米国財団法人野口医学研究所

エクスターン研修報告書

糸魚川総合病院 後期研修医松尾光浩

2015年2月ハワイ大学

今回、野口医学研究所の臨床留学プログラムの一環として、米国でのエクスターン研修という貴重な機会を賜りました。私は米国でのインターン研修を視野に入れていないため、米国での卒後医学教育を見学することが主たる目的でした。20152月の3週間をクアキニ医療センター(KMC)での内科レジデント研修を、残りの1週間をKMCに隣接するフィジシャンズタワーでプライマリケア医療の見学をさせて頂きました。

KMCの内科レジデントチームは4チームあり、各チームはUL(PGY 2-3), R1 (PGY1)およびMS3(医学部3年生)の3名で構成され、主な業務は入院が必要となったプライマリケア医の患者さんの病棟管理を行うことです。毎日朝5時過ぎよりR1およびMS3が病棟回診を始めて7時頃にULが合流し、その後は各科の専門医、プライマリケア医およびホスピタリストと相談しながら治療方針の決定を行っていました。その合間に平日毎日行われる集中治療医へのプレゼンテーション、週2回の症例報告および週3-4回の講義、週2回のattendingとの回診、そして火曜日の午後はクィーンズ医療センターでの講義に割り当てられています。インターンだけでなくレジデントも医者としての労働力というよりは、教わる身であるという意味合いが強いという印象を受けました。救急外来を含む外来業務はないためインターンおよびレジデントの仕事量の絶対値はそれほど多くないのですが、プレゼンテーション、カルテの正確な文書化および後輩への教育などの日本とは少し異なる部分に重点が置かれていました。医師の仕事はいわゆるオンオフが明確であり、日本のように長い時間病院に滞在することはありません。オフを作るためには正確な申し送りが不可欠となることから、必然とプレゼンテーションの機会が多くなるのだと感じました。さらに、正確な文書化が行われていることは、医療訴訟の回避および適正な保険請求という側面が含まれている印象を受けました。一方、MS3はまだ2年間の医学教育しか終えてないにも関わらず、鑑別診断や治療方針に関する知識が豊富であり、日本で言う研修医1年目よりも実践的な医学的知識とディスカッション能力を持っていることに驚きました。今後は、機会があればメディカルスクールでの教育方法も見学したいと思います。

プライマリケアは日本出身の渡慶次医師の元で見学させて頂きました。一般内科、老年医学および小児科は当然のこと、創処置や侵襲の少ない皮膚科および整形外科的な処置、さらには婦人科領域(パップテスト)まで行い患者さんおよびその家族を全人的にケアされていました。以前は検体の細菌培養やお産まで行っていたようですが、保険料や法的な制限により現在は行っていないとのことです。医学的手技においてもefficacysafetyおよびelegantが重要な要因と考え、居合、剣道および茶道といった日本古来の文化をヒントに無駄のない合理的な「型」を作られていました。基礎研究と同様に、臨床においてもバラツキを少なくして再現性良くすることは重要であることに気づきました。さらに渡慶次先生は世界史、医学史にも造詣が深く、私に様々な価値観を教えて下さいました。

私は薬学部出身の薬剤師でもあり、米国での医師以外のコメディカルの役割も見学したいと考えていました。特別な配慮を頂き、KMCの薬剤部を見学する機会も頂きました。日本と比較して米国では、①pharmacy technicianが調剤業務を行う、②処方権(リフィル)がある、③予防接種が可能などの違いがあります。KMC薬剤部では②と③は行っておらず見学はできませんでしたが、薬剤部主任より米国での薬剤師の仕事について話を伺うことが出来きて貴重な経験となりました。また、日本にはない職業、例えばRespiratory therapistおよびPhlebotomistの方にも話を伺うことができ、非常に興味深いと感じました。

毎週木曜日の夕方はリトル先生による、英語でのcase presentationの練習を行いました。リトル先生はレトリックを専門としており、またこれまでに多数の日本人医師および医学生を指導した経験があります。私もcase presentationを通して、日本人が間違えやすい発音の間違えをたくさん指摘して頂きました。リトル先生の温かい人柄にも助けられ、有益でかつ楽しい時間を過ごすことが出来ました。

4週間のエクスターン研修を終えて、日本の医学教育および医療システムの良い点と悪い点を意識するように成りました。米国の研修制度はシステマチックで個々の医師のレベルのバラツキが小さく標準化されており、いわゆる選手層が厚く、少数のスター選手で成り立っている日本とは大きく異なっています。一方、米国の医師は自由な時間も給与も多い反面、医療訴訟や医療保険などの制約が大きく、業務内容にも影響が及んでいる印象があります。その点で、日本は手技を含め自由度が大きく、理想とする医療を提供しやすい環境にあるような気がします。たった四週間の実習でありましたが、一人の医者として、また一人の日本人として見つめ直すことが多く、実りあるものになったと達成感があります。

本実習中の機会を賜りましたIzutsu Satoru副学長およびMiki Nobuyuki副院長、ご指導下さいました渡慶次仁一先生、支援頂きましたThomas DeLeon先生およびPaula Uchima様に深謝申し上げます。お世話になったMCTチームBの皆様、レジデントの先生方に感謝申し上げます。野口医学財団および糸魚川総合病院、最後に1ヶ月間の旅を許可してくれた家族に感謝致します。