米国財団法人野口医学研究所

Thomas Jefferson University Externship研修報告

在沖米国海軍病院 日本人フェロー高松航

2023年10月2日〜10月20日米国トーマス・ジェファーソン大学

臨床研修レポート「Thomas Jefferson University Externship研修報告」

 私はThomas Jefferson University HospitalInternal medicine team2023102日から1020日までの3 週間エクスターンシップに参加させて頂きました。

 まずmedicine teamの構成ですが、指導医1名、2年目研修医1名、1年目研修医2名の4±医学生数名の構成で12名程度の患者を担当します。1日の流れですが、まず1年目の研修医は朝630頃から夜勤帯のカルテを確認しプレ回診をします。8時頃から2年目の研修医がケースマネジメントの部屋に赴き、担当患者の病状と退院の見込み、退院までの障壁などを話し合います。その後病院内のカンファレンスルームで指導医とカルテレビューを行い、治療方針を決定していきます。指導医のスタイルにもよりますが、通常アクティブな患者に絞るなどして数名に対して全員で回診を行います。昼には月曜日を除いて昼食付きの講義があり、学内外の講演者を迎えトピックも多岐にわたります。午後もオーダーやカルテ記載を行い、夕方には再度指導医と共にカルテレビューを行い治療方針を決定していきます。16-17時頃には夜勤帯の医師に引き継ぎます。

 患者については、多くの合併症を持っていたり、社会的な問題を抱えていたりと、様々な点で多様な患者を見ているのが印象的でした。各専門科が院内にいて比較的容易にコンサルトができ、複数の医学的問題を抱えている患者を診るという点では日本の大規模病院と同様ですが、患者の疾患背景、社会的背景には、日本ではなかなか見られない点が多くあり興味深いものでした。具体的には、体重が400kg以上あり体のサイズに合う家を見つけるのに難渋している症例、保険がなく安価な薬剤の使用にとどめなければならない症例、透析が必要だがシェルター住まいで外来透析の調整が難航し短期的に救急外来での透析が検討されている症例など、身体的な問題以上に社会的な問題がある症例が多く、在院日数は日本のそれと比べてアメリカでは一般的に短いものの、転院調整に難渋し数週間入院している症例が少ないながらあるという点は興味深い点でした。また、患者の年齢が比較的若く、40-60歳であったとしても、糖尿病、高血圧、脂質異常症が未治療で心血管疾患に対する介入を要し、加えて薬物中毒と精神疾患が併存している症例も散見されました。

 研修の中で日本での臨床経験と比較して最も異なる点は医学教育体制の充実という点だと感じました。指導医の質問に対する医学生、研修医の受け答えを見る限りは、医学的知識に関して日本の医学生、研修医が特段劣っているという印象は受けませんでした。しかしながら、トマス・ジェファーソン大学病院の学生、研修医の方がより積極的にチーム医療に参加している印象を受けました。医学生でも自ら担当した患者のアセスメント・プランを立て、実際に患者や患者家族への説明を行っており、研修医においては1年目であっても転帰を含めたプランまで自信を持って計画を立てることができているような印象を受けました。2年目の研修医はチームをまとめる役割を担っており、ほぼ独立して診療を行うことのできる資質が十分に備わっている印象を受けました。また、今回期間を通して計4名の指導医がチームを担当していましたが、全員が教育的で、建設的なフィードバックを研修医等に行なっているのが非常に印象的でした。私も浅学ながら医療現場等で学生、後輩医師に指導を行った経験はありますが、恥ずかしながらそれらは決して教育と呼べるようなものではありませんでした。トマス・ジェファーソン大学病院の指導医のように、学生、研修医の考えを肯定し、その上で彼らの参考になるような指導事項を限られた時間で適切に伝えることができれば教育の質は高かったであろうと、自らを振り返り大変反省しました。

 今回はあくまで一施設の一側面を見ただけに過ぎませんが、米国での医療の端緒を垣間見ることができました。それは日本の医療と比較して、似通っているところ、異なるところの両方があり、患者・医療従事者にとっても良いこと、悪いことの両方があります。米国でも有数の大学病院の病棟を見学することができて、その医療の質の高さ、医学教育体制の質の高さを知ることができましたが、その一方で米国にはその質の高い医療を享受できない患者が多くいます。そのような患者に対して手を差し伸べるアウトリーチとしてJeff Hopeという学生主導の組織や、今回見学したLau先生によるChinatown clinicがあります。Chinatown clinicでは医療保険がない、在留資格がない、薬を買うお金がないといった通常の医療機関を受診できない患者を無償で診療しています。患者の多くは中国人かインドネシア人で、英語を話せない患者も多いですが、ボランティアの通訳や、中国語、インドネシア語を話すことのできる医学生が通訳を行っていました。医師は救急科医師のLau先生のほぼ1名で、その他は月1回程度精神科、リウマチ科の外来があるのみです。教会の一角を利用して受付、待合室、診察室が作られており、運営はほぼ全てトマス・ジェファーソン大学の医学生によって行われ、1-2年生は受付や予診が中心ですが、臨床実習に出ている3-4年生は、ある程度自ら患者を診てからLau先生に確認する形で診療をおこなっていました。米国では学業成績だけでなくボランティア活動も評価されるため、このような活動に参加する学生が多いのも事実だとは思いますが、診療や教育の機会が得られるという点でも非常に有意義な活動であると思いました。国民皆保険制度のない米国では、重症になるまで適切な医療を享受することができない人々がいることは紛れもない事実ですが、その問題を少しでも良くしようとこのような活動が行われていることも事実です。普段日本にいると意識しないようなことも、今回の研修を通じて学ぶことができました。

 実習最終日前日に1日だけリウマチ科を実習することができました。午前中は外来を見学し、午後は病棟の回診に同行しました。外来では専攻医が診察した後指導医に確認するスタイルで、患者1人あたりの時間に余裕があり指導医からのフィードバックを受けながら診療しているのが特徴的でした。病棟ではコンサルトを受けた患者のフォローアップの回診でしたが、大学病院で見るような、分類困難な間質性肺炎や肺高血圧症の患者など、診断に苦慮する症例を見ることができました。 疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs )の種類に多少の差はありますが、日本での治療薬や管理方法と特段変わっている印象はありませんでした。ただしこちらでも教育環境が整っている印象を受けました。

 今回3週間という限られた時間ではありましたが、非常に多くの経験と学びを得ることができました。私は日本の病院での勤務経験があり、また現在米海軍病院に所属しアメリカの医療スタイルを経験していますが、トマス・ジェファーソン大学病院はそのどちらとも異なる雰囲気で、米国の研究・教育施設らしい活発で優秀な人材とシステムがあることを知ることができました。今回経験できたことを糧に、私は幅広い患者を診療できるリウマチ・膠原病内科医になれるよう尽力して参りたいと思います。最後に、多くのことを教えてくださいました内科チームのAmmerman先生、Taboada先生、Wong先生、リウマチ科のPark先生、Wilson先生、救急科のLau先生、研修医・学生の皆様、親身になって相談に乗ってくださいました佐藤隆美先生、森田泰央先生、一部共に実習を行った東邦大学薬学部の皆様、そして今回のエクスターンシップを実現するにあたり尽力くださいました野口医学研究所の皆様、現地コーディネーターのRadi由美子さんにこの場を借りて熱く御礼申し上げたいと思います。ありがとうございました。

Chinatown clinic診察風景 Chinatown clinic診察風景
Team Green4(1週目)の皆と Team Green4(1週目)の皆と
Team Green4(2-3週目)の皆と Team Green4(2-3週目)の皆と