米国財団法人野口医学研究所

TJU神経内科でのエクスターンシップを終えて

洛和会音羽病院 初期研修医橋本寛子

2023年12月2日〜12月23日米国トーマス・ジェファーソン大学

臨床研修レポート「TJU神経内科でのエクスターンシップを終えて」

私は初期研修2年目の冬に、フィラデルフィアにあるThomas Jefferson Universityの神経内科で3週間のエクスターンシップに参加させて頂きました。

神経内科ではさまざまなサブスペシャリティの外来見学やstroke unit、神経内科病棟の業務を見学することができましたので、ご報告させていただきます。

1. 外来見学
Neuromuscular, Epilepsy, Movement disorder, general neurologyの外来を見学しました。レジデントが予診を取ってattendingに報告しフィードバックをもらうという流れです。一人の患者に30分程度かけて(初診では1時間かけることも)丁寧に診察しているのが印象的でした。それぞれのsubspecialityの専門家とディスカッションできる環境は魅力的だと感じました。ある印象的だった症例があります。原因不明の全身の慢性疼痛で様々な医療機関を受診している10代女性の両親が、多数の専門的な質問を投げかけ、それに対して上級医が最新のエビデンスや医学用語を駆使して説明していました。患者の信頼を得るには、プロフェッショナルな態度やコミュニケーション能力が必要と痛感しました。

2. Stroke Unit
毎朝のカンファでdispositionや治療方針を確認します. 医学生のローテーターがおり、症例プレゼンや臨床研究の論文紹介をしていて、発表の上手さに驚愕しました。AttendingDr. Yaddanapudistroke治療の最新のエビデンスを論文を引用して話されるだけでなく神経診察や神経画像についても博識で、毎朝2時間程度のカンファが大変勉強になりました。

3. 神経内科病棟
てんかん重積や髄膜炎、脳出血、CJDなどの患者が入院しています。留学の最終週で病院に慣れてきたのもあり、レジデントにカルテの閲覧させてもらったり、患者に問診を取ったり、カンファで症例プレゼンをさせていただく機会があり、好意的な評価をいただいたことはいい経験になりました。

4. ALS team
神経内科医でALS研究者でもあるDr.Ilievaに誘っていただきALS患者の外来を見学しました。NPが中心となって患者や家族について疾患のステージや家庭環境を共有した上で、神経内科だけでなく呼吸器科医、リハビリ医、緩和ケア医のほか、PT、栄養士、遺伝カウンセラー、臨床研究コンサルタント、social workerが代わる代わる患者のいる部屋を訪問し、長期的なケアを相談します。アメリカでは基本的に自宅が療養場所となり、訪問看護は利用できますが家族がcaregiverになることがほとんどです。疾患が進む前に住環境を整えたり車椅子を準備したりとプランが必要になります。NPPVや胃瘻は患者によっては使用しますが、気管切開·人工呼吸器を選ぶ患者は少ないということでした。またHealey trial という進行中の治験に参加する患者もいました。これらの専門家からのアドバイスを受けるために患者にとっては半日がかりで外来受診することになります。日本では神経内科医や訪問診療医が担当することが多いALSですが、包括的なケアや継続的なサポートをするためにMultidisciplinary teamで診療にあたることは予後を延長するエビデンスがあり、日本でも導入できると良いと思いました。

5. ラボ見学
4つのラボを見学しました。Moss Rehab research instituteDr. Erica Middletonの研究室では脳卒中後の失語のリハビリについて研究しておられ、脳波やeye traffickingを用いた言語プロセスを解明するという内容でした。Brain Machine Interfaceの研究者であるDr. Mijailは脳に埋め込んだdecoderでパソコン操作をするというNature掲載の論文を書いた方で、他にもリハビリのためのorthosisを開発するなど野心的にBMI研究をされている方です。「患者のために自分でできることがあるから始めたんだ。」とお話されていました。「患者のために」研究をするというのは一見当たり前のようですが、アイデアから実行に移すことは難しいものです。それを実現されていることに感銘を受けました。

