米国財団法人野口医学研究所

野口医学研究所エクスターンレポート

奈良県立医科大学附属病院小児科北野泰斗

2018年6月フィラデルフィア小児病院

野口医学研究所のエクスターンまで

私は医学部5.6年の海軍病院のエクスターンで臨床留学に興味を持ち、USMLEを学生・初期研修で終わらせました。将来は地元の医療に少しでも貢献したかったため、小児科後期研修を奈良で行いながら、論文執筆やOnline MPHなど日本でできる準備を一歩ずつ行ってきました。後期研修1年目・2年目では休暇期間に渡米し、現地の日本人の臨床医の先生のお話を伺うことで臨床留学にチャレンジしようと思い、野口のエクスターンに申し込みました。無事合格することができ、Nemours duPont Pediatrics, PhiladelphiaNemours/Alfred I. duPont Hospital for ChildrenObserverの機会をいただくことができました。

 

Nemours duPont Pediatrics, Philadelphia

まずはThomas Jefferson University Hospitalの一角にあるこの外来施設でのObserverの機会をいただきました。患者の7割程度がWell child visitという日本でいう健診の患者です。ただし、日本と大きく違うのは小児科医がしっかり時間を使い、健康や生活の指導・カウンセリングを行っていることです。1人当たり15~30分かけて、成長・発達はもちろんのこと、食事・排泄・睡眠・学校生活などのスクーリングの質問を全員にしていきます。さらにTeenagerには、親を一旦外へ出して、たばこ、アルコール、薬物、性交渉などのことを事細かに聞いていきます。多くの日本の外来では患者数が多すぎて同じことを実現するのは難しいでしょうが、この基礎的なことを徹底して問診し、情報を広い、適切にアドバイスすることこそが米国General Pediatricianの凄みだと思います。ワクチンのスケジュールはロタ、子宮頸頸癌、ムンプス、Tdapなど日本が追い付いていないところもしっかり定期接種でカバーしており、TeenagerへはHIVとGonorrhea/Chlamydiaのスクリーニングを全員にしているなど、予防医学に対してはまだまだ日本は遅れをとっていると感じました。学生・レジデントは最初に患者を問診・診察してAttendingにAssessmentとともにプレゼンし、フィードバックをもらうということも徹底されていました。なかなか日本で経験できないこととしては、Sexual Minorityへのカウンセリン、STI、母親の薬物中毒などがありました。

 

Nemours Alfred/I. dePont Hospital for Children

こちらではGeneral Pediatricsの病棟のObserveをさせていただきました。レジデントは朝6時半から当直帯のSign outを受けて、カルテをチェックして患者を診察し、8時半からのカンファレンス、その後のAttendingとのチーム回診で午前は終了します。昼のカンファレンスがあり、午後は比較的ゆったりしており、チーム回診で決まった方針のオーダーや、新入院があればその診察などを行います。やはり日本に比較すると入院日数が短く、PICUから病棟にもどった翌日に退院などもよくみられました。チーム構成は学生2人、レジデント3人にAttendingという構成で10人前後の急性期の患者を担当していました。チーム回診でのディスカッションには保護者も参加し、情報や治療方針を共有していました。ここでも指導医がレジデントを教育する、レジデントが医学生を教育するという文化が根付いており、教育に重きを置くアメリカ医療を見ることができました。

 

Observerという立場ではできることが少ないのですが、Discussionには加わることができます。そこでの積極的な発言でチームに貢献すれば評価してもらえる可能性はあると思います。Discussionなどで積極的に発言するためには、Uptodateなどの2次文献や論文をすぐに参照できる環境は手に入れておくべきであると思います。例えば、朝の6時半のSign outの時に新入院の患者でDiscussionのPointになりそうなTopicをUptodateで調べておくとMorning roundで発言しやすくなります。これらのことはObserverの期間中に、Nemours Alfred/I. dePont Hospital for Children, Cardiac centerの津田先生からアドバイスいただいたものです。津田先生に深く御礼申し上げます。

今回の研修で米国医療の良いところ、上手くいっていないところを直接見ることができました。細かい問診・診察を行い鑑別・アセスメント・プランを立てるという基礎の繰り返しが徹底されていること、教える側が教育にしっかり時間をとり教育を受ける側もそれにしっかり答えていることなど、自分がなかなか日本でできていないこととして反省し、改善していこうと思っております。逆に、エコーやグラム染色なども含めた全般的な手技の機会は日本の方が多いでしょう。こちらでは個々の患者の保険の問題で医療の制限がかかったりすることも多く、日本の方が保険制度のために臨床的に困ることは少ないとも思いました。

 

謝辞

今回のエクスターンをArrangeしてくださった野口医学研究所の木暮さん、Thomas Jefferson University, Japan CenterのYumikoさん、Riekoさん、Nemours duPont Pediatrics, PhiladelphiaのDr. LoSasso、Nemours/Alfred I. duPont Hospital for ChildrenのDr. Foo, Dr. Fox、Cardia centerの津田先生、多くのレジデントや医学生を始め、サポートしていただいた皆様に深く御礼申し上げます。