米国財団法人野口医学研究所

Children’s Hospital of Philadelphia研修レポート

野口医学研究所の研究生池田早希

2009年3月フィラデルフィア小児病院

私は2014年9月下旬の2週間、野口医学研究所の研究生としてChildren’s Hospital of Philadelphia(以下、CHOP)の小児科でObservershipをさせて頂きました。

 

 

研修の目的

 

研修の目的は、まず、日米の小児科研修や小児医療の違いを経験すること、また、私は米国での臨床留学を目指しているため、Pediatric Residentとして働くために自分に何が必要なのか、何が今後の私の課題となるのかを見極めることでした。

 

 

2週間の研修内容

 

当初では、General Pediatricsの研修のみの予定でしたが、回診終了後の午後は、自分で交渉して予定を立てる必要がありました、

私は、日米の小児医療の違いを考察すべく、できる限りのものを見たいという思いをcoordinatorのChristopher Hickeyさんにお伝えしたところ、Emergency DepartmentやPICU等、他の科もobserveさせていただく事が出来ました。PICU研修に関しては、CHOPで集中治療のAttendingをされている西崎先生のお力添えゆえに可能となり、この場をお借りして深く感謝致します。

General Pediatrics

 

一週目と二週目では異なる病棟で研修し、一週目の4 West病棟ではGeneral PediatricsとIntegrated Care Serviceという何らかの基礎疾患を持つお子さんがいる病棟で、二週目の5 East/South病棟では、General Pediatrics以外にHematology, Allergy, とRheumatologyの疾患で入院している患者さんの診療を、見学しました。

医療チームとしては1人のAttending, 2人のシニアレジデント(レジデント2年目, 3年目), 4-6名ほどのIntern(レジデント1年目), 2名の学生で構成されるチームで、患者さんをみていました。

 

一日の流れとしては6時ごろよりInternや学生が診察しているのをshadowingし、7時30からラウンドに参加し、昼はnoon conference、午後は病棟業務を見学し、5時ごろLong call担当の医師(5時から夜勤担当医が来る7時までの診療をカバーします)への申し送り後、終了するという流れでした。

 

Observerという立場だったので実際に診療や診察にあたることはできませんでしたが、できる限りdiscussionに参加し、質問をする姿勢を心がけました。Discussionへの参加に関しては、現職場である神奈川県立こども医療センターで、基礎疾患を持つ患者さんを沢山診ており、そこで学んだ知識や経験や、学会発表や院内発表をした際に得た知識が多いに役立ち、有難く思いました。

また、チームを仕切っているSenior Residentに何かチームにcontributeできることがないかを、相談し、偶然3名も入院していた糖鎖異常症という疾患ついて1枚にまとめ、presentationをしました。少し緊張はしましたが、感謝してもらい、貴重な経験でした。

 

 

Pediatric Infectious Disease

 

将来、米国でPediatric Infectious DiseaseのFellowshipをすることを目指していますが、実際の診療を見たことがなかったので、CHOP滞在中にPediatric Infectious Diseaseの医師からお話しだけでもお聞きしたいと思っていました。Hickeyさんと相談していたところ、Pediatric Infectious Diseaseのcoordinatorにも掛け合ってくださり、また、自分自身も病棟にPediatric Infectious Diseaseのチームがコンサルトを受けにいらした時に、将来の目標をお伝えしたところ、まずはNoon Conferenceへの参加の許可を頂きました。その流れで、二週目の空き時間に、Pediatric Infectious Diseaseのチームにも参加させていただくことができました。この経験から、米国は、熱意があり、基本的なルールを押さえていれば、チャンスをくれる、寛大な国なのだと改めて実感しました。

 

Pediatric Infectious Diseaseの病棟業務としては、一般的なコンサルトと、免疫不全のある患者からのコンサルトを請け負うチームに分かれており、私は一般的なコンサルトを受けるチームに配属されました。午後のラウンドでは約20名のコンサルトを受けた患者を、病棟を回りながらFellowや学生がプレゼンテーションをし、治療方針を決め、患者や家族のお話、診察を行う、という流れでした。チームには2名のFellowと、2名の学生がおり、回診途中でも新たなコンサルトがあれば誰かが抜け、情報収集をし、迅速な対応ができるようなシステムになっていました。患者さんの疾患としては、VPシャントがある患者の髄膜炎、側弯症術後の異物が入った上での創部感染、NICUでのカテーテル感染等の日本の小児病院でも診るような症例の他に、ライム病疑いやSTD疑いの患者さんもいて、興味深く学べました。

