米国財団法人野口医学研究所

ジェファーソン研修報告書

地域医療機能推進機構 横浜保土ヶ谷中央病院 総合診療科八百壮大

2018年5月米国トーマス・ジェファーソン大学

私は2013年冬に野口医学研究所のセミナーで短期留学権を得た後、翌年に沖縄海軍病院インターンシップを経由してECFMG certificateを取得し、米国家庭医療レジデンシ―へ行く道を考えていました。しかし、実際に米国のプログラムへの視察も経験し、果たしてもう一度研修医をするのが本当に良いことなのかわからなくなってしまいました。いち臨床医としての大きな差異を見つけることができなかったのです。日本の家庭医療/総合診療の黎明期を支えてくださった、米国をはじめとする海外留学をされた先生達、そして日本で献身的に地域医療に貢献してこられた先生達の努力により、日本の研修プログラムが良くなっているのだと思いました。

 

そうこうしているうちに気が付けば5年が、医師として10年が過ぎました。偶然の出会いが重なり、現在勤務している病院の総合診療部門の責任者となり、大学の医学教育や新専門医制度のプログラムにも関わることになりました。特にこの3年を振り返ると、診療のみならず、多職種チームにおけるリーダーシップや組織運営にも関わるようになっていき、仕事に忙殺されている自分がいました。臨床はきちんとできているだろうか、これから来る研修医に標準的な診断と治療を教えることができるだろうか、リーダーとしてチームをまとめられているだろうか。そのいずれにも、明確な自信はなく、特別な能力を持った人間ではない自覚もあることから、何か今の状況を変えるための知恵が必要な時期にあると感じていました。

 

5年を経て、大都市のプライマリ・ケアのロールモデルとして、フィラデルフィアでの研修をお願いし、受け入れて頂けました。過去の多くの留学者が医学生や若い年代で、視野を広げ、その先の臨床留学を見据えて使ってきた権利を、今回少し異なった目的で使わせて頂きました。結果として、予想していた以上に素晴らしく意義のある経験となりました。現地のジャパンセンターのスタッフのご尽力、そしてジェファーソンの寛容な指導医の先生達のおかげで、診療に留まらず、深刻化する格差と貧困に対する地域の取り組み(医学生による無料診療所や産婦人科医による無料妊婦健診、ジェファーソンのSocial equity会議のワークショップへの参加等)を見ることができ、非常に励まされましたし、何か自分の関わる診療や教育活動の中に取り入れてみたいと気持ちで高揚しました。

 

また、仕事から少し離れてみて、米国の医師達の働き方も垣間見て、生活と仕事のバランスを無理なく持続可能な形で保っていくことについても多くの示唆が得られたと思います。

尊敬する同世代の医師、Dr. Wayne Bond Louは、中華街の一角にある協会で、貧しい人々のために医学生らと無償診療を行う。医学生の診療のフィードバックや、グループでその日の振り返りを行っていた。最終日の修了証もWayneに渡して頂いた。

謝辞

 

「Social equity(社会的公平)に関心があります。」 という、この魔法の一言により、フィラデルフィアでの3週間は、目を開く経験で満ちたものとなりました。 訪問の初日に、日本センターの責任者であるポール先生が、私をジェファソン・コミュニティー・エンゲージメント・サミットというところに招待してくれました。そこでは、フィラデルフィアの健康格差にどう立ち向かうかについて、さまざまな分野の教育者達がグループディスカッションをしていました。それがどれほど深刻なのか、すぐに理解しました。 そこでは、プラム先生やルドミール先生にお会いしました。先生方は、私に「ここではあなたの郵便番号はあなたの遺伝コードよりあなたの健康についてもっと詳しく教えてくれるはずです。」と教えてくださり、私はショックを受けましたが、徐々にその意味を理解しました。

私は今回、プライマリ・ケアに関する、できるだけ多くの異なる状況に身を置くようにしました。Jeff-HOPE、チャイナタウンクリニック、ラティーノクリニックを含む、地域社会へのアウトリーチ活動を視察しました。 医学生クリニックであるJeff-HOPEでは、医学生がアドボカシーを進んで学んでおり、日本で斬新な医学生教育を始めてみたいという気持ちにさせてくれました。 チャイナタウンクリニックで、プロフェッショナリズムを備えた非常に素晴らしい救急医、ラウ先生とお会いし、友人になることができました。 内科入院病棟では、「チームグリーン3」が歓迎し助けてくれました。 ニックさん(医学生)、ローズ先生(レジデント)、アリソン先生(レジデント)、リー先生とアッカーマン先生(指導医)、皆さんありがとうございました。

これらの診療活動はすべて、寛大な心、忍耐、偉大な思いやりの心をもった医学生、指導医、教員により、都市で困っている人々のために行われていました。最後に、公衆衛生学教室のナッシュ先生が、フィラデルフィアでの現実とチャレンジについて説明してくださいました。同じような都市で診療をしている、一プラ​​イマリケア医師として、社会的正義と絶え間ない努力に感動し、自分も頑張ろうという気持ちになりました。
地域社会の健康や、医療の質と安全が、日米のプライマリ・ケアの核になると確信しました。日本の抱える問題は、特に高齢化の文脈にあり、アメリカのそれとは少し異なります。しかし、各国で何が起きて、どのように奮闘しているかが、お互いに将来のロールモデルとなるでしょう。「Think globally, act locally(世界的視野を持って、地域の現場で行動する)」という有名なフレーズがますます好きになりました。
私はこのプログラムが今後も末永く続き、ますます多くの医療従事者が関わることを願っています。ジェファーソンの関係者の皆様、日本センターのスタッフの皆様に深く感謝しております。