米国財団法人野口医学研究所

PP2018に参加して

島田総合病院 総合診療科医師中田由紀子

2018年スリランカ

パシフィックパートナーシップ(以下PP)は、米国海軍を中心として、数カ国の軍およびNGOなど医療者が人道的支援を行うことが目的です。2018年度は、我々NGOに向けて約2週間に渡るスリランカでの医療活動の募集がありました。国際協力に携わりたい、また公衆衛生について勉強したいと考えていた私は、すぐに応募しました。野口医学研究所での選考は英語での面接でした。私の英語力は不十分な部分もあったのですが、事前の最大限の準備と、「絶対に行きたい」という気持ちが勝り、選んで下さりました。そんなチャンスだったので、短い期間の活動でしたが、たくさん経験し、全力で吸収してきたと思います。

 

活動の具体的内容は、現地のスタッフへの医学的教育と、住民への直接的な医療提供でした。どちらも「自らの積極性」が試されました。特に英語という壁、日本人の良くも悪くも遠慮する性格から、いつも一歩出遅れてしまいそうになりました。しかし、野口医学研究所理事長の佐野潔先生は、誰よりも先陣を切って活動に向き合っておられ、それを見て、私を含め皆鼓舞されていたと思います。米国や他国の医療スタッフと協力して活動するならば、同じ土台に立たなければいけません。今まで日本で勤務して来たことに自信を持って、自分ができることは積極的にやりたいと伝え、活躍の場を頂けるようにしました。そうしなければ恐らくobserverで終わってしまうでしょう。しかし、国費で行かせて頂いていること、行きたくても選考されなかった方のこと、何よりもPPが外交の一つであることを考えると、日本人として誇れる活動をしたいと思いました。そのためには、交渉出来るくらいの英語力が必須です。

 

活動の中で最も印象深かったことは、やはり住民への直接的な医療提供(PPではCHEと呼ばれているmission)でした。とにかく暑く水分2L飲んでもすぐに汗で出てしまう中、ひたすら並んでいる患者さんを診続けるという活動なのですが、そこは医療者であれば誰でもアドレナリンが出るところです。住民の多くは、充分に医療提供を受けられていなかったり、米国や日本など先進国の医療を受けたいという期待があり、朝7時頃から炎天下の中並んでいました。初日は100名程度だった列も、最終日には500名以上並んでいたと聞きました。一人でも多く診たい、しかし限られた時間と医療器具で、どうしたら患者さんの満足と納得が得られるのだろうかと真剣に悩みました。中には「どうせ何も出来ないよ」という意見もあり、暑さにも疲れてくじけそうになることもありました。そんなときに目にしたのが、佐野先生が汗だくになりながら患者さんを指導している姿でした。その真摯な向き合い方に涙が出るほど刺激を受け、私も頑張りたいと奮い立たされたことは鮮明に覚えています。それゆえに、活動中の写真はあまり撮れていないのですが、言葉で少しでも熱い想いが伝われば幸いです。

 

両膝を悪くした人(変形性膝関節症)が多かったのは、住民の話を聞くと、洗濯機がなくてしゃがんで手洗いをしているからなのではと推測しました。呼吸をするときにゼイゼイする人(気管支喘息)が多かったのは、環境汚染による影響だと考えました。僅か10年前に激しい内戦があった地域だったので、その時に受けた痛みを聞き、未亡人になってしまった高齢女性の話を聞き、今の身体的苦痛がなぜ起きているのか全力で考えました。日本で家庭医として研修してきたことが、役にたった瞬間でした。しかし同時に、日頃は血液検査や画像検査に頼ってしまうことが多く、自分の身体診察の弱さを痛感しました。Missionの帰路で、米国側の医師とも、「こんな患者さんがいたね」「これはこういう背景が原因だと思うよ」など意見を交わしているうちに、お互いの力量が測れ、日を重ねるごとに信頼を得ることができたと思います。活動の幅が増え嬉しかったのですが、もっと出来ることを提案し(簡易血糖測定や尿検査など)、診たかったというのが本心です。

 

今回の活動を通して、技量面でも知識面でも日本の医療は劣っていないと思いました。それは今回活動したスリランカも同じで、決して医療は遅れていないと感じました。貧富の差によって、受けられる医療にも差が出てしまうことはどの国も同じです。お互いの国のことを話し合い、自国の良いところは提供して、他国の良いところは持ち帰ること、これこそがPPでしか出来ないことだったと思います。

 

文化交流という面では、tea ceremonyとして参加させて頂きました。特に今回は、米軍の最大の医療船であるmercyへの乗船許可を頂き、活動期間中お世話になりました。日本をPPの活動に招待して下さったことへの感謝を込めて開催され、その作法だけではなく、spiritualな部分を楽しんで頂けるよう、心を込めてお茶を点てました。しかし、このような機会があるならば出発前から準備をしたかったです。(指示がなくても準備をしておくべきでした)

 

最後になりましたが、PP参加への機会を与えてくださった佐野先生はじめ野口医学研究所の方々に熱くお礼申し上げます。また、スリランカに到着して最初の頃は活動すら充分に与えられない環境でしたが、防衛省並びに統合幕僚監部の方々が、米国側と交渉して活動を探して来てくださったことにも、お礼申し上げます。出来なかったこと、悔しかったことはお土産にして、これからも粛々と頑張りたいと思います。