米国財団法人野口医学研究所

Pacific Partnership Project 2017 活動報告書

東京警察病院 救急科澤田郁美

2017年5月ベトナム

PP2017活動内容

Day0  5/7 (Sun) 出発
Day1  5/8 (Mon) 施設見学
Day2  5/9 (Tus) Emergency Care for Trauma Patient (1st), Center115
Day3 5/10 (Wed) Basic First Responder (2nd), Center115
Day4 5/11 (Thu) Basic First Responder (3rd), Center115
Day5 5/12 (Fri) Critical Care Nursing side-by-side, ER, Da Nang General Hospital
Day6 5/13 (Sat)
Day7 5/14 (Sun)
Day8 5/15 (Mon) Emergency Care for Trauma Patient (1st), Military Hospital 17
Day9 5/16 (Tus) Medical and Surgical Oncology SMEE, Oncology & Rehabilitation Hospital
Day10 5/17 (Wed) Basic First Responder (3rd), Center115
Day11 5/18 (Thu) 帰国

今回のPP2017は米国主導の下Subject Matter Expert ExchangeSMEE)を行うということで、上記のコースに参加してベトナム人医療スタッフに対して教育指導、意見交換を行いました。以下、個々の活動について報告します。

内容報告

Emergency Care for Trauma Patient (ECTP 1st)

米軍からの医師2名が外傷初期対応を教える医師向けコースでした。1週目にはオーストラリア人医師1名と、日本からは私が参加しました。2週目には米国人以外は私だけでした。内容は日本で行われているJATECJapan Advanced Trauma Evaluation and Care)とほぼ同様です。米側は英語・ベトナム語のスライドをそれぞれ準備してきており、その講義の合間に簡単な実習を挟むという構成でした。 ベトナム人医師1名が通訳として参加していました。私はFASTFocused Assessment with Sonography in Trauma)の実技実習を担当させてもらいました。

ベトナムはバイクの数が大変多いことに加え、安全教育の不徹底や無謀運転の多さなどのため、交通外傷が大変多いとのことでした。一方で、外傷診療という概念自体があまり普及していないらしく、このコースでは外傷について学ぶ大変貴重な機会を提供できたようでした。系統立てた外傷初期診療を教える内容であり、大変まとまった優れたコースだと感じました。講義担当の米国人医師達も外傷や救急に関して経験豊富な先生達であり、米国や戦地での外傷診療の経験を伺うことができました。

準備不足も目立ちました。まず、医師向けコースであるにも関わらず、その受講要件が周知されていないようでした。1週目のコースでは受講者の大半が看護師であり、結果として、コース内容にそもそも興味がない、または理解が困難な方が大半となってしまいました。次に、実習用器具(例えばネックカラーなど)の準備がほぼなかったため、実技・実習が間延びした雰囲気になってしまった点は残念でした。一方、ポータブル超音波1台が用意されており、被験者を募って実際のFASTを見せることができたのはよかった点です。

今年は初回であり、トライ・アンド・エラーの中で改善点を見つけることも目的の一つであるようでした。次回のコース運営に向けて、よいたたき台になればと感じました。

 

Basic First Responder (BFR 2nd, 3rd) Center115

このコースはプレホスピタルでの外傷初期対応を学ぶコースでした。Project HOPEからPhysician Assistant (PA) 1名、米軍衛生士官4名に私が参加しました。医学用語が少ないことから一般通訳のベトナム人が3名ついていたため、小グループに分かれての実習には大変有利でした。

午前中に講義、午後に実技実習という構成でした。BFR 1st では全身の初期評価の仕方を教えたそうです。BFR 2nd は骨折脱臼刺創など外傷の保護固定と患者搬送について、3rd は午前にトリアージを学び、午後に3日間の内容を活かして、災害現場でのトリアージ、全身評価、外傷初期処置、患者搬送までの実習を行いました。

BFR 2nd での病前処置と患者搬送は衛生士官の専門領域でもあり、普段はプレホスピタルに関わらない私にとっては学ぶ点も多々あり大変興味深い内容でした。BFR 3rd では、午前はトリアージの実習を担当させていただきました(写真1)。午後はBFRの総括として、私達が患者役となり、受講生に災害現場でのトリアージから病前対応までを行う実習でした(写真2〜4)。私は心肺停止の乳児を抱いている母親役を割り振っていただきました。迅速に対応できる人、戸惑いながらもなんとかこなす人などいろいろでしたが、ほぼ全ての受講生達が一連の流れに乗って動けるようになっており、コースの成果を体感することができました。

