならば、学生の能力の高さ、チーム医療の意識の高さ、医師と患者さんの信頼感の厚さが真っ先に頭に浮かびます。

今回、internal medicineで一緒に実習を行った学生は皆、朝早くから患者さんの診察を行い、カルテを書き、治療計画について医師と対等に議論をしていました。レジデントやフェローの医師も、学生を育てたいという気持ちが強く、病歴聴取や身体診察はもちろん、アセスメントやプランなども学生にできるだけ考えさせようという雰囲気がありました。学生の考えを聞き、どうしてそう考えたのか、他に考えられることはないか、など、とても長い時間をかけて指導していました。これには本当に驚きました。日本での実習では、忙しい医師にとって自分は足手まといになってしまうからできるだけ邪魔をしないようにしようという考えが先行してしまいがちです。そのため、学生はただ見ているだけということが多いのです。もしかすると、これが日本独特の“遠慮”の文化なのかもしれません。しかし、今回、アメリカの学生の取り組む姿勢をみて、実習での“遠慮”は何の意味もなさないのだということに気づかされました。遠慮して何も学ばなければ、医師として何より必要な患者さんを診る能力が身に付かないからです。もちろん、学生に許される範囲は日本とアメリカでは大きく違い、日本のほうがまだまだできることは少ないかもしれませんが、実習に取り組む姿勢は今からでも取り入れられると感じました。自分が学びたいという姿勢を示せば、先生は親身になって指導してくださるはずです。“遠慮”を口実にしてはいけないな、と肝に銘じた瞬間でした。

チーム医療の意識の高さを実際に目の当たりにしたのは、特に救急をまわったときです。アメリカには様々な職種があり、救急ではRegistered NurseSocial Worker、医師が主に働いています。患者さんが部屋に通されると、まずバイタルの測定、着替えの手伝い、ルートが必要なときはルート取り、などをRegistered Nurseが行います。その後、医師がやってきて問診、身体診察、考えられる病態、必要な検査について説明します。次に、検査等へいく時はRegistered Nurseの出番です。検査結果が出ると医師は上級医に自分の考えを示し、結果について患者さんに説明しにいきます。もしそこで、保険の問題が発生すると今度はSocial Workerの出番です。患者さんが受けられる範囲で最大の検査、治療を提案します。このように、それぞれの職種がすべきことははっきりと分かれおり、それぞれの役割に応じてお互いに助言しあい、それを尊重し、敬意をはらうことを忘れていませんでした。こういった姿勢にとても魅力を感じました。

医師と患者さんの信頼感の厚さはどこの診療科でも感じていたことの一つです。診察は必ずといっていいほど雑談から入り、患者さんの緊張をほぐした後、主訴、身体診察、診断、治療とすすみます。医師は必ず最後に質問がないかを聞き、患者さんが納得するまでわかりやすく説明を行っていました。特にFamily Medicineや小児科の外来では、患者さんは医師にどんなことでも相談しており、診察時間は最低でも20~30分かけていました。特に印象に残ったエピソードがあります。それは小児科を見学させていただいていたときのことです。熱が続いていた子供に対してお母さんが解熱剤を与え、熱が下がって子供もずいぶんと元気を取り戻した様子でした。この問診をとり終わった後に医師が最初に言った一言が、“You did a great job.”だったのです。ほんのささいなことかもしれませんが、この一言で、子供が熱を出して不安でたまらなかったお母さんはフッと頬の緊張が和らいだように見えました。こういったことは、他の診療科でも、回診でもみられました。医師は患者さんとその家族に対していたわる言葉、励ましの言葉をかけることを決して忘れていませんでした。この、医師の精神のようなものに、私は心の底から感動しました。

一緒に参加した他のメンバーもとても優秀で、人間性も素晴らしい人たちでした。夜にそれぞれの班で集まり、経験した症例や自分たちが感じたことを共有し、難しいと感じた略語や単語を勉強したことはとてもいい思い出になりました。チームで1週間頑張れたことをとても嬉しく思い、感謝の気持ちでいっぱいです。

この1週間で経験し、感じたことはまだまだ書ききれないほどです。今回の貴重な経験、素敵な仲間を大切にし、感じたことをずっと心にとどめておきたいと思います。そして、将来、誰からも信頼される医師、患者さんに寄り添える医師になるべく、日々精進していきたいと思います。

 

謝辞

浅野嘉久先生, 佐藤隆美先生, Mr. Mike Kenney, Dr. Joseph S. Gonnella, Dr. Takami Sato, Dr. Hasan Bayat, Dr. Leiloni Kaluhiokalani, Dr. Waynebond Lau, Dr. Richard Massone, Dr. Vibin Roy, Dr. Alisa LoSasso, Mrs. Shoshana Sicks, Mrs. Susan Emery, Mr. Gary Kaplan, Mrs. Crystal Waters, Ms. Maki Nakasato, Ms. Rino Sato, Mrs. Janice Bogen, ラディ由美子さん, 飯島信子さん, 樫本享子さん, 木暮貴子さん

このような素晴らしい機会を与えてくださり、また多大なサポートをしていただきましたこと、心より御礼申し上げます。