野口医学研究所クリニカルクラークシップ 実習報告書
[はじめに]
2024年9月20日から27日にかけて、米国フィラデルフィアのトーマス·ジェファーソン大学(TJU)でクリニカルクラークシップに参加しました。短期間ではありましたが、内科、救急、小児科、精神科での実習に加え、JeffHOPEでのボランティアや特別講義を通して、多方面から米国の医療について学ぶことができ、とても有意義な研修となりました。
研修期間中、現地の医学生やレジデントの方々、そして米国で活躍されている日本人医師の先生方ともお話しする貴重な機会を得ました。私は日本で留学生として医学を学びつつ、将来米国で精神科医としてのキャリアを積むことを目指しています。そのため、今回の実習で米国の医療現場を体験できたことは、私にとって非常に重要な経験となりました。
[内科、救急、精神科、小児科、総合診療科]
一般病棟のチームは、アテンディング1名、シニアレジデント1名、レジデント2名、医学生2名、そしてPhysician Assistant学生1名で構成されており、回診中やその前後に上級医によるミニレクチャーが行われていました。これにより、患者の主訴に基づく鑑別診断や治療プラン、薬の処方とその副作用について幅広い知識が得られました。私も2日間、回診チームに参加し、アテンディングに担当患者のプレゼンを行った後、診察を通じて治療方針を話し合いました。現地の医学生たちは非常に高いレベルでプレゼンテーションを行い、患者の問題や提案した治療法を明確に述べており、アテンディングはそれを積極的に取り入れていました。医学生に対するフィードバックも行われ、教育的な環境が整っていたことに感銘を受けました。さらに、米国は日本に比べて入院期間が極端に短いため、Dr. Taboadaは患者情報を踏まえ、生活習慣を改善するための長期的なプランを立て、医学生を教育しようとする姿勢が印象的でした。
米国のERでは、Wayne先生の手厚い指導の下、廊下に多くのベッドが設置されているほど、混んでいて、常にトリアージが必要になってくるくらいの回転率でした。お忙しい中にも、Wayne先生は一人ひとり患者を素早く診る傍ら、医学生の教育もしっかりされている様子でした。また、外傷で救急手術を受けることになった患者の初期ケアも見学することができ、米国の救急の臨床の現場における実感が湧きました。他の職種との連携に加え、他の科の先生方とも連絡しながら連携している様子を見て、チームとして医療を提供することの大切さを学びました。
精神科外来では、日本とは異なり、初診の患者には90分、再診には30~60分の診察時間が設けられていました。また、アメリカの中西部とは違い、東海岸では伝統的な精神分析が今でも残っており、私は45分のpsychotherapyセッションに陪席できたことが非常に貴重な経験となりました。レジデントの先生が患者との診察を終えた後、アテンディングの先生とじっくり議論を重ねた上で処方を決定するシステムにも深い印象を受けました。
小児科外来では、PGY2のレジデントが一人ひとり丁寧に診療をしており、家族での受診が多く、年次スクリーニングが主な目的だったため、元気な多国籍の子どもたちを診察することは、私にとっても楽しい経験となりました。また、思春期外来では、メンタルチェックや虐待の有無の確認、性教育の実施が徹底されており、こうした点に先進国の医療の進んだ一面を感じました。
総合診療科の外来診療では、Dr. Perkelをshadowingする機会が与えられました。彼は本当に素晴らしいプライマリー·フィジシャンであり、患者たちから非常に尊敬され感謝されている様子が伝わってきました。「あなたは素晴らしい医師に付き添っている」と患者から言われた時、私もこんな医師になりたいと強く思いました。常にユーモアを交え、品のあるジョークを忘れないその態度も、とても素敵でした。
[JeffHOPE]
JeffHOPEはホームレスや生活困窮者に医学生が主体となって医療を提供するクリニックで、無償で診療を行い、患者が満足している姿を目にし、医師としての基本的な使命を再認識する機会となりました。Thomas Jefferson University Hospitalが主催するこのクリニックは、毎回20名ほどの学生と1名の医師が参加し、トリアージから診察、プラン作成、最終的な判断まで学生が主導して行います。栄養指導や禁煙教育、血液検査、薬の処方も行われ、生活基盤の支援として無料のバスチケットや衣類なども提供されており、学生にとっては実践的な医療を学ぶ貴重な場となっており、特に印象的でした。
[Simulation Class]
臨床実習を通じて、循環器の権威であるDr. Majdanから患者の心のケアの重要性を学びました。患者の話を丁寧に聞き、日常生活の小さな変化に注意を払い、寄り添った医療を提供することが大切だと実感しました。また、身体診察の講義では、臓器の解剖学的·生理学的な理解が異常を早期に発見するために不可欠であることを学び、臨床において非常に有用な知識を得ました。さらに、シミュレーターを用いた心音の講義や問診技術の指導を受け、テンプレートに基づいて全身を網羅的に確認することの重要性を理解し、自信を持って診療に臨むことができると感じました。SPへの問診では、患者に共感を示しつつ、声を大きくし、専門的なコミュニケーションを行うことで医療従事者としてのプロフェッショナリズムを示す重要性についてもフィードバックを受けました。
[総括]
今回の実習を通じて、米国医療の一長一短のあるシステムの実際に体験することができました。特に、学生に担当患者を与えてプレゼンの機会を提供することが印象的でした。ポータブルカルテを使って患者の状態を常に確認し、チャット機能で不安を医師に伝えられる仕組みも素晴らしいと感じました。しかし、米国の保険制度は複雑で、病気の際にはすぐに医療機関に行くことが難しく、予約から受診まで時間がかかることも課題です。日本の公的医療保険制度の優れた点を再認識しました。
また、現地の学生がボランティア活動や研究に積極的に参加している姿勢は刺激的で、患者を助ける意識や医療を学ぶ姿勢が育まれていると感じました。さらに、米国には国民皆保険制度がないため、治療方針を決める際に保険適用を考慮する必要があることや、多様なバックグラウンドを持つ患者に最適な医療を提供する重要性を学びました。
[今後]
今後、野口医学研究所でのクラークシップを通じて得た経験を最大限に活かし、日本で初期研修を修了した後、米国で精神科レジデンシーに挑戦したいと考えています。そして、米国で指導医として働きながら、研究分野でも活躍し、日本や韓国、米国をつなぐ架け橋となる国際的な医師として成長していきたいと思っています。
[謝辞]
最後になりますが、このような貴重な研修に参加できたことに、心から感謝申し上げます。将来米国で働くことを視野に入れている私にとって、この経験は非常に有意義なものでした。野口医学研究所の佐藤先生をはじめ、実習でお世話になったThomas Jefferson UniversityのDr. Majdan、Dr. Perkel、Dr. Taboada、Dr. Jamshidian、Dr. Weil、Dr. Lau、Dr. Becker、そしてJapan CenterのRadi様、Vincent様、米国医療制度と保険について講義してくださったKawai先生、その他この研修にご尽力いただいたすべての皆様に、心より感謝いたします。誠にありがとうございました。