米国財団法人野口医学研究所

2025 年春 野⼝医学研究所 Thomas Jefferson University Clinical Clerkship 初めて⽶国の医療にふれてみて

京都⼤学 6 年(参加当時は5年)中嶋宏⽊

2025年3月21日〜3月28日米国トーマス・ジェファーソン大学

野口医学研究所のクリニカルクラークシップのレポート写真

【はじめに】
今回、 野⼝医学研究所様のご⽀援のもと 1 週間、 ⽶国ペンシルベニア州フィラデルフィアにございます Thomas Jefferson University Hospital にて1 週間のクリニカルクラークシップに参加させていただきました。 今回実施にあたりご協⼒頂いた皆様に感謝申し上げるとともに今回学習したことについて記させていただきます。 本レポートでは、実習を通じて学んだ内容を参加した各診療 科 ( Internal Medicine, Gastroenterology, Emergency Medicine, Family Medicine, Pediatrics) 、学⽣主体のボランティア活動である JeffHOPE、および先⽣⽅による Lecture に分けてご報告させていただきます。

【Internal Medicine】
Attending doctor, resident, medical student で構成される内科チームの回診に2⽇間同⾏させていただきました。回診の⽅法は患者の担当医(学⽣含む)が Attending doctor に患者の病態を説明、治療法を提案しディスカッションするという形でその⽅法は⽇本とほとんど同じでしたが、印象的だったのが⽇本と⽐較すると⽶国では多くの医療スタッフが細分化された業務を⾏ってくれるためチーム内の議論、そして患者とのコミュニケーションに⾮常に⼤きな時間を充てていたということです。患者さんとその家族さんに治療法や現状の悩み、家族さんの相談などに 10-15 分ごとかけて丁寧に⾏い、多くの患者さんが病気でつらい思いをしつつも満⾜そうに会話していたのが印象的でした。

【Gastroenterology】
私は消化器内視鏡に特に関⼼があり、今回の実習では外来内視鏡検査に⽴ち会わせていただきました。検査⼿技⾃体に⽇⽶で⼤きな違いは⾒られませんでしたが、運⽤体制や診療スタイルには顕著な差がありました。アメリカでは、医師、内視鏡技師(TEC)、看護師、⿇酔科医の 4 ⼈態勢で⾏われており、深い鎮静を得るために⿇酔科医によるモニタリングもあり 1 件あたり 1 時間をかけて施⾏されていました。⼀⽅、⽇本では医師と看護師の少⼈数体制で、 1 件あたり 20-30 分程度のペースで⾏うことが⼀般的です。これは、⽇本の診療報酬制度では、検査の報酬が⼀律で定められていることが⼀因であると思いました。

【Emergency Medicine】
⽶国では 1986 年に制定された Emergency Medical Treatment and Labor Act という連邦法により、⽀払能⼒の有無にかかわらずすべての患者は救急医療を受ける権利があり、 ホームレスの⽅など⽣活に困窮した⽅が多く来院します。 そのため、患者数が多く来院から受診まで 10 時間かかることも多いことを知り、救急医療の⽴ち位置の違いを学ぶことができました。 また、 ⽇本と⽐較し薬物中毒の患者数は⾮常に多く、レジデント対象の救急医療セミナーではコカインなど薬物ごとの症例を学習しており、社会背景に応じた医学教育や救急対応の在り⽅にも違いがあることを実感しました。今後は、 国ごとの医療体制の違いを理解しつつ、柔軟かつ包括的に患者を診る視点を養っていきたいと思いました。

【Family Medicine】
Family Medicine は年齢・性別・疾患を問わず全ての患者に対し、急性期から慢性疾患の管理、 予防医療、 精神的ケア、 家族単位での健康⽀援までを包括的に担う診療科です。⽇本においても総合内科/総合診療科が同じ⽴ち位置として存在しますが、 ⽶国では 1969 年から専⾨診療科として制定されています。実際に外来を⾒学させて頂いたのですが糖尿病や⾼⾎圧といった⼀般的な疾患から、 普段の⽣活での悩みなど、 まさに 「地域の健康を守る窓⼝」 としての役割を担っていることを実感しました。限られた頻度と時間の中でも患者との信頼関係を⼤切にする姿勢が印象的であり、今後の⾃⾝の診療においても参考にしたい視点が多くありました。

【Pediatrics】
Pediatrics も外来を⾒学させていただきました。印象的だったのが、⽶国では産休が⽇本より短いことが多く、⼦どもが⽣後数か⽉のときに復職される⽅が多い点です。そのため、 ⺟親が復職できるかどうかや、病院から⾃分の地域に戻った後の医療の継続など、さまざまな悩みを医師に相談しており、医療者が地域と⺟親・家族をつなぐ重要な役割を果たしていることを学ばせていただきました。

【JeffHOPE】
⽇本と⽐べ⽶国の医療制度ではすべての患者さんに均等な医療を提供することは難しく、⽣活に困窮されている患者さんはなかなか病院で医療を受けることができないのが現状です。そのような患者さんをサポートするのがボランティア活動であり、JeffHOPE もそのひとつです。Thomas JeffersonUniversity の医学⽣が医師と⼀緒に町のシェルターに⾏き、 診療から⽣活必需品の提供、 メンタルケアなど幅広いサポートを⾏っていました。 学⽣が地域の医療格差に向き合い、限られた資源の中でも現場でできることを模索し実践している姿勢に強く⼼を打たれました。

【Lecture】
・Lecture about the U.S. Healthcare System
実際に病院で実習を⾏う前に世界から⾒てもかなり複雑な⽶国の医療保険制度について、制度のマクロな視点と現場の医療者のミクロな視点から体系的に教えていただき、制度と臨床とのつながりを意識しながら実習に臨むことができました。
・Cardiac Exam Using Harvey, Approach to the H&P
患者との診療で基礎となる聴診と医療⾯接についてご講義していただきました。技術⾯だけではなく、患者の診療において患者の背景の聴取がいかに⼤事かを教えていただき、患者との診療において常に患者の全体像を把握する姿勢を⼤切にしていきたいと強く感じました。

【謝辞】
最後になりましたが本プログラムにおいて多⼤なるご⽀援をいただきました、野⼝医学研究所の佐藤隆美先⽣、佐野潔先⽣、Ms. Stellora、三宅⾹連様、本多愛美様、TJU Japan Center のラディ由美⼦様、Vincent Gleizer 様、また現地でご指導いただいた Dr. Bierowski, Dr. Civan, Dr. Kawai, Dr. Ku, Dr. Lau, Dr.Majdan, Dr. Oza, Dr. Parkel, Dr. Wickersham に⼼より感謝申し上げます。

実習を⼀緒に⾏ったメンバー 実習を⼀緒に⾏ったメンバー
Medical school 1 年⽣の⽣徒たちとの⾷事会 Medical school 1 年⽣の⽣徒たちとの⾷事会