研修レポート Thomas Jefferson University Hospital Colorectal Surgery
2024年11月11日より3週間、Thomas Jefferson University Hospital大腸外科で研修させていただきました。Philadelphiaは米国内でも医学教育と医療の拠点となる都市の一つで、今回主に研修を行ったThomas Jefferson University Hospitalは市内中心地に位置し、診療やレジデント教育が行われている病床数900以上を有する中核病院です。
私は消化器外科(大腸外科)を専門としています。日本の外科学、外科教育は独自に発展してきた側面も強く、以前から米国での外科治療方針や手術アプローチの違い、レジデント・フェロー教育がどのように行われているかに興味を持っていました。今回特にこれらの点を学ぶことを目的に研修に臨みました。
現地での研修スケジュールは、月水金曜日は主に外科手術見学、火木曜日は外来・内視鏡検査の見学を行い、その他早朝に行われる各種カンファレンスに参加しました。研修は主にMain hospitalとHonickman Centerで行いました。Honickman Centerは約半年前にオープンしたばかりで、新しく充実した設備を有していました。業務開始時間は全体的に日本より1時間以上早く、手術は早いスケジュールで7時過ぎに入室し、手術は8時頃から開始されるため、フェローDrやレジデントDrはそれまでに病棟回診を終えて手術室に集合し、執刀前や手術の合間に適宜病棟患者の状態についてアテンディングDrにコンサルトしていました。外来見学はHonickman Centerにて午前8時開始、Fellow conferenceやM &M conferenceは朝7時開始でした。
大腸外科手術は主にMain Hospitalで施行されており、ロボット支援下手術が積極的に行われていました。ロボット手術に加えて、今回の研修では開腹手術も多く見学することができた。Honickman Center では日帰りの肛門疾患手術が手術日には1日6件程度施行されていました。これまで肛門疾患についてはあまり治療経験がなかったこともあり、その治療法や術式について学ぶ良い機会となりました。現場の雰囲気を感じながら、ビデオでは伝わらない状況やレジデントへの指導方法、手術のコンセプトや細かい手順や手技の違いを学び、直接指導いただくことの意義、重要性をあらためて感じました。今回指導いただいたDrは皆教育熱心で、忙しい合間にも関わらず質問に対して一つ一つに対して丁寧に教えて頂き非常に勉強になりました。周術期在院日数は日本と比較して非常に短く、医療制度や退院後のケア体制、患者景が異なる影響も大きいですが、より効率的に組まれた周術期管理スケジュールは、日本の診療にも取り入れて行きたい点が数多くありました。
研修期間中には、フェローDrからレジデント時代の経験についての話を聞くことができました。今回は外傷外科の見学はできませんでしたが、また機会があれば日本では経験を積むことが難しい米国の外傷外科診療についても学びたいと思いました。
週1回、早朝に開催されるFellow conferenceでは日本の内視鏡診断基準に基づく外科治療方針のディスカッションなども行われ、日本から報告された診断基準が実際に米国で活用されていることが印象的でした。M&M conferenceでは術後合併症症例について外科医レジデント、スタッフが集まり問題点の検討と今後の対策について積極的にディスカッションが行われておりました。
外来診療と内視鏡検査はHonickman Centerで見学させていただきました。外来では看護師またはレジデントの予診情報を元に十分な診察時間をとって患者とコミュニケーションをとり、関係構築を行っていた点が特に印象的でした。
研修1週目の水曜夕方にはChinatownにあるボランティアで運営されているクリニックを見学しました。ここでは無保険の方に対する診療が行われ、Thomas Jefferson University(TJU)の医学生が主体となって問診、診察にあたり、Dr. LauをはじめとするアテンディングDrにより最終診断、処方などが行われていました。私の知る限り日本にはこのような医学生が主体となって実際に診療を行う機会はありませんが、医学生が実践的な経験を積むだけでなく、患者に利益をもたらし、同時に医療者としての精神を育む重要な場となっていることが分かりました。
今回の研修期間中に、大学ではInternational Education Weekというイベントが開催されており、2週目の後半に現地学生を対象としたスピーチをさせていただく機会がありました。日本の外科修練と医療の課題について英語で30分程のプレゼンを行うことはチャレンジングな経験でしたが、参加いただいた皆様にはテーマに興味を持っていただき、良いディスカッションを行うことができました。
研修最終週はちょうど感謝祭期間でした。病院での手術スケジュールにやや余裕があり、フェローDrよりSouth PhiladelphiaのJefferson関連施設見学、Philadelphia郊外の他大学施設を案内していただきました。大病院や医療機関、研究機関が集中するPhiladelphiaもつ様々な側面と、地域ごとの特性や病院の役割、歴史的背景や制度の変遷に伴う現在の課題について詳しくご説明いただきました。一つの都市でも多様な文化や社会背景が混在する中で、いかに医療が成り立ち変化してきたかを知ることができました。
感謝祭当日にはアテンディングDrの自宅パーティーに招待いただきました。感謝祭の伝統的な料理をいただき、家族と共に大切な時間を過ごすという特別な米国文化を経験することができ、とても良い思い出になりました。
今回の研修期を通して、外科修練の場として米国の体系化されたレジデンシー教育、フェロー教育には執刀数や教育体制を含め優れた点が多いと感じました。限られた研修期間でしたが、日々のハードワークをこなしながらも教育熱心なアテンディングDrや日々外科修練に励むレジデントDr、フェローDrとの交流を通して、自分もより一層奮い立たされました。帰国後もこの思いを持ち続けて目標達成に向けて励んでいきたいと思います。
謝辞
今回このような貴重な機会をいただきました野口医学研究所の皆様、現地研修コーディネートや研修中にお世話になりましたTJU Japan Center Dr. Pohl, Dr. Lau, Radi様、Vincent様、大腸外科研修でご指導いただいたTJU Hospital Colorectal surgery Dr. Morgan, Dr. Isenberg, Dr. Phillips, Dr. Brian, Dr. Fari Fall, Dr. Zachary, スピーチのオファーをいただいたTJU International Service Ms. Songに心より感謝申し上げます。