米国財団法人野口医学研究所

医療システムや医学生の教育体制の違いを実感し、自分の将来の目標を再確認する良い機会となりました。

藤田医科大学6年軽部歩

2024年3月21日〜4月5日米国トーマス・ジェファーソン大学

研修レポート 医療システムや医学生の教育体制の違いを実感し、自分の将来の目標を再確認する良い機会となりました。

[はじめに]
私は2024年の322日から45日までの間の2週間、野口医学研究所のプログラムにより、米国のペンシルバニア州フィラデルフィアにあるThomas Jefferson UniversityClinical Clerkshipを行わせて頂くことができました。幼少期に少しの間フィラデルフィアの小学校に通っていたこともあり、フィラデルフィアを再び訪れることができたことは個人的にとても感慨深かったです。年月は経ちましたが、古き良き街並みや地域の方の温かさは変わっておらず、嬉しい気持ちになりました。

私は将来家庭医療・地域医療に従事したいと思っており、家庭医療がひとつの診療科として確立されている米国で家庭医療の実際を拝見すること、米国と日本の医療現場における医学生の役割の違い、米国と日本の医療制度の違いが医療現場にもたらす影響を学ぶことを目標に実習に臨みました。以下、プログラムで経験させて頂いたことの一部を記します。

[内科の回診]
アテンディング、フェロー、レジデント、学生等で構成された複数のチームに分かれて回診を行いました。各自が担当症例のプレゼンをし、診断の課程や治療方針について意見を出し合い、検討を重ねていく点は日本と変わらないように感じました。一方で、米国の医学生はチームの一員として、受け持った症例のプレゼンテーションや治療方針の策定までを1人でこなしており、医療現場における日本の医学生との違いを強く実感しました。日本の病院で実習を行う中で、担当の患者さんの診察やプレゼンをさせていただく機会はありましたが、医学生が主体となって提案をしたり、先生方と議論することはなかったので驚きました。アテンディングの先生も、医学生が患者さんの回診、サマリーの作成などをこなしてくれているのでとても助かっていると仰っていました。

[家庭医療科外来]
念願だった家庭医療科の見学が叶いました。個室に患者さんが待機しており、医師が各部屋を訪問するといった形で診察が行われていました。家庭医療科では、いわゆる「プライマリ・ケア」が行われており、専門分野にとらわれない、幅広い疾患が診られていました。生物学的性と性自認が異なる方に対するホルモン治療のフォロー、帯状疱疹後の神経痛、指の打撲、薬物依存症のフォローなど、common diseaseと共に、日本では頻繁に出会うことはないであろうケースも経験させて頂くことが出来ました。診察を拝見する中で、今まで自分は、多様性を理解していたつもりで実は全く理解できていなかったことに気付かされました。ワクチン接種の可否を、自分が支持する政党の方針によって変える人もいるということなど想像もできていませんでした。宗教、ジェンダー、政治的信条など、患者さんに対して多面的な配慮をしながら、患者さん一人ひとりに「病気」という微視的な面のみでなく、患者さんの心情や患者さんを取り巻く環境といった巨視的な面に対しても向き合うことで、患者さんとのラポールも構築でき、適切な医療を提供できるのではないかと感じました。

[消化器内科内視鏡検査]
日本とは異なる点が多く、驚きの連続でした。まず、検査室には看護師2名と麻酔科医、消化器内科医がおり、内視鏡検査はほぼ全例全身静脈麻酔下で(ごく稀に麻酔を希望されない方もいるそうですが…)行われていました。麻酔をかけられ、あっという間に上部と下部の内視鏡検査が行われ、麻酔から覚めたときには全ての検査が終わっています。先生からは、内視鏡所見の見方や、米国における消化器疾患の疫学についてもご教授頂き、とても勉強になりました。

[救急科]
私はThomas Jefferson University Hospitalと、関連病院であるJefferson Methodist Hospital2つの救急部門を見学することが出来ました。Thomas Jefferson University Hospitalでは、夜間でもほぼ全科の医師が揃っており、どのような疾患にも直ぐ対応できるような体制が整っていました。一方で、近隣のJefferson Methodist Hospitalは、二次救急の役割を果たしている印象を受けました。アテンディングの先生に患者さんを割り振って頂き、問診や簡単な身体診察、プレゼンテーションまでさせて頂き、大変貴重な機会となりました。

Chinatown Clinic
Chinatown Clinicは、Dr. Wayne Bond Lauの先導のもと、フィラデルフィアのチャイナタウンにおいて運営予算なしで運営されてきた無償のクリニックです。多くの医学生がボランティアとして参加しており、上級生が下級生に問診や身体診察の取り方を指導し、Dr. Wayneにプレゼンテーションを行ったのちプレゼンテーションに対するフィードバックを頂き、それから全員で改めて患者さんのところへ赴き、診察を行うという流れでした。自身の疾患をカバーする保険に加入していないと高額な医療費を請求されてしまう米国で、無償で診察を受けられるということは患者さんにとっても大きなメリットだと思いますが、医学生が低学年のうちから実際に医療現場に出て、実践的な経験を積めるのはとてもいい仕組みだと感じました。

[総括]
本実習に参加させていただき、一部ではありますが、米国と日本との医療制度の違いや、反対に共通点についても学ぶことが出来ました。日本で実習している中では持ち得なかったであろう視点にも気づくことができ、複眼的思考のできる医師になるためにも必要な経験だったと感じています。文化的・社会的背景の異なる国の医療現場を見学できたことは、今後の自分にとって大きな人生の糧になると思います。

さらに、実際に米国で臨床をされていたり、研究をされている先生方の話を伺う機会もあり、医師としての働き方や将来のビジョンもより明確になりました。この経験を将来日本に還元できるように、日本に戻ってからも精進して参ります。

[謝辞]
この度、米国でClinical Clerkshipを行わせて頂くにあたってお世話になった皆様に、心より御礼申し上げます。野口医学研究所の浅野嘉久様、佐野潔先生、佐藤隆美先生、Ms. Stellora、木暮貴子様、掛橋典子様、中西真悠様、Thomas Jefferson University Japan centerのラディ由美子様、Mr. Vincent Gleizerをはじめ、心に残る講義をしてくださったDr. Joseph Majdan, 温かく外来に迎え入れて下さったGastroenterology DepartmentDr. Cuckoo Choudhary, 米国の医療制度についてや医師として大切なことなど様々なことを教えて下さったFamily MedicineDr. Gregory A Jaffe, 家族ぐるみで親切にしてくれた医学生のLiz1週間生活を共にしてくれた日本の医学生のみんな、全ての関わってくださった方々に感謝しております。ありがとうございました。

“The Gross Clinic” Thomas Eakinsが実際に見た手術を基に描かれたもので、実物はフィラデルフィア市内の美術館で観ることができます。 “The Gross Clinic” Thomas Eakinsが実際に見た手術を基に描かれたもので、実物はフィラデルフィア市内の美術館で観ることができます。
研修を共にした日本の医学生の皆さんと 研修を共にした日本の医学生の皆さんと