米国財団法人野口医学研究所

米国の医療制度や医学教育について、現場で学ぶことが できる素晴らしい機会でした

高知大学 6 年(参加当時は5年)柿沼早紀

2025年3月21日〜3月28日米国トーマス・ジェファーソン大学

野口医学研究所による柿沼さんのクリニカルクラークシップ研修レポート写真

【はじめに】
今回野口医学研究所のクリニカルクラークシップに応募させていただいた最大の理由は、アメリカでの家庭医療の実際を学び、日本で家庭医療を広めるヒントを得たいということでした。そして、1 週間の研修プロブラムを経て、本当にたくさんのことを学ぶことができました。このプログラムは家庭医療だけでなく、救急科、小児科、内科、感染症科など希望する診療科を見学できるように予定を組んでいただいており、様々な立場の先生方の視点からアメリカの医療を理解することができました。

【家庭医療科】
家庭医療に関して気づいたことは、日本に比べてアメリカでは、家庭医療が医師や患者の間で非常に重要視されているということです。日本で家庭医療に興味があると言うと大学で働く臓器専門医の先生から理解されないこともありますが、トーマスジェファーソン大学では一切なく、むしろ歓迎されていました。またアメリカでは、内科・家庭医療科・老年病科・産婦人科・小児科などジェネラルに患者を診る科の中から、患者が自分の『プライマリケア医(Primary Care Physician: PCP) 』を選ぶことが出来ますが、家庭医療科はどの科を受診すればよいかわからないときでも気軽に相談でき、病気の見落としも少ないので便利だと考える患者が多いようで、日本よりもかなり知名度が高いと感じました。
日本では家庭医療の定義や働き方が不明瞭だと感じる方が多いのではないかと思いますが、アメリカでは家庭医療科が、内科に加えて小児科・婦人科・精神科を診るということはよく知られています。また、 クリニックで診ることができる一人の患者あたりの診療報酬の上限がある程度決まっており、臓器専門医とプライマリケア医の住み分けが明確にされていると感じました。また、内科と家庭医療科を比較すると、内科ではほとんどの医師がsubspeciality を取得するところが、幅広く患者を診る家庭医と大きく異なる点だと思います。

しかし、家庭医はアメリカでも不足しており、Nurse Practitioner: NP が家庭医に似た働き方をして補っているということを知り、衝撃を受けました。日本で働く看護師と異なり、問診・血液検査などの検査・診断・処方まで自己判断でできるのですが、単独で開業することはできず主に家庭医と一緒に働いているということでした。アメリカで家庭医が不足している理由としては、給料があまり高くないということが理由だそうですが、実際に家庭医をされている先生方に伺うと、「医学部に入る前から家庭医になりたかった」と熱い志を持たれている先生が多いという印象を受けました。

【内科、小児科、救急科】
家庭医療の他にいくつかの診療科を見学させていただきましたが、特に内科、小児科、救急科が印象に残りました。これらの科に共通して言えることは、屋根瓦式の教育体制が確立していることでした。先生方も教育熱心な方が多く、あまり英語が達者でない私に対しても積極的に教えてくださり、ささいな質問にも答えてくださりました。上司と部下の関係性も日本よりフランクでありながら、お互いを尊重し褒めあうことで働きやすい雰囲気でした。
そして学生のころから医療チームの一員として、担当患者の治療方針について意見を述べることができる知識量と責任感があることも、日本とは違うと思いました。

【全体としての感想】
全体としてアメリカの医療は多くの職種に細分化されており、手厚いサービスが多くあることが分かりました。しかし、すべての人がそのサービスを受けることができるわけではなく、個人が加入している医療保険によって受けられるサービスの上限が変わる点が、日本と異なると思いました。例えば、合併症のない妊娠では2,3泊しか入院できない、川崎病の急性期治療中に心エコーは基本的に一回しか取らないなどのサービスの制限は、患者にとって必ずしもよいとは思えず、アメリカの医療は日本よりもビジネスとしての側面が強いと感じました。日本とアメリカのどちらの医療制度がよいかは一概に言えませんが、他の国を知ることで、日本の制度を外から見ることが出来た点は非常に良かったです。
最後に、野口のクリニカルクラークシップを通して、自分の英会話能力の足りなさを痛感するとともに、英語で医学の話をする楽しさが改めて分かりました。 今回トーマスジェファーソン大学で見聞きしたことの全てを糧にし、共に実習した仲間とつながりを持ち続けることで、今後も海外で働くための努力を続けたいと思います。

【謝辞】
この度は、学生のうちからアメリカの病院を見学させていただくという大変貴重な機会をくださり、大変ありがとうございました。
野口医学研究所の浅野嘉久先生、佐藤隆美先生、佐野潔先生、また Thomas Jefferson University の Dr. Akiko Kawai, Dr. Diana Cheney-Peters, Dr. Michael DiMarino, Dr. Joseph Majdan, Dr. Kelly Kehm, Dr. George Valko, Dr. Joseph DeSimone, Dr. Lindsay Becker、そして Japan Center の Ms. Yumiko Radi, Mr. Vincent Gleizer、その他本研修に関わって下さった皆様に心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

cardiac examination の授業 cardiac examination の授業
Internal Medicine の resident の 2 人と。 Internal Medicine の resident の 2 人と。