6. 見学
移民を中心とした無保険の患者にたいし、無料で医療を提供している場所です。医学生が中心となり患者をトリアージ·診察して、attending に報告、簡単な検査(CBC, 生化学、心電図)を行ったり手書きのprescription を渡すという内容です。無保険で英語も話せずvisaを持っていないというpopulationがかなり多いようで、ボランティアの通訳も参加し診療に当たっています。医学生にとっても人気のボランティア先のようです。AttendingLau先生は患者にも学生にも(訪問した私にも)とても丁寧に指導しておられ、熱意にあふれた素晴らしい先生で、知り合えたことが財産になりました。

7. 見学
Prf. Laushadowingさせていただきました。
ERの待ち時間はwalk-inで(トリアージにもよりますが)8時間から10時間に及ぶこともあるようです。レジデントが中心になって初療にあたり、attendingであるLau先生が治療内容を確認したり患者説明をしたりしていました。観察室の患者管理もERの仕事なので持ち回りで担当していました。

8. Telehealth
救急/集中治療医であるDr. Chientelehealthを見学させていただきました。午前中で20人ほど、発熱や咳がほとんどでした。問診や簡単な診察(咽頭を自分でライトで照らしてもらって観察したり項部硬直の検査を自分でやってもらったり)をして、対症療法や場合によっては抗菌薬を処方していました。肺炎疑いの患者にはER受診を勧めていました。ほかの安定した患者でも、症状悪化時の危険なサインを具体的に説明し、ER受診すべきときを説明して患者とリスクを共有することを重視しているようでした。

振り返り1 神経内科研修について
神経内科レジデンシーは1学年10人、4年間(うち1年間は内科ローテ)のカリキュラムですElectiveの時期には眼科やICUを回ったり、海外研修をしたりと自由に研修先を選ぶことができます毎日昼には専門医からの講義や、ケースカンファ、medical professionalとしての講義(マイノリティへの対応、リーダーシップなど)があります大学病院だからということはあるかもしれませんが、教育の機会には事欠かず、恵まれた環境で研修ができるようですレジデンシー選考では医学生のローテ時の評価を重要視すると言われていましたIMGへのアドバイスとしてはアメリカ臨床経験を積むこと、研究業績を上げること、と言われました

振り返り2 留学時期と内容について
アメリカ渡航は初めてで、神経内科だけでなく医療の様々な側面を学びたいと思い研修希望を提出したところ、様々な部署を見学させていただいて医療の多様な面を学ぶことができ大変ありがたく思っています。一方あとから振り返ってみると、一つの部署に最大3日程度しか見学できなかったので、自分をよく知ってもらい推薦状を書いてもらえるほどのつながりができなかったのは誤算でした。今後留学される方は、目的を定めて留学期間やローテ先を選んだほうがいいかもしれません。

最後に
短い臨床留学でしたが、日本では見られない神経疾患はもちろん、国際的なコミュニケーション能力を身につけるきっかけになりました。病棟でプレゼンさせていただくことで、自分の医学知識を再確認することもできました。その中でやはり様々な疾患や診断方法、最新の研究結果などをもっと勉強する必要を痛感しました。また、多職種チームの中で患者のケアをするためには、英語ももちろんですがプロフェッショナルな態度で自分の意見をはっきり伝え、ディスカッションする能力をにつける必要性を痛感しました。このエクスターンシップを通して、Physician scientistになりたいという希望が強く固まりました。アメリカの医療を学ぶことができ、また神経内科医としての将来のキャリアを考える上でも非常に良い機会となった留学でした。

謝辞
TJU neurologyDr. Berk, Dr. Yaddanapudi, Dr. Ilieva, Dr. Wong にはとても丁寧にご指導いただきました心からの感謝を申し上げますそしてシャドウさせていただいたレジデントのMadelineRickaにもお礼申し上げますまたERChinatown Free ClinicDr. Lauには熱心にご指導いただき感動いたしましたMoss Rehab InstituteDr. Middletonの見学時の歓迎と研究のご説明が心に残っていますそして留学準備のため継続的なご支援をいただいた野口医学研究所の木暮様·掛橋様、TJU Japan center のラディ由美子様のお陰で快適な留学生活を送ることができました誠にありがとうございました

Dr.Berkと病棟にて Dr.Berkと病棟にて
Dr. Middletonのラボの皆さんと Dr. Middletonのラボの皆さんと
ALS研究者であるDr.Ilievaと ALS研究者であるDr.Ilievaと