CHOPでの研修を終えて——生涯の宝物となる経験を振り返る

この度、私はペンシルベニア州フィラデルフィアに位置するChildren’s Hospital of Philadelphia(CHOP)でObservershipに参加する機会を得ました。CHOPはフィラデルフィアのUniversity地区にあり、周囲にはUniversity of Pennsylvania School of MedicineやPhiladelphia VA Medical Centerなどの関連施設が集まっています。また、Pennsylvania UniversityやDrexel Universityのキャンパスも点在し、歴史的な街並みとともに学問の街としての雰囲気が漂っていました。
今回の研修では、米国の医療システムを自身の目で確かめるとともに、可能な限り多くのことを学びたいという思いから参加しました。
【研修スケジュール】
研修期間は2週間で、前半の1週間はHematology、後半の1週間はGeneral Pediatricsのプログラムに参加しました。
一日の流れ
7:30 朝の講義
8:30-12:00 外来見学または病棟ラウンド
12:00-13:00 昼食を兼ねた講義/ミーティング
13:00-17:00 病棟回診のシャドウイング
【日米の診療の違い】
外来診療
Hematologyの外来にはHemostasis and Thrombosis CenterやSickle Cell Centerが併設されており、先天性出血・血栓性疾患や鎌状赤血球症の患者に対する包括的なチーム医療が提供されていました。各チームにはナース、ソーシャルワーカー、運動療法士などが所属し、専門的な視点から患者を支えていました。
日本では鎌状赤血球症を診る機会が少ないですが、African Americanの人口比率が高いこの地域では比較的頻繁に診療されており、その病態の過酷さを改めて実感しました。
また、米国の外来診療では以下のような特徴が見られました。
⚫︎診察時間は約30分と長めに確保されている。
⚫︎Nurse Practitioner(NP) が事前問診・診察・検査オーダーの立案を行い、医師はNPの診察内容を確認しながら診療を進める。
⚫︎患者や家族からの質問が多く、医師は時間をかけて丁寧に説明する。
⚫︎検査は網羅的におこなうのではなく、臨床推論に基づいて段階的に実施される。費用の高さや保険の承認が影響している。
⚫︎診断確定までの期間が長くなる傾向がある。
⚫︎一つの症例を複数の医師で議論し、診断・治療方針を決定する。
⚫︎検査結果はかかりつけ医(小児科医)に送られ、治療の開始は慎重に決定される。
入院診療
⚫︎Hematology病棟では、各症例のカンファレンスが朝8時頃から始まり、研修医はそれまでにラウンドを終えているのが特徴的でした。カンファレンスでは以下のような点が印象的でした。
⚫︎residentが主導でプレゼンし、治療方針を立案する。
⚫︎fellowやattendingが助言しながらディスカッションが進む。
⚫︎residentやfellowはリラックスした姿勢で自由に発言している。(飲み物を持ちながらプレゼンするなど、日本とは異なる雰囲気)
⚫︎担当看護師も積極的に議論に参加し、意見を述べる。
⚫︎カンファレンス後、attendingやfellowが全ての症例を回診し、必要な指示を電子カルテ(EPIC)を通じて即座に送信していました。
病棟では、特に鎌状赤血球症の患者が多く、痛みや貧血、感染症に苦しむ姿を目の当たりにしました。
General Pediatrics病棟
General Pediatricsでは、table conferenceはなく、senior resident が進行を仕切る形でラウンドが進みました。
⚫︎8時頃からラウンドが始まり、junior resident or studentが症例をプレゼンし、senior residentが助言を行う。
⚫︎それに関連した教育上の質問をjunior resident or studentに投げかける。
⚫︎Attendingがそれに付け加える形で、教育的内容のミニレクチャーを行う。
⚫︎症例はNICUやPICUから転棟してきた患者が大部分を占め、後方ベッドの役割を果たしていた。
⚫︎医療的ケア児、手術後、染色体異常症など、退院するまでのマネージメントを主におこなっていた。
⚫︎特に栄養に関するマネージメントが重視され、Parenteral Nutritionから迅速かつ無理なく離脱させることが重要視されていた。
⚫︎肺炎やUTI、川崎病などの症例も入院していた。
Sedation Unit(鎮静ユニット)
今回の研修で深く印象に残ったのが、Sedation Unit(鎮静ユニット) の存在です。
CHOPでは、小児の鎮静を専門に扱う部署があり、小児科医と麻酔科医が連携して鎮静管理を行う システムが確立されていました。
【研修を終えて】
今回の研修で多くのことを学ぶことができました。
日米の医療の違いを目の当たりにしました。全てを本邦の医療に取り入れられるわけではないですが、可能な限り取り入れて診療を改善しようと思います。
私はもう若くなく、様々な事情から留学は難しいのが現実ですが、思い切って申し込んで良かったと感じています。
私の後輩に、この貴重な経験を伝え、米国留学へのチャレンジを促していきたいと思います。
【謝辞】
今回のObservershipにおいて、多くの方々にご指導・ご支援いただきました。
特に、野口医学研究所 の医学交流担当である Stellora Sunyobi様、掛橋典子様 に深く感謝申し上げます。また、CHOPの教育担当Jodi Lamborn様 にも研修調整の面で大変お世話になりました。
Hematology研修では、Dr. Leslie J. Raffini、Dr. Char Witmer、Dr. S Benjamin J. Samelson-Jonesをはじめとした先生方に貴重な指導をいただきました。
General Pediatrics研修では、Dr. Christine Tucker、Dr. Meghan M. Galligan、Dr. Leonel Toledoにご指導いただきました。また、residentの皆様や医学生2名 にもお世話になりました。
最後に、本研修への参加を快く送り出してくださった 市立東大阪医療センター小児科部長 古市先生、奈良県立医科大学小児科学教室 野上教授 に深く感謝申し上げます。


