米国財団法人野口医学研究所

栄養士研修レポート

栄養士中摩慶子

2015年3月米国トーマス・ジェファーソン大学&フィラデルフィア小児病院

今回の研修は、大変実りの多いものであった。日本とアメリカの、臨床領域における栄養管理の違いを学ぶことができただけではなく、この研修の第一目的であった「医療の質の向上を目的とした管理栄養士の地位向上」についても素晴らしい人々との出会いから深い学びを得ることができた。

研修の内容は、すべてが想像以上であった。オリエンテーションを含めた6日間のなかで、私たちは6か所の施設を見学し、8つの講義を受け、4つのセッションを経験した。もちろん見学や講義のあと必ず質疑応答の時間が設けられる。こういった様々なタイプの研修の中で、特に印象深いものを3つ挙げる。

まずTJUHLinda氏やCHOPSue氏から説明を受けた、フードサービスの考え方である。厳格な栄養管理を必要とする患者は基本的に経腸栄養もしくは経静脈栄養を選択しており、一方日本でいうところの一般治療食はかなり選択の自由度が高く患者満足度を一番に考えている。730床の規模にも関わらずTJUHでは、その日の食事をメニュー表から好きなだけ選択できたり、CHOPではホテルのルームサービスのうように、電話で何回でも好きなものを注文できたりと、目から鱗の落ちるようなフードサービスであった。日本では食事療法という名の通り、基本的に栄養補給のための食事であるため、考え方の違いに興味をもった。この取り組みは、ここ数年のうちにはじまったことのようだが、そこにはアメリカの医療システムや多民族国家であること、強いては彼らのライフスタイルに深いかかわりがあって、日本においてこのフードサービスの需要があったとしても、日本にそのまま持ち込むことはできないと思った。しかし誰もが不可能と思うことを、アメリカでは少しずつ形にしていった経緯は大変興味深いものであった。

次にLewis氏によるアメリカの医療システムについての講義である。病院が利潤を追求しなければならないことは両国ともにいえることだが、日本の管理栄養士の地位が低い理由の一つに診療報酬制度があると考えていたため、管理栄養士の利益の生み出し方の違いについて質問ができてよかった。どちらのシステムが優れている、というわけではなくその違いを知ることができたのはRDを多面的に考察するうえで、大変貴重な機会であった。

そして私が最も興味深かったのは、TJUShoshana氏による専門職連携教育の講義である。研修を受けるまで「アメリカの医療は大変進んでいて、多職種間が認め合いながら同じ立場で患者を診ている」と考えていたが、実際は残存するヒエラルキーを取り払うことで、より患者本位の医療を展開しようと大学教育から奮闘していることを知った。WHOも推奨しているこの取り組みは、医療の質を向上させる一端を担うと感じた。この分野について、より深く学びたいという思いを今強く持っている。自分がわくわくするような分野に出会えたことは、本当に喜ばしいことであり、自身の人生に大いなる意味を持つと確信している。

講義の内容以外にも学んだことは沢山ある。とりわけ出会えた人々の精神から学べたものは大きかった。たとえば、彼らの「自分は治療に貢献している」という自信は凄まじく、その気概がヒエラルキーを取り払うことに必要だと感じた。また彼らは伝えるだけではなく、私のような足元にも及ばないような人の意見も求め、学ぼうとする姿勢を持っている。これには大変驚いた。その思いに応えるべく自分の持ちうる力のすべてを出し切ったつもりだが、語学力のなさから満足いく程度までは及ばなかったことがとても悔しい。実際、今回の研修では、すべての説明がネイティブのスピードかつ専門用語交じりで行われるため、6日間のうち約20時間は常に集中して英語を追う必要があった。こういった環境で自身の語学力の至らなさを痛感した一方、恥も承知で積極的に質問できたことは掛け替えのない経験であった。受動的では何も得られないということが率直な感想だが、元来社会とはそういうものであったということを再認識できたこともよかった。

最後に、今回この研修のスケジュールを調整して下さったYumiko氏をはじめMike氏、Nobuko氏そして温かい心で迎えてくれたJanice氏に大変感謝しています。みなさんのおかげで、私たちは不安なく研修を行うことができました。Takami氏とお会いできたことも、とても幸運だったと思います。

またこの研修はNMRIの助成をうけて実施されました。貴重な経験をさせていただいたことに、心から感謝しています。メールでのやり取りをしてくださった樫本さま、現地でコーディネーターとして活躍してくれたステロラさんには感謝してもしきれません。今回の研修に関わってくださったすべての方々に感謝します。本当にありがとうございました。