米国財団法人野口医学研究所

PP2016レポート

東京大学大学院医学系研究科 医学教育国際研究センター林幹雄

2016年8月パラオの各地、自衛隊の輸送艦でアメリカ、イギリス、オーストラリアなど

2016年84日から814日にかけ、野口医学研究所の一員としてPacific Partnership 2016に参加させて頂きました。パラオの各地で医療支援活動を行いながら、自衛隊の輸送艦でアメリカ、イギリス、オーストラリアの医療関係者と共に生活を行いましたが、現地での活動を通じて実感したことを振り返りながら、その概要について述べさせて頂きます。

今回の活動には自衛隊から35名、NGOから19名の医療要員が日本から参加しました。現地では、Palau Community Collegeでの野外診療、Belau National Hospitalにおける外来診療支援と現地医療スタッフに対する教育活動、Peleliu Islandでの野外診療といった、主に3カ所についてグループ毎に分かれ医療活動を行いました。

まず、Palau Community Collegeでの野外診療では、1日あたり150名前後のコロール島に居住する患者さんが来院しました。歯科や眼科といった専門診療科での診療を希望する患者さんが数多く来院する一方で、幅広い年齢層の患者さんが多岐にわたる主訴を訴え、総合的な診療を希望する例も多く見られました。現地では医療スタッフの人数が充足していたことから、来院する11人の患者さんに対して、時間を割いて話を聞くことができ、パラオに特有の生活背景や社会状況を知ることも出来ました。

次に、Belau National Hospital100床の病床をもつコロール島で唯一の国立病院ですが、現地の医師数は非常勤を含め24名であり、慢性的な医師不足の状態にあるとのことでした。なお、重症例を全て院内で対応することが困難な状況であり、専門診療科での治療を行う際は必要に応じてフィリピン等の海外の病院に患者を移送することもあるとのことでした。今回の医療活動では、外来診療を中心に1日あたり100名前後の診療を行いましたが、内科以外は各科毎に専門分化されており、整形外科や皮膚科といった病院にはない専門診療科での診療を希望する患者さんが多く来院されました。その一方で、現地においては高血圧や糖尿病などの生活習慣病に罹患した患者さんの増加が問題となっているものの、外来診療を通じて、生活指導や栄養管理に関する指導が十分に行われてはいないという印象を受けました。また、医療活動の一環として、職種毎に日替わりで現地医療スタッフに対し教育活動を行いました。個人的にも医師向けカンファレンスにおいて、約20名の現地医師を対象に、医学教育に関連したレクチャーを担当させて頂きました。短い時間ではありましたが、活発な意見交換が行われ、多くの参加者が内容に興味を持ってくれたようでした。

医療支援活動の終盤で行われたPeleliu Islandにおける野外診療では、小学校の施設の一部を利用させて頂きながら、2日間で150名以上の現地住民に対する診療を行いました。上述したPalau Community Collegeには専門診療科での診療を希望する患者さんが多く来院したのに対し、Peleliu Islandには健康診断目的での受診、慢性的な腰痛や頭痛などを主訴に受診する患者さんが多く来院しました。また、現地の小学生に対する学校健診も行いました。どのような診療環境においても、多様なニーズに対応する能力が求められるという観点から、専門診療医だけでなく、家庭医を含めたプライマリ・ケア医のニーズがあるということを改めて実感することができました。

以上、今回参加させて頂いたPacific Partnership 2016において行った医療活動の概要について記述しました。自身にとっては初めての海外における医療支援活動でしたが、出来たことも出来なかったことも含めて、とても貴重な経験になったと実感しています。また、医療支援活動開始当初は、環境が異なるためか体調管理に悩まされることもありましたが、今までの自分自身の臨床経験または教育現場における実践経験を活かしながら、現地で出来ることを精一杯出しきれたのではないかと自己評価しています。その一方で、本プログラムへ参加するにあたり、個人的に当初目的としていた多国籍医療チームを介し異文化交流を行いながらチーム医療を実践すること、現地住民と打ち解けながら友好的な関係を築くことに関しては、それぞれ十分に達成できなかった要素があると考えています。今回の経験を通じて、現地において本当の意味での医療現場のニーズを把握し、その文脈に沿った形で医療支援活動を行うことの難しさを実感することが出来ました。上述した点を踏まえ、今回の活動に留まらず、今後も機会があれば海外での医療支援活動に積極的に関わりたいと考えています。さらには、将来的に本プログラムへの参加を希望している後進のサポートにも継続的に関わらせて頂きたいと考えています。

最後になりましたが、今回の医療活動参加中にご指導を頂きました野口医学研究所理事長の佐野潔先生、医療活動参加前より丁寧にサポートをして頂きました野口医学研究所のスタッフの方々に対し、あらためてお礼を申し上げます。この度は、Pacific Partnership 2016に参加させて頂き、本当にありがとうございました。