Thomas Jefferson University Clinical Clerkship Program 研修レポート
2024年3月21日から3月30日の期間、米国ペンシルベニア州フィラデルフィアにあるトーマスジェファーソン大学にて、Clinical Clerkship programに参加させていただきました。
このプログラムでは、10日間という短い期間ではありますが、幅広い診療科やアメリカの医療システム・医療教育システムを学ぶ機会が集約されており、非常に充実した経験を積むことができました。
具体的な研修内容としては、現地日本人医師による日米の医療制度の違いに関するレクチャー、Internal medicineのチーム回診、救急科の日勤・準夜勤、小児科、リハビリテーション科、循環器に関するHarveyを使ったSimulation Class、現地Standardized Patient(SP)との問診練習、救急科とInternal medicineのResident向けのレクチャーへの参加といった大学・病院内での研修に加え、Mütter Museumや米国最古のペンシルベニア病院の訪問、Sidney Kimmel Medical Collegeの学生が行っているボランティア活動JeffHOPEに参加しました。
研修以外では、Sidney Kimmel Medical Collegeの学生と交流する機会もあり、現地の学生とのランチや彼らの家への訪問を通して、お互いの医療システムや医学生が抱える共通した悩みや目標などプライベートなことについても話すことができ、医師という同じ職業を目指す国を超えた横の繋がりも築くことができました。
研修内容に関しては、基本となる研修内容に加え、プログラムへの各参加者が研修前に事前提出した研修希望書に沿って、救急科、リハビリテーション科、脳外科、心臓外科、産婦人科などそれぞれの興味・関心がある科のObservationができるようJapan Centerの皆様が尽力してくださり、非常に感謝しております。
各研修内容の中で特に印象に残ったことを下記に記載いたします。
<Internal Medicine>
2日間にわたり、病棟のチーム回診に参加しました。私が参加したチームでは、無保険など様々な事情によりインスリンを定期的に入手することができず、糖尿病性ケトアシドーシスになって入院している患者さんが多くみられました。回診中にシニアレジデントに無保険の患者さんたちにできる退院後のフォローアップについてきくと、ソーシャルワーカーなどにつないで数か月リハビリテーションはできるかもしれないが、その後についてケアすることはできていないのが現状だと話しており、先生たち自身も現在のアメリカの医療システムの難しさについて悩んでいることがわかりました。
<Emergency Medicine>
救急患者の数は多く、一日150人以上がwalk-in、救急車含め運ばれてきており、各救急科の部屋以外に廊下にもぎっしりと患者さんがいるのに驚きました。救急のAttendingの先生に救急科を選んだ理由を聞いたときに、EMTALA法により患者がどの保険に入っているか入っていないかを気にせず、目の前の患者に向き合って治療できるところが好きだからと話していたのも印象に残っています。
<リハビリテーション科>
外来見学を通して、脚の幻肢痛(phantom leg pain)に対する治療法として、Graded Motor Imagery(GMI)療法について学びました。GMIのうちleft/right discriminationの段階において”orientate”というアプリを使って治療を行うなど病院外での治療についても様々なリハビリテーションの選択肢があることがわかり、リハビリテーション領域への興味がさらに高まりました。また、外来見学をさせていただいたDr. Ankamから適切な装具を患者さんに提供するために、丁寧に問診や身体診察を重ねることの重要性についてアメリカの保険制度による制限も含めて具体例とともに解説頂き、非常に勉強になりました。
<小児科>
小児科では患者に対する最初の問診を担当させていただき、小児や乳幼児のご両親に対するHistory Takingを実践で何回も行うことができました。最初の問診後に先生が患者さんに追加質問をしていく中で、こういったポイントも確認したほうがいいなど自身の問診スキルの改善点を見つけることができ、今後問診を行う際に活かしていきたいと思います。
<JeffHOPE>
JeffHOPEは主にSidney Kimmel Medical Collegeの学生によって運営されているボランティアグループで、私は彼らが活動を行っているシェルターのうちPhilly Houseという1878年に設立された男性向けシェルターでのボランティア活動に参加しました。学生はTriageチーム、Medical(Med)チーム、Educationチーム、Advocacyチームなど様々なチームにわかれ、学生に加えて1~2名の医師も参加しています。Medチームのメンバーとして患者の問診へ参加し、現地医学生とAssessment, Planに関する議論をすることで、医療資源が限られた中でできる治療について考える良い機会になりました。
診察の最後には、医学生がデータベースにSOAPを記載し、医師のチェックとサインを得て、ポータルを通して患者にも今回の診察内容、今後のプランについて送られるようになっており、学生が問診・身体診察スキルを実践の場で磨く体制があることに驚きました。
<総括>
今回の実習には、アメリカの医療・医療教育が実際にどういったものなのか現場で見て実践して学び、自身のキャリアの選択肢の一つとして考える機会としたいと思い応募しました。実習を通して、アメリカの医療制度の難しさを目の当たりにすると同時に、一定の水準以上のレベルの医療を担保するために非常に体系化された診療システムや教育システムが構築されていることがわかりました。また、アメリカの医療を知り、日本の医療を外から見ることで、改めて日本の医療レベルの高さにも驚きました。日米の医療の優れている点、他方から学びたいと思える点について気づくことができたのは、『百聞は一見に如かず』という言葉のとおり、今回こうした貴重な機会をいただくことができたおかげです。
これから大学を卒業し医師としてのキャリアをスタートする中でも、知りたいと思うことには柔軟にかつ貪欲に挑戦して自分の目で見て経験して成長していきたいと思います。
<謝辞>
今回の実習の実現にあたり、多大なるサポートをしてくださった野口医学研究所の浅野先生、足立先生、佐藤隆美先生、木暮様、中西様、Japan Centerのラディ由美子様、Vincent Gleizer様、Thomas Jefferson University のDr. Jillian Cooper, Dr. Nicole Tyczynska, Dr. Joseph Majdan, Dr. Nethra Ankam, Dr. Becca Matta、その他全ての方々に深く感謝いたします。
本Clinical Clerkship Programの修了生の名に誇りを持ち、学んだことを自身の医師人生に活かしてこれからも精進していきたいと思います。誠にありがとうございました。