米国財団法人野口医学研究所

CHOPでのエクスターン研修

松戸市立総合医療センター 小児科 後期レジデント内山知佳

2018年12月フィラデルフィア小児病院

この度は野口医学研究所の皆様のおかげで米国ペンシルバニア州のフィラデルフィア小児病院(The Children’s Hospital of Philadelphia) に2018年12月に1か月間エクスターン研修に行かせていただきありがとうございました。

 

1か月間General Pediatricsに所属させていただき病棟回診、様々な外来、grand round、morning reportに参加させていただきました。日本との違いで印象に残ったものをいくつか挙げていきたいと思います。

 

  • 病棟回診

レジデント、医学生は6時頃よりプレラウンドを開始し夜間の様子をカルテで確認し、患者さんの診察をします。7時半よりMorning Reportがあり、レジデントの症例報告や、他科の先生からのレクチャーが行われます。8時からAttendingを交えてのラウンドが始まります。体制はAttendingが1人、3年目のレジデントが2人、インターン5人、学生2人です。レジデント1人の担当は5人程度なので11人をじっくりみられるようになっているようです。ラウンドには希望があれば患者家族が同席しディスカッションに加わります。1人の患者さんに長いと20分ぐらいかけてプレゼンテーション、ディスカッション、症例にまつわるティーチングを行います。手の空いているインターンはその間、今日行うことのオーダーをその場でカルテに入力するため、効率的にその場で全てができる仕組みになっています。日本では連日カルテ記載や調べ物で遅くまで残り、疲れた顔をしたり体調を崩したりするレジデントが多い印象ですが、こちらでは夕方は当直医へ申し送りさっさと帰宅するためみんな元気に生き生きと働いています。当直明けも申し送ったら朝8時か9時までにさっさと帰宅します。

35年の経験を持つ大ベテランのDr. Stephen Ludwigの診療につきました。見学の日の患者さんはみんなwell child visitという定期健診が目的で、18か月から22歳まで、大学の冬休み期間なので思春期が多かったです。米国小児科学会のBrightFuturesというHealth supervisionのガイドラインでは21歳まで載っていますが、Dr. Ludwigは大学卒業まで見てから内科に回すことが多いと言っていました。2007年に日本小児科学会は小児科の対象年齢を中学生までから成人するまでに引き上げていますが、特に新患は15歳までで見ているところがほとんどだと思うので、思春期の子たちのhealth supervisionを見られたのは貴重でした。Dr. Ludwigの長年の経験の中で、生まれた時からずっとこの子を見てるよとか、この子のお母さんもずっと診てたんだよとか、この子は3世代みてるよという家族も多かったです。健診なので身体的な問題もなく精神的に落ち着いていて学校も楽しんでいる子がほとんどでしたが、思春期だとemotionalやbehavioralな問題を明かす子もいました。日本でも思春期が宙に浮かないように医療機関も積極的に関われたらいいなと思いました。

  • 社会的支援につなげる

外来を見学していた時のことです。小児科医が家庭の状況を問診し、両親が別居していることがわかりすぐに母に「人生の転機では経済的に困る人が多いけどいかがですか?ごはんは食べてますか?」と聞きました。患者の母は「借金があるわ。ごはんは食べてるけど・・・たくさんではない」と。その場でソーシャルワーカーにバトンタッチし社会的リソースの紹介をしていました。病院のあるペンシルバニア州の公的なプログラムで、一定以下の世帯収入の家庭に一時的に食物が買えるようデビットカードを渡すものがあります。スーパーなどで使用できて食物以外のものには使えないようになっています。4人家族で一月最高で$642(7万3千円)の支援で、これまで460万人以上を助けてきているようです。その他にもNGO組織のフードバンクなど様々なリソースがあり同時に患者に紹介します。日本でも子ども食堂やフードバンクなどボランティアの方々の努力で行われていますが、より持続可能な支援の仕組みが必要と思われました。

 

  • プライベートパーツの診察

プライベートパーツは外陰部、日本では「水着で隠れるところ」と言うことが多く女児の胸部も含むことがあります。米国では4歳の健診の時からプライベートパーツを教えます。外陰部の診察の際、「ここはお母さんとお医者さんしか見ることができないの、私は大丈夫、私は医者だし、お母さんも私がみて大丈夫って言うから。他の人が見たり触ったりしちゃいけないところなの、わかった?」と子どもに確認してから診察します。4歳以降は健診でも救急外来でも毎回毎回プライベートパーツを診察するときはこの確認をしていきます。早期から子どもを守るために必要ですし、性的虐待を受けた子を診察するCAREクリニックでも幼児の患児も多く適切な年齢と考えられます。日本でも性教育に関わる大人の一人として小児科医が存在することが必要なのではないでしょうか。

 

  • パンプタイム

こちらでも授乳中の女性の医療スタッフがたくさん勤務しています。州によって異なりますが6-12週の産休後、仕事に戻る人が大多数です。就業時間内でも午前に1回、午後に1回程度、搾乳(パンプ)休憩をとります。”I have to go pump”と言って持ち場を離れ搾乳が終わったら戻り仕事の続きをします。みんなが当たり前にやっていることなので、何の違和感もなく行われています。女性が妊娠中・産後に仕事を続けるのが当たり前とみんなが思っているからこそのサポートもあり、今後日本でも工夫が必要かもしれないエリアです。

 

以上のように、日本では見ることのできない医療機関での様々な側面を学ばせていただきました。この経験を無駄にしないよう日本の小児医療にも少しでも貢献していけたらと思います。また、今後も米国でも教育を受けられるよう励みたいと思います。

 

Acknowledgement

最後に、このエクスターン研修を可能にしてくださった野口医学研究所の先生方(特に選考試験の講評をいただきました佐野先生方)、事務的なやりとりをスムーズにしていただいた杉田さん、三宅さん、木暮さん大変ありがとうございました。また、CHOPで科の枠を超え希望を最大限考慮しスケジュールのアレンジをいただいたChris Hickeyさん、General PediatricsのRebecca Tenney-Soeiro先生をはじめ、Ludwig先生、Kost先生、Freidman先生、ランダムな質問に快く答えてくれたフェロー、レジデント、医学生、看護師、作業療法士、ソーシャルワーカーの皆様もありがとうございました。

 

皆様のおかげで大変貴重な経験を得られました。自分だけの経験でなく、同僚や他の施設の方と経験を共有していきたいと思っています。