米国財団法人野口医学研究所

Thomas Jefferson University Clinical Clerkship Program 研修レポート

大阪医科薬科大学 6 年岸本裕里子

2025年9月19日〜9月26日米国トーマス・ジェファーソン大学

野口医学研究所による岸本先生のクリニカルクラークシップでの研修レポート

はじめに
このたび野口医学研究所のご支援により、Thomas Jefferson University において研修の機会をいただきました。限られた期間ではありましたが、複数の診療科や教育プログラムを体験し、現地で活躍される医師・研究者の先生方との交流を通じて多くの学びを得ることができました。
本報告書では、研修内容を振り返り、そこで得られた知見と今後の展望について記録いたします。

診療科ごとの研修
【Internal medicine】
アテンディング、フェロー、レジデント、学生等で構成された複数のチームに加わり、回診やカンファレンスに参加しました。レジデントや学生が積極的に意見を述べ合い、治療方針を多角的に検討している様子は非常に印象的でした。ある患者をめぐり、検査結果の解釈や薬剤の選択について多様な視点から議論が展開される場面では、学生を含めた全員が診療を深めていく姿勢を実感しました。
また、新患のプレゼンテーションを担当する機会もいただきました。英語で情報を組み立てや自分の見解を表現する難しさを痛感しましたが、臨床現場におけるコミュニケーション能力の重要性を改めて認識し、今後の学習意欲をさらに高める大きな契機となりました。

【Emergency Medicine】
救急外来では、重症から軽症まで多様な患者が次々と来院し、限られた時間で診断と治療が進む様子を見学しました。特に印象的だったのは、日本の救急外来で見る患者層とは疾患の種類が大きく異なっていた点です。社会背景や医療システムの違いを反映していると感じ、国ごとに救急医療の在り方が変わることを実感しました。
また、患者さんを割り振っていただき、問診や身体診察、エコーでの診察を学ばせていただく場面もありました。学生に積極的に経験を積ませる教育文化が根づいていることを強く感じました。

【Simulation Class】
Dr.Majdan に心音シミュレーター Harvey を用いたレクチャーをしていただきました。実際の患者で遭遇することの少ない疾患の心音を再現しながら、診断のプロセスを考えるトレーニングは非常に勉強になりました。受け身の学習ではなく、自ら思考を言語化する過程を通じて臨床推論を深める経験に繋がったように感じます。知識を実際の診療にどう結びつけるかを意識させる教育方法は新鮮な体験であり、診察技術や思考プロセスを体系的に学ぶ重要性を改めて認識しました。

【Family medicine】
外来診療では、十分な時間をかけて患者の生活背景や家族状況にまで踏み込んで対話が行われていました。私の指導医の先生は 20 年、30 年にわたり同じ患者やその家族を診療しており、長年にわたる信頼関係に基づく医療の在り方を目の当たりにしました。
診療では、患者が自らの意思を明確に述べ、治療方針決定に積極的に関与していました。医師がその意見を尊重し治療方針に反映させる姿は、患者主体の文化が根付いていることを理解する貴重な経験でした。さらに、複数科に通院する患者に対しては受診のタイミングを調整するなど、家庭医が地域医療のハブとして機能している姿を学ぶことができました。

【Pediatrics】
小児科外来では、子どもの症状や成長だけでなく、保護者の不安にも丁寧に耳を傾ける姿が印象的でした。医師が母親の声に真摯に向き合い、医学的説明に加えて心理的な安心を与える場面から、小児科が家族全体を支える診療科であることを感じました。

【Dermatology】
皮膚科の実習では、多様な疾患を診る機会があり、特に自己免疫疾患について指導医から詳しい説明をいただき、自分の関心領域への理解を深めることができました。実際の症例を通じて臨床像や診断の考え方を学べたことは大変貴重な経験でした。一方で、アメリカの医療制度に関わる現実も目にしました。保険の適用範囲が患者によって異なり、治療の選択に直接影響しているケースがあったことは強く印象に残りました。医療の現場では、医学的判断だけでなく社会的要因も診療を左右することを実感しました。
さらに、英語を母国語としない患者に対しては Video Remote Interpreting や電話通訳を通じて診療が行われていました。遠隔通訳者がリアルタイムでやり取りを仲介する仕組みは、多文化社会における医療の在り方を学ぶ機会となりました。