Project HOPEは実習用器材や心肺蘇生練習用人形を持参しており、準備が十分であったこともコース運営に大きく寄与していました。コース終了後、これらの実習用器材は練習用として寄付されました。

Critical Care Nursing side-by-side, ER, Da Nang General Hospital

参加者は野口医学研究所から勅使河原先生、私、米軍救急医1名、豪軍からNurse Practitioner (NP)1名でした。 もともとはERでの活動は計画になかったようですが、林先生が担当者に提案してくださり急遽のコース追加となりました。ER診療に興味があったため大変良い機会でした。Da Nang General HospitalERについては他の先生方から詳細報告があると思うので割愛し、私が感じたこと、米豪の先生と話した内容に焦点をあてます。

PP2017の活動目的はSMEEであることから、私達単独での診療は許されませんでした。ベトナム人医師にアテンドし意見交換や技術指導などの介入点を探すよう努めましたが現実としてはやや困難だったように感じました。まず、日越通訳者が医療用語を十分に知らないため、多忙な医療現場ではほぼ使えず、ベトナム人医師とは直接英語で話していました。英越通訳も同様だったようです。そのため、ベトナム人医師にとっては通常診療に加えて英語での情報提供・意見交換をするというワークロードが増えてしまいました。私が伺った日はたまたま忙しくなく、英語を話せる若手医師が勤務していたため、彼の診療に付くことができましたが、その他の医師とはほぼコミュニケーションを取ることはできませんでした。

米軍救急医と豪軍のNPも同様の状況であり、あまり介入せず遠巻きに見学しているという状況でした。ER診療に対してアドバイスや意見交換をしたい点はあるとのことでしたが、上記のような状況の中で積極的に介入することは困難であり、ベトナム人医師から求められればサポートするという立場に徹していたとのことでした。

今回は急遽立ち上がったプランだったため、上記のような状況でしたが、事前に状況調整ができていればSMEEとしての可能性は十分にあると感じました。例えば、ER勤務医とは別体制のER診療コースとして、若手医師とPP2017側の医師がペアで診療する等ができればと感じました。

Medical and Surgical Oncology SMEE, Oncology & Rehabilitation Hospital

外科系の先生たちのSMEEを見学したかったため、防衛医科大学整形外科の須佐先生にお願いし、軟部腫瘍の手術に同行させていただきました。11歳男児の左大腿部の筋肉内肉腫、再発2回目の症例でした。

須佐先生からベトナム人医師に対し、再発理由や再発予防のための摘出方法、将来的展望についてティーチングをしながらの手術でした。 ベトナム人医師の手術の手技自体は問題ないようですが、安全性や再発予防を考慮した手術計画にはやや難点があるとのことでした。

 

以上、PP2017で参加させていただいたSMEEの内容を報告いたしました。経験豊富な各国の医療スタッフ達と意見交換ができたこと、複数国が参加するプロジェクトを米軍や防衛省の方々がどのようにアドミニストレートしているのかを間近でみることができたことなど、大変貴重な経験を数多くさせていただきました。今回は初めての試みも多かったらしく、物品や現場調整などに関して準備不足な点も目立ちましたが、その分、今後に向けての改善点も明確になった活動であったように感じました。

このような貴重な機会を頂きました野口医学研究所にはこの場を借りて改めてお礼を申し上げます。野口医学研究所理事長 佐野潔先生を始め研究所スタッフの方々には、準備段階からPP2017終了後まで細やかなサポートをいただき大変感謝しております。本当にありがとうございました。

 

トリアージ後 トリアージ後
トリアージ中 トリアージ中
患者情報の書かれたカード28枚を使い、それぞれ患者に見立ててトリアージを行っていきます。トリアージの根拠も確認し、議論しているところです。 患者情報の書かれたカード28枚を使い、それぞれ患者に見立ててトリアージを行っていきます。トリアージの根拠も確認し、議論しているところです。
初期対応の見本を見せている米軍衛生士官 初期対応の見本を見せている米軍衛生士官
大腿四頭筋内にできた腫瘍 大腿四頭筋内にできた腫瘍
ドリル前の傷病者役達。体に張っている紙に患者情報が記載されており、受講生はそれを参考にトリアージを行います ドリル前の傷病者役達。体に張っている紙に患者情報が記載されており、受講生はそれを参考にトリアージを行います