Thomas Jefferson University Clinical Clerkship Program研修レポート

はじめに
2026年9月19日から26日にかけて、米国フィラデルフィアのトーマス・ジェファーソン大学(Thomas Jefferson University, TJU)においてクリニカル・クラークシップに参加しました。
内科・腫瘍内科・救急・小児科での実習に加え、JeffHOPEでの活動や講義を通じて、米国の医療提供体制と医学生教育を幅広く学ぶことができ、大変貴重な経験となりました。
本実習の目的は
①患者さんとのコミュニケーションに必要なプレゼンテーション力を把握すること。②MS3・MS4・インターンの具体的な業務量と役割分担を現場で確認すること。
の2点でした。
なお、私は現在ハンガリーの医学部に在籍しております。本稿における比較や考察は、主としてハンガリーでの経験との対比に基づいております。
Internal Medicine 内科
今回、内科の回診に参加させていただきました。チーム構成は、attending 1名、chief resident 1名、resident 2名、M4 1名、M3 2名、薬剤師 1名でした。
回診の進め方自体はハンガリー・米国で大きな差はないと感じましたが、学生の責任範囲(responsibility)の広さには驚きました。
米国では医学部4年制で、3年次(MS3)から臨床実習が開始されます。MS3は原則1日あたり2名までの入院患者を受け持ち、入院から退院まで継続してフォローします。発表後には、診断推論や治療方針に関する具体的なフィードバックがあり、Attending だけでなく Resident からの補足指導も随時入りました。
ガイドラインや副作用対策まで踏み込んだ議論が行われ、教育が標準化・システム化され、日常業務として定着していると感じました。
日本でも一般的に用いられていると伺いましたが、ハンガリーではSOAP形式(Subjective/Objective/Assessment/Plan)は日常的には使われておりません。
こちらの回診でもSOAP が一貫して用いられ、要約(S・O)→アセスメント(A)→プラン(P) の流れが明確でした。SOAP の重要性を改めて実感するとともに、実際に練習する良い機会となりました。
Outpatient Oncology 腫瘍内科
将来腫瘍内科を志望している自分にとって、最も関心があったのは、医師たちの患者へのコミュニケーション方法と働き方でした。実習では、実際に患者さんへがんの診断が告げられる場に立ち会う機会を得て、医師の言葉の選び方や姿勢に深い感銘を受けました。
医師たちは、患者の話に真摯に耳を傾ける一方で、治療に関しては正直かつ率直に説明し、全ての選択肢を提示する姿勢を持っていました。そこには「Patient Autonomy」という概念が体現されており、患者の意向を最大限に尊重する医療を目にすることができました。将来、自分も同じように患者と向き合える医師になりたいと強く感じました。
また、多くの腫瘍内科医の先生方とお話しする中で、日米のSpecialization(専門分化)の違いが明確になりました。日本やハンガリーでは、疾患別の腫瘍内科医というより臓器別専門医ががん治療を担うことが一般的で、たとえば肺がんは呼吸器内科が主に治療します。これに対して米国では、Hematology–Oncology フェローシップを修了したMedical Oncologist(腫瘍内科医)が中心となり、放射線腫瘍医や外科を含むチームと連携して multidisciplinary care を提供します。
先生方の表現をお借りすると、Medical Oncologist はまさにがん治療の「ゲートキーパー」です。多領域の専門家を束ね、最適な治療方針を主導していると強く感じました。
Pediatrics and Family Medicine 家庭医療科・小児科
小児科と家庭医療の現場でシャドーイングさせていただきました。担当してくださったお二人の先生は、どちらも非常に温かく、誠実な方々でした。診療の場面では、患者さんが「この先生は命の恩人です」とおっしゃる姿も見られ、先生方への厚い信頼を感じました。先生は教育熱心で、積極的に教えてくださり、ささいな質問にも丁寧に答えてくださいました。フェローとアテンディングはフラットで親しみやすく、必要なときに的確な指導が入る体制があり、働きやすいように見受けられました。
Meeting with PhD Students and Post-docs PhDの学生・ポストドックとの対談
今回、PhD やポスドクのポジションでご活躍されている方々とお話しする機会をいただきました。私自身、将来的に PhD 取得を目的に渡米する選択肢も考えているため、非常に貴重な経験となりました。
PhD の修了要件自体はヨーロッパや日本と大きくは変わらないものの、米国の研究室は知名度や資金規模の面で優位な場合が多く、自分のやりたい実験やテーマを比較的自由に進められ、資金面の支援も得やすいという利点があると感じました。
今回の対話を通じて、自分が何を優先したいのか(研究テーマの自由度、教育環境、将来のキャリアパス)を具体的に見直すきっかけになりました。
全体としての感想
今回、アメリカの医療を目の前で見ることができ、非常に貴重な経験となりました。今後アメリカで働くうえで、私自身がどの力を伸ばすべきか(臨床での説明力・英語での記録とプレゼンなど)が具体的に見え、視野が大きく広がりました。この経験すべてを糧に、海外で働くための努力を継続してまいります。
制度面では、アメリカの医療は高い専門分化(compartmentalization)が進んでおり、各領域でスペシャリストが力を発揮している一方、医療保険制度やビジネス的側面の影響も感じました。受けられるサービスが保険や経済状況で左右されうる不安が患者さん側に生じる点は、課題だと認識しました。
その一方で、医師の患者さんに向き合う姿勢は強く心に残りました。こうした姿勢は、今後の自分の臨床でも大切にしていきたいと感じています。
謝辞
最後に、このような貴重な研修の機会をいただけたことに、深く感謝申し上げます。
将来米国での勤務を目指す私にとって、本研修は大変有意義な経験となりました。
野口医学研究所の佐藤先生をはじめ、Thomas Jefferson Universityにてご指導くださったDr. Majdan、Dr. Perkel、Dr. Runeare、Dr. Mille、Dr. Filicko-O’Hara、Dr. Carlo、Dr. Hayashi、Dr. Maeda、Dr. Gotou、 Dr. Deguchi、Kevin Kim、さらにJapan CenterのRadi様、Vincent様、そして本研修にご尽力いただいたすべての皆様に、心より御礼申し上げます。