•JeffHOPE
JeffHOPE では、ホームレスや低所得者層を対象としたクリニックの活動に参加しました。学生主体で運営されており、問診から診察、必要に応じた薬の提供までが行われている点に強く印象を受けました。
実際に現場を見て感じたのは、医療そのものだけでなく、衣食住や生活環境への支援が患者の健康と直結しているという現実です。アメリカ社会の中で医療保険を持たない、あるいは利用できない人々が一定数存在するという状況に直面し、医学的知識だけでなく社会的背景を理解したうえで診療に臨む必要性を実感しました。

•現地で活躍する日本人医師・研究者の方々との交流
研修期間中には、現地で活躍されている日本人の研究者や臨床医の先生方から直接お話を伺う機会がありました。海外で研究や診療に従事されている先生方から、日々の活動内容やキャリア形成の経緯について具体的にお話しいただき、大きな刺激を受けました。
特に、研究と臨床をどのように両立させているのか、また海外で働く際に直面する課題ややりがいについて伺えたことは、将来の進路を考える上で大変貴重な経験でした。日本にいるだけでは得られない視点を知ることができ、自分自身の将来像をより具体的に描くきっかけとなりました。

•学びと今後の展望
今回の研修を通じて、アメリカにおける医療の多様性と柔軟性を強く実感しました。学生が主体的に診療に関わる教育スタイルや、患者自身が治療方針に積極的に関与する文化は、日本で学んできた医療との大きな違いであり、自らも今後さらに積極的に学びに臨む姿勢を持つ必要性を感じました。
また、幅広い診療科の研修を通じて、医学的知識だけでなく、社会制度や生活背景が診療に大きく影響していることを学びました。特に JeffHOPE の活動では、生活環境や社会的背景を踏まえた支援が健康と直結していることを知り、医師として社会の中で果たす役割の大きさを改めて考える機会となりました。
授業や診療はすべて英語で行われましたが、自分なりに理解できた部分も多く、臨床の内容については十分に対応できていると感じられたことも大きな収穫でした。一方で、現地で出会った学生や他の参加者の知識や主体的な姿勢には大きな刺激を受け、自分もさらなる努力が必要であると痛感しました。今後は英語力を一層高めるとともに、臨床・研究の双方で積極的に学び続けていきたいと考えています。
将来、医師として長期的に患者を支える包括的な視点や、多職種・多分野と連携する姿勢は欠かせないと考えています。今回の経験を糧に、臨床力と研究力を磨き、社会的背景まで含めて患者を支えられる医師を目指したいと思います。

•謝辞
今回の貴重な機会を与えてくださった野口医学研究所の皆様に、心より御礼申し上げます。渡航準備の段階から現地での生活や研修に至るまで、事務局の皆様に手厚いご支援をいただき、安心して学びに専念することができました。特に、佐藤隆美先生、佐野潔先生、Stellora Sunyobi 様、三宅香連様、本多愛美様には多大なるご支援を賜り、心より感謝申し上げます。
また、Thomas Jefferson University の先生方、日々の診療や教育において多大なご指導をくださった指導医の先生方にも深く感謝申し上げます。Dr. Nicholas Runeare、Dr. Jordan Feingold-Link、Dr. Joseph Majdan、Dr. Sweta Subhadarshani、Dr. Luke W. Barker、Dr. Susan Parks、さらに、貴重なお話を聞かせてくださった Dr. Sota Deguchi、Dr. Wataru Goto、Dr. Shunsaku Maeda、Dr. Miyuki Hayashi に厚く御礼申し上げます。さらに、共に研修を過ごした参加者の皆さんからも多くの刺激を受け、学びを共有できたことは大きな財産となりました。また、現地で生活面を支えてくださった TJU Japan Centerの Yumiko Radi 様、Vincent Gleizer 様にも深く感謝いたします。
多くの学びと成長の機会を得られたのは、皆様の温かいご指導とご協力のおかげです。ここに改めて心より感謝申し上げます。誠にありがとうございました。

修了式にて、Dr. Lau と一緒に研修を行ったメンバーと 修了式にて、Dr. Lau と一緒に研修を行ったメンバーと
Dermatology のチームメンバーと Dermatology のチームメンバーと
Family medicine でお世話になった Dr. Parks と Family medicine でお世話になった Dr. Parks と