米国財団法人野口医学研究所

看護師研修プログラムで学んだこと

看護師二階堂はるか

2017年9月米国トーマス・ジェファーソン大学

私は看護師として日々働いている中で、日本の医療や看護について改善したいと思うところが多々あります。

来年で経験年数が10年目を迎える私は、看護師としてのキャリアアップのために勉強会や研修などを探していた所、このトーマスジェファーソン大学での看護師研修プログラムを知りました。以前からアメリカを始めとする他国の医療や看護について興味があり、日本との違いを比較してみたいと考えていたため、すぐに参加することを決めました。研修前は漠然としたイメージしか持っていなかったのですが、実際に研修を受けてみると様々な面から見ることができ、日本との違いを知ることが出来ました。

まず、大きく驚いたのが保険制度でした。日本とは大違いであり、その保険制度が平均在院日数の短縮化や診療や看護に大きく関わっていることがわかりました。初日に保険制度についての講義があったのですが、その後も病棟の見学時や、他の講義の時にも保険制度に関する話が多く出てきました。その中で一番印象に残っているのは、院内発生の褥瘡に関しては保険会社からお金は降りず、全て病院側が医療費を負担すると言うことです。この考え方は日本になく、こう言った方法もあるのだなと、とても面白いと思いました。日本の保険制度ももちろん診療に関係してくるのですがアメリカ程の影響力はなく、それほど保険や医療費を意識して働くことはありません。今後はもう少し患者に行われた治療や自分の行った看護が医療費にどのように影響するのかを考えながら働いてみたいと思うきっかけとなりました。噂通りややこしく、まだ問題はかかえているアメリカの保険制度であるものの、その中でも診療へプラスに働いている部分を多く見ることができ、アメリカ医療の土台を垣間見ることが出来たように思います。

続いて私が気になったものは看護師の働く環境についてです。日勤も夜勤も関係なく看護師の勤務人数を変えないそうです。そのため、夜間であろうとナースコールや転倒予防の離床アラームが鳴ってもすぐに対応に行けるようになっており、十分な看護が提供できるようになっていました。また、前勤務者との申し送りの時間を30分設けることでしっかりと情報共有ができ、日本のように勤務開始前に出勤して情報収集する必要はないということでした。このような働く環境の中でも、特に私が注目したのは教育についてです。研修二日目に行われたMagnet Recognition ProgramNursing Certificationを始めとする講義で、看護師への教育をサポートするシステムがしっかりと根付いていることがわかりました。無料で受けられる講習や病院からの受講費の一部援助などもあり、働きながらでも勉強できるようなサポート体制があり、実際に資格を取った後も病棟のホワイトボードに名前を載せ称賛する他、特別ボーナスなどの特典もありました。また、数年毎の資格の更新をする必要があるものが多く、知識の維持や向上が行いやすくなっていました。看護師のキャリアアップがとても身近にあるように感じました。また、そうして資格を取った看護師は、より自信をもって看護を行え、同僚の看護師や医師を始めとする他職種にも自分の意見を言えるそうです。その他職種のスタッフからも資格を持っている看護師として認められており、意見を求められることも多いと言うことでした。このような教育体制は看護学生や新人看護師に対しても行われていました。看護学生に対しては、大学内に実際の病棟や外来、手術室を再現したシュミレーションセンターがあり、そこで技術を磨くことができるようになっています。また、ナースエクスターンとして6か月近く病棟で働くことが出来、実際に看護師の指導の下カルテへの入力も行うことができます。未来の同僚、という考えで学生を受け入れるように環境を整えるようにしているそうです。即戦力となるような看護師を育成できるようになっていました。卒業し、実際に就職してからもオリエンテーション期間を長く設け、少しずつ病棟になじめるようにサポートしていると言うことでした。また、プリセプターとプリセプティーの間に第三者が入るようにし、お互いの意見を聞いてオープンな関係を築けるようにしているそうです。私も今まで多くの新人看護師が、理想と現実のギャップや人間関係のもつれで辞めていく姿を多く見てきました。日本の新人看護師のサポート体制は徐々に良くはなってきていますが、未だに問題があると言えます。

5日間という短い期間ではありましたが、本当に多くのことを見て学ぶことができました。様々な面で羨ましい、このシステムが日本にあったらな、と思うことが本当に多くありました。ディスカッションのセクションで、日本の現状を話した時にとても驚かれたことがありました。その時に“まるで40年前のアメリカを見ているようだわ”と言われたことがとても印象的でした。その時私は、日本はそんなに遅れているのか、と思った反面これから40年後には日本の医療や看護も大きく変わる可能性があるのだと気付きました。そのためには今現在働き、悩んでいる私たちがアクションを起こす必要があるのではないかと思います。今回学んだことすべてを日本に取り入れることは正直難しいです。しかし、日本に合うように変更するなど、日本の良さを残しつつ変わる方法があると思います。今はまだ自分には何ができるかはわかりませんが、少しでも日本の医療、看護が良くなるような活動を行っていきたいとこの研修を通して思いました。

 

今回の研修は私の今後の目標を考えるにあたり大きな影響を与えるものとなりました。この研修で温かく迎えてくださったDr. Kathleen M. Stepanuk, NP. を始めとするトーマスジェファーソン大学の研修に携わった皆様、またこの研修に参加するきっかけをくださった野口医学研究所の方々に心より感謝申し上げます。