回診以外では、Pediatric Infectious DiseaseのClinical conferenceやJournal club、Microbesという微生物検査関連のセッション(参加したトピックは便検体の培地や検査方法について)やLecture(参加したトピックは真菌感染について)に参加し、恵まれたFellowship Programなのだと実感しました。

最終日にはPediatric Infectious DiseaseのClinicにも参加させて頂き、学生やFellowをフォローして、一緒に熱を伴う慢性下痢症、内服治療に移行している骨髄炎患者等の患者さんを一緒に診させて頂きました。

 

 

日米の研修の違いについて

 

冒頭にも述べましたが、今回の研修の目的の一つは、日米の研修の違いについての考察でした。私は沖縄県立中部病院で初期研修(小児科専攻プログラム)を、神奈川県立こども医療センターで小児科後期研修を行ってきましたが、両病院の研修はいずれも実践的なプログラムであり、膨大な数の患者さんの診療をしながら学べるとても良いプログラムでした。

 

日本は米国と比較して圧倒的に医療者の数が少ないため、医療者一人一人の果たすべき役割が多いと思います。一般小児科医が腸重積の整復を行い、最低限の心エコーを行い、点滴を確保し、呼吸器を設定しというのは米国では想像できないことかもしれません。そのような診療ができるように、小児科研修医は多様な経験から学び、手技を含め、幅広く診療に当たる必要があり、自らが幅広く経験できるという強みがあります。実際に、カンファレンスからだけではなく、自分で診療しなければ、学べないこともあります。例えば、Ehlers-Danlosの患者さんの皮膚の感じ(Velvety skin等)は、実際触ってみなければ分かりません。また、呼吸不全に陥った患者さんの診療においては、最初から最後まで、自分自身が行った治療に対する反応の過程を実際自分の目で診ていくことで学びとして得られるところも多いと思います。一方、知識に関しては、指導医レベルの先生方はご自身の診療で多忙のため、自分で文献や教科書から学ぶことになります。その姿勢は、一生学び続ける必要がある医師としては、すごく大切なところだと思います。しかし、その分、労働時間や仕事後の勉強時間は長くなり、家庭がある場合は大変です。また、自分の診療へのフィードバックをもらう機会が乏しく、他の医師の思考過程(Clinical Reasoning)が表に出ず、学べないため、「自己流」の診療になってしまう部分があります。Patient Safetyを考える上でも、ある一定のレベルで医療のStandardize化は必要と考えます。

 

一方、米国では午前中に数時間もかけて回診を行い、Internはプレゼンテーションで患者情報だけでなく、自分の思考過程を伝えます。また、指導医(AttendingやSenior Resident)もなぜそのような判断をしたのか質問をし、”Clinical Reasoning”を鍛えます。また、Feedbackをする文化が強く根付いており、診療やPresentationに関してAttendingやSenior Residentが学生やInternにアドバイスをしている光景をよく見かけました。

教育に時間をかけている分、一人一人が担当する患者の数は少なくなりますが、そこはチームで回診して情報を共有し、担当でない患者さんからも学ぶことでカバーできているのかもしれません。

 

日米は医療システムが大幅に異なるため、米国の研修手法をそのまま適応することはできません。しかし、お互いに学ぶことはできます。CHOPでの研修を元に、現職場の研修を改善する方法として、二つのキーワードがあると考えました。一つ目はClinical Reasoningを学ぶこと、二つ目はフィードバックを求めることです。自分の診察所見や思考過程を言葉にして上級医に伝え、フィードバックをもらう。今後、そのような研修を実現できるように、研修医として自ら周囲に働きかけると共に、将来、自分自身が上級医として働く上で、それらを意識し、後輩医師の育成に力を注げたらと、思います。

 

 

謝辞

 

以上のように、大変充実した2週間であり、多くのことを学ばせていただきました。このような機会を下さった浅野先生、掛橋様や木暮様をはじめとした野口医学研究所のスタッフの皆様、Kennyさん、CHOPのKingsさん、Co-ordinatorのChristopher Hickeyさん、医学教育のDirectorのBallantine先生、数か月前にCHOPでの研修をし、惜しみなくアドバイスをくださった高橋卓人先生、私を送り出してくださった所属機関の同僚や指導医の先生方、そして、全員の名前をお出しすることはできませんが、CHOPでお世話になった先生・学生・Research Fellowの皆様に、重ね重ね、お礼を申し上げます。どうも有難うございました!

 

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