米国財団法人野口医学研究所

フィラデルフィアでの海外臨床実習を終えて

国際医療福祉大学 医学部 医学科 5年前西俊

2024年9月21日〜9月27日米国トーマス・ジェファーソン大学

野口医学研究所の臨床留学プログラムの研修レポート

はじめに
この度2024921日から27日にわたり、フィラデルフィア市内のトーマス·ジェファーソン大学(以下TJU)でのクリニカルクラークシップに参加させていただきました。以前から漠然と「いつかは海外で臨床留学をしてみたい」という思いを抱いていたものの、ResidencyFellowshipといったプログラムは競争率が非常に高く、挑戦するには入念な準備が必要ですし、加えて、そもそも自分がアメリカの臨床現場で通用するのかという不安も常に頭の片隅にありました。そのため今回の研修では、以下の2点を確認することを主な目的として参加を決意しました。

  1. 自分の英語力が、臨床現場や日常生活の中でどの程度通用するのか。
  2. アメリカでの生活がどのようなもので、実際に適応できるのか。

渡航前こそ研修期間が約1週間と、率直に申し上げると物足りなさも感じておりましたが、いざ始まってみると毎日たくさんのイベントが詰まっており、時間の短さを全く感じさせないほど充実した日々を過ごせましたので、これから応募される方もぜひ積極的に考えて頂けたらと思います。

U.S. Healthcare System & Insurance
ハワイ大学でResidencyをされている河合先生から、アメリカの医療制度と保険制度についてZoomで講義を受ける機会がありました。これまで大学の授業を通して米国の医療制度について学ぶ機会があったものの、実際に現場で活躍されている医師の視点を交えたお話は格別で、理論だけでは捉えきれないリアルな課題や実践的な知識を学ぶことができました。
また、単にアメリカを目指すだけではなく、日米の医療制度や文化的な違いを深く理解した上で、そのギャップをうまく活用していく必要性に気づかされました。休日にもかかわらず、貴重な時間を割いてご講演いただいた河合先生には、心から感謝しています。

Internal Medicine
月曜日と火曜日には、内科の回診に参加させていただきました。内科にはいくつかのチームがあり、私が参加したSilver3チームは、AttendingSenior ResidentResident、そしてPhysician Assistantの学生から構成されていました。多職種チームの連携の取り方が非常に印象的で、特に毎朝の回診前に行われるミーティングでは、理学療法士、作業療法士、ソーシャルワーカーが会議室に集まり、Senior Residentが入院患者の経過を簡潔に報告する姿が見られました。これにより、各職種間で密なコミュニケーションが取られ、迅速かつ効果的な対応が行われていました。
アメリカの医療現場では、日本よりも分業化が進んでおり、それぞれの専門家が自分の職務に集中しつつ、必要な情報は電子カルテシステム(Epic)のSecure Chat機能を活用してリアルタイムで共有している点も非常に効率的だと感じました。こうしたシステムを活用することで、多人数での患者管理がスムーズに行われ、チーム全体としての連携が非常にうまく機能している様子がよくわかりました。

Family Medicine
Family Medicineは、日本ではまだ浸透していない診療科ですが、日本でいう「町医者」に近いシステムです。アメリカでは、1人あたり20分以上の診療枠が確保されており、場合によっては30分以上もかけて患者一人ひとりに徹底的に向き合った医療を提供していることが特徴的でした。特に、医師が私の見学を許可してくださった際、何人もの患者さんが「You’re gonna learn from the best.」や「I am not embarrassed to tell you anything. We’ve been through so many years.」といった言葉をかけており、その言葉からは、医師と患者との間に築かれた深い信頼関係が感じられました。
また、患者とのやり取りの中でユーモアを交えた会話が多く、これも日本の診療とは異なる点でした。こうしたジョークを交えた軽やかなコミュニケーションを自ら生み出すには、単なる言語の理解以上に、文化的背景や深い信頼関係が重要であることを痛感しました。その場の会話はほぼ理解できたものの、同じようなユーモアのある空気感を自ら作り出すには、まだまだ英語力を磨く必要があると感じました。

Emergency Medicine
アメリカの救急医療は、日本とはまた異なる状況にあり、特にフィラデルフィアでは救急需要が非常に高いことを実感しました。病床数が不足気味であるため、廊下はストレッチャーに載せられた患者であふれており、その光景からも救急医療の逼迫した状況がうかがえました。特にアメリカならではと感じたのは、ER内に手術室が1床、さらに手術に準じた処置室が4床も設けられており、夏場にはこれらの施設がほぼ毎日稼働しているという事実です。Dr. Weinによると、特に暑い日は感情的になりやすいためか、外傷の発生件数が圧倒的に冬場よりも多く、刃物や銃による外傷が頻発するとのことでした。こうした外傷の対応に特化したシステムが構築されている点が、アメリカの医療体制の特徴の一つであると感じました。

