米国財団法人野口医学研究所

Thomas Jefferson University感染症科研修レポート

亀田総合病院 感染症科鈴木啓之

2016年2月米国トーマス・ジェファーソン大学

・はじめに

今回、私は2016215日~34日の3週間、PhiladelphiaThomas Jefferson Universityの感染症科(ID)で研修を行った。私は、卒後11年目で、初期研修の後、救急・内科の後期研修、沖縄海軍病院の日本人インターンを経て、亀田総合病院で感染症科フェローをしている。日本で感染症のトレーニングを受けているので、日本と米国の感染症診療の違いについてはよく感じることができたと思う。また、米国でID Fellowを行うことの意義について、自分なりに再確認する機会にもなった。それらの事項も含め、自分が感じたことを研修レポートとして残したいと思う。

 

Thomas Jefferson University感染症科

Thomas Jefferson Universityの感染症科は、Attending Physician8人、Fellow4人という構成である。Fellow2学年で、1学年あたり2人である。業務内容は、大きく分けると外来・入院となるが、外来は一般感染症外来とHIVクリニックに分かれる。入院は、自分たちでは入院患者の主担当医とならず完全にコンサルテーションサービスとして併診を行う方式である。私は今回、入院コンサルテーションサービスで研修、またHIVクリニックにも参加することができた。

・入院コンサルテーションサービス(ID Green Service)

ID Green Serviceは、Fellow1人とAttending1人が最小単位、それにResident、Student、Pharmacy-residentが一緒に回診を行う、教育を目的としたコンサルテーションサービスである。その他にも、Attendingが1人で回診するID Red Service、外科の術後感染を担当するID Blue Service、骨髄移植後の患者の発熱を担当するID BMT Serviceが存在する。

私はID Green Serviceについて研修を行った。

ID Green Serviceは、常に15-20人をフォローしている。様々な理由で他科よりコンサルテーションが来るため、FellowPager(ポケットベル)は常に鳴りっぱなしである。新規の患者、フォローアップの患者の回診を午前中にFellowResidentStudentで手分けして行い、午後にAttendingと再度回診し感染症科としての推奨を主科に伝える、という診療方式をとっている。私が所属する亀田総合病院感染症科は米国の感染症科のコンサルテーションサービスと同じスタイルで診療を行っているが、その中でも自分が感じた違いは以下の通りである。

・コンサルトの閾値が非常に低く、サインオフの閾値も非常に低い。結果として患者の回転がかなり速くなっている。抗菌薬の種類・期間が決まればすぐにサインオフとなる。

・抗菌薬の初期選択にグラム染色を全く使用しない。結果初期抗菌薬は広域となる。ただ、培養結果が迅速に出るのでDe-escalationはしっかり行う。

・新規発症のHIV患者のコンサルテーションが多い。これは、発生率が高いのももちろんであるが、HIV検査をOpt out方式(18-65歳の救急外来受診患者に対し、患者が拒否しない場合自動的にHIV検査を行う)で行っていることも影響している。

・耐性菌が多い。腸球菌でのバンコマイシン耐性率、クレブシエラでのカルバペネム耐性率は軒並み日本より高い。必然的に初期抗菌薬も耐性菌を意識したものになる。

・診断ツールが充実している。Resipratory viral panel(Luminex®)Gastrointestinal Panel(Biofire®)など、日本では使用されていないが有用なキットが存在する。

・これは全科にいえることであるが、チーム内でResidentStudentが担う役割は、日本と比較して大きい。彼らが新規患者・フォロー患者の問診・診察を分担することで、Fellowの仕事がどれだけ軽減されているかは計り知れない。

 

HIVクリニック

HIVクリニックは、AttendingFellowともに週に1回行っている。Thomas Jefferson Universityの感染症科では700人程度のHIV患者をフォローしている。感染症科以外の医師にフォローされていることもあるので、HIV患者の総数はそれ以上である。FellowNurse practitionerが診察し、Attendingに報告しAttendingと一緒に話をする、というスタイルで、半日で5-10人程度の患者の診療を行っていた。

 

・その他の行事

週に1回、Microbiology roundCase conferenceHIV case conferenceBoard preparationCore lectureJournal clubと様々な行事があり、AttendingFellowを教育する機会が多く設けられていた。

 

3週間という限られた期間ではあったが、特に日本の自施設との比較しながらの研修であったので、実際の米国ID Fellowがどのような働きをしているのかを疑似体験することができたと思う。英語でのコミュニケーションも、全てを完璧に把握できるところまでは至っていないが、Attendingとディスカッションをするのは問題なかった。臨床に関しては、スタイルの違い、疾患の多様性という違いはあるが、多くのことは日本でのトレーニングで十分である印象である。HIV患者の数は圧倒的に米国の方が多いので、HIV診療のトレーニングの経験は米国の方が豊富となるかもしれない。また、ID Fellowの2年目は、より研究に重点を置いたものとなる。私が米国でID Fellowを行う最大の目的は、Clinical Researchのノウハウを学ぶことであり、それに関してはやはり米国でのトレーニングの方が恵まれた環境であろう。2015年のFellowshipのマッチングにおいて、IDは人気のない科の一つであり、138プログラム中70プログラムで欠員がでている状況である。日本人にとっても有利な状況であり、短期間で臨床、研究、教育をバランスよく習得できる米国でのFellowshipを目指す価値はあるかもしれない。

今回の研修において、渡米前の調整を綿密に行っていただいた、野口医学研究所の木暮さん、渡米後の生活に関して様々な助言、またNBAの試合に招待くださいましたThomas Jefferson Universityのジャパンセンター ラディ由美子さんには非常にお世話になりました。お二方のおかげで海外研修とは思えないほど快適な3週間でした。また、滞在中にご一緒させていただきました腫瘍内科の佐藤 隆美先生、泌尿器科の谷本 隆太先生には、暖かい激励の言葉をいただき心強い思いをしました。この場を借りてお礼申し上げます。