Simulation Class
今回の研修では、Dr. Joseph Majdanによるシミュレーション講義を2回受講する機会がありました。1回目は心音聴取をテーマにしたもので、2回目は模擬患者を用いた英語での医療面接が行われました。特に模擬患者は、このボランティア活動を開始してから10年という長い経験を持つ方で、患者として医師に聞いてもらいたい点や改善点を多く指摘していただきました。医師としての視点だけでなく、患者の立場からのフィードバックを受けることができたのは非常に貴重な体験であり、今後の臨床実習に活かしていきたいと考えています。

JeffHOPE
JeffHOPEは、ボランティアが主体となって、ホームレスの方々に衣食住と医療を提供する場です。
性別、家族の有無、滞在期間などによって5つのシェルターに分かれており、私はその中のPhilly Houseにお邪魔しました。私はクリニック業務に参加し、Medチーム、Pharmacyチーム、Advocacyチームが協力して患者の診療を行う現場を見学しました。特に印象的だったのは、医学生が中心となって患者の病歴を聴取し、その後の診療方針や治療計画の立案までを行うというシステムでした。
このクリニックでは、医学生が主にMedチームに所属し、まず患者の病歴を聴取した後、身体診察を行い、治療方針を決定し、それを上級医に報告します。その後、上級医とともに再度患者を診察し、最終的な診療計画を確定します。このシステムでは医学生が主導的な役割を果たすため、学びの機会が非常に豊富であり、医師としての実践的な能力が磨かれる素晴らしい環境であると思いました

Pharmacyチームは、期限切れの薬剤や製薬会社から寄付された薬剤を活用し、その場で最大2週間分の薬を患者に提供していました。さらに、Advocacyチームは、かかりつけ医がいない患者には近隣のクリニックを紹介し、無保険の患者には社会福祉制度についての教育や支援を行っていました。
このように、医療だけでなく、社会福祉の側面も含めた包括的なサポートを提供している点が印象的で、日本ではあまり見られないスタイルの医療システムだと感じました。
特に、医学生が病歴聴取や診察、治療方針の決定までを担当することは、日本の医療現場ではあまり見られないプロセスであり、その自主性と責任感を養う構造が非常に優れていると感じました。また、社会貢献と教育が両立している「win-win」の関係が成り立っており、日本でも同様のことが実現できればなと思いました

Neurosurgery
脳神経外科の実習は、545分から正午までの間、密度の濃い時間を過ごしました。アメリカの外科系診療科では、朝730分から最初の手術が開始されるため、回診はその前に行われます。現地の医学生たちは朝3時に起床し、4時には病院で情報収集を開始し、5時の回診に備えるというスケジュールをこなしており、身が引き締まる思いがしました。
630分からは、過去1ヶ月間の症例検討会が行われ、術後の死亡例や合併症の発生例についての詳細な議論が行われていました。特に印象的だったのは、術後死亡例において全件で臓器提供が行われていた点です。
また、手術が始まるまでの間、他国からの留学生や現地のTJUの学生たちと一緒に朝食をとりながら、各国の医学教育や医療制度について語り合うことができたのは非常に貴重な経験でした。

Pediatrics
小児科の実習では、新生児の定期健診に参加しました。健診の内容自体は日本と大きく変わらないものの、アメリカは多民族国家であるため、様々な人種の新生児を診ることができました。特に、人種によって母斑や皮膚の特徴が異なるため、その点においては非常に勉強になりました。
また、医療情報だけでなく、親の不安や疑問に対してもかなり時間をかけて対応している姿が見られました。アメリカでは、医師が時間をかけて患者やその家族に向き合うことが重要視されており、日本に比べてより個人に寄り添った医療が提供されていると感じました

謝辞
最後になりましたが、この度はこのような貴重な研修機会をいただき、心から感謝申し上げます。特に、野口医学研究所の佐藤隆美先生、Michael Kenney 堤大造様、木暮貴子様、掛橋典子様、中西真悠様、香月あゆみ様には多大なご支援をいただきました。
また、現地での実習中にご指導いただいた河合明子先生Dr. StewartDr. Tendai MarumeDr. Christopher ChambersDr. Wayne Bond LauDr. Joseph MajdanDr. Marcus RamspottDr. Tomoki Sakata、そして現地でサポートいただいたTJU Japan CenterDr. Charles A. Pohl ラディ由美子様、Vincent Gleizer様にも深く感謝申し上げます。この経験を今後のキャリアに活かし、さらに医師として成長していきたいと思います。

シミュレーション授業後Dr. Joseph Majdanと シミュレーション授業後Dr. Joseph Majdanと
College buildingの前でみんなと College buildingの前でみんなと
Philadelphia街歩き Philadelphia街歩き
Whole Foods(スーパー)にてアメリカンなパンプキンとともに Whole Foods(スーパー)にてアメリカンなパンプキンとともに