短期間でたくさんの方々と関わることのでき、充実した研修
【初めに】
2023年9月22日から29日にかけて、米国ペンシルベニア州フィラデルフィアにありますトーマス・ジェファーソン大学での、Clinical Clerkshipに参加させていただきました。約1週間という限られた期間ではありましたが、1日に2、3診療科も経験できるようにデザインされておりました。大変充実した研修とさせていただきました。
また、一般内科・外科、救急の外来や病棟見学のみならず、200年前の解剖標本や人骨が保存されているMutter Museumの見学や、米国最古ペンシルベニア病院見学、循環器シミュレーター「Harvey」や模擬患者さんとのシュミレーション授業、医学生が運営する無償のクリニックJeffHOPEでのボランティア参加、Asano Dr. Humanitiesの特別講義まで大変盛りだくさんの研修プログラムでありました。また現地の学生やドクター、現地で働かれている日本人の先生方、スタッフの方ともたくさん関わらせていただきました。その中で、将来アメリカでの医師を目指すこと、そのためのキャリア形成について指南していただきました。また先生方や現地の方ともネットワークを広げることができました。
【今回の実習での総括】
①医療提供体制、現場のスタッフの方々の他職種連携、医学生の現場チーム医療の中での立場・積極性について、アメリカと日本における異なる点・同じ点をそれぞれ見出すことができました。
②現地フィラデルフィアにおける社会問題・医療問題について考えることができました。(ドラッグユースのホームレスの方が多いことや、救急待ちの問題など)
③USMLEへの勉強の仕方についての悩みで、現地の学生と共感することができました。
④米国で医者として働くことを実現するための「ステップの多さ」と「大変さ」を改めて認識しました。
⑤その中で、改めて強くアメリカで医者として働きたいと強く決心しました。
【Day 1 佐藤先生「アメリカの医療費がなぜ高いのか」講義】
TJU Japan centerの佐藤先生にご講義いただきました。医療制度が高い理由を、アメリカや現地フィラデルフィアの社会問題と絡めた内容がとても衝撃的でした。医療制度が高い理由としては、医師の教育費が高いこと、Scriber(書記スタッフ)などの事務職員が多いことにより人件費がかかること、保険未加入などの事情で医療費を払えない場合救急費用に関しては病院の持ち出しとなりその費用は医療費の高騰につながっていることなど、医療費が高くなる理由は一様には語れないことを学びました。自大学の授業でも、アメリカの医療制度については、日本とは異なり国民皆保険制度ではないこと、海軍保険など軍の方々は保険が手厚いことは存じておりました。しかしながら、先生の講義で改めて衝撃を受け、高額医療費問題や社会問題について考えることができました。また、その後の現地実習において、現地の学生や先生方とフィラデルフィアの医療問題を話すときに、その事前知識があることで大変役立ちました。ありがとうございました。
【Day 1 米国最古フィラデルフィア病院見学】
アメリカ最古の病院を見学させていただきました。 ボランティアの方が、中の施設を一つ一つ丁寧に説明してくださりました。私が一番衝撃的だったことは、電気のない時代にも手術が行われていたことです。 手術にはもちろん、明るい環境が必要です。その時代は電気がなかったため、太陽の光を、現代の手術における無影灯代わりに用いていたそうです。そのため、手術が行われるのは晴天に限られ、光を取り込むため、ガラス張りの屋上で手術が行われていました。加えて、現代手術における清潔操作、不潔操作などの概念もなく、また、当時は、中央で手術が行われている様を、階段状に囲んだ席から学生や一般市民が見物していたそうです。現代とは全く異なる様式で行われていたことに大変衝撃を受けました。
【Internal Medicine、Emergency Department病棟見学】
Internal Medicineを午前に2日間、Emergency Departmentは午後に見学いたしました。私が一番に衝撃を受けた事は、レジデントの症例発表だと思っていたものが、彼の名札を見ると、医学生と書いてあったことです。彼に聞いてみると、医学部3年生とわかりました。日本で医学部3年生と言うとびっくりするかもしれませんが、正確には日本の医学部3年生とアメリカの医学部3年生は異なり、(一概には言えませんが、)年齢的には、向こうの3年生が日本の初期研修の2年目、実習の年数で換算すると、日本の医学部の5年生に当たるそうです。 アメリカでは医学部に入るには、一般の四年制大学を卒業した後、四年制の医学部に入ります。一般の四年制大学を卒業した後に、一度社会人として働いた後に医学部に入る人も多くいるそうです。そのためなのか、個人的な感想にはなりますが、同じ「学生」と言えども、社会経験も豊富であり、また、ひとつひとつに対する意識がより真剣である印象を受けました。その医学生が担当していた患者さんは、菌血症・敗血症の疑いがある方でした。まずは上級医が患者さんに、菌血症・敗血症の説明、感染したところから血液を介して、全身の臓器不全を起こす可能性があること、抗菌薬を開始することなど、ベッドサイドで説明されておりました。このことは、アメリカを遠くに感じていた手前、世界共通であることに嬉しく感じました。私は、4月にベトナムでの病院実習も経験させていただきましたが、そこでの経験も踏まえ気づいたことがあります。 ベトナムやアメリカでは、日本と医療環境や状況、医療提供サービスなど全く異なると思っていたのですが、自分の思っていることよりも、はるかに医療における世界共通なことが多かったということです。将来アメリカで働くことを考える上で、何が日本とは違い、何のために行きたいのか改めてブラッシュアップする必要があると感じました。
【Simulation Lecture】
先生の循環器、心臓の講義では、さまざまな心疾患における心音を実際のシュミレーションを使って勉強しました。日本で習ったことも、また新しい知識も、英語で学ぶことで、新鮮に学ぶことができました。先生は今回の実習を通して、「My door is open」と終始声をかけてくださいました。いつも君たちが学びに来ることを歓迎するし、いくらでも支援するとおっしゃってくださいました。実習だけでなくその温かい言葉をかけてくださることに感銘し、私のこれからの人生のモチベーションとさせていただきました。個人的には、先生が聴診器で聞いている心音を、遠く離れている自分たちの聴診器でもシンクロして聞けることシステムがすごいなと感じました。
【JeffHope見学】
JeffHopeとは、医学生が、診察や薬を無償で提供する医療ボランティア活動のことです。学生の授業や実習が終わる午後5時から、夜の10時まで見学いたしました。
私が一番衝撃を受けた事は、医学生が現場で血圧測定や採血・薬の処方までもの医療行為を実践的に行っていることと、医療行為だけでなく寄付で集めた「歯ブラシ」や「シャンプー」などの生活に欠かせない衛生用品やパンツや靴下・Tシャツ等の衣類も、個人の要望に応じて無償で提供していることです。
加えて、Googleスプレッドシートを用いて、実際の病院のカルテのように、患者さんの今の診察状況・段階を瞬時に細かく把握できるように工夫されていました。主訴や現病歴、プロブレムリストだけでなく、患者がどのブースに今いるのか、例えば今はトリアージの場所にいるので、次は学生の診察待ちである、もしくは、すでに医学生の診察待ちを終え、今は薬の受け取り待ちであるなど、患者さんの今の診察状況・段階を瞬時に細かく把握できるシステムが構築されていることはとても素晴らしいと思いました。
【Mütter museum】
Mütter museumは、1858年、約170年前にトーマス・デント・ミュッター博士によって寄贈された解剖学的および病理学的な標本、蝋模型、アンティークが展示されている美術館です。私たちは、研修プログラムの一環として見学いたしまいした。約170年前の臓器や、人骨の展示には最初は衝撃を受けました。展示の解説を見ながら、みんなが持っている医学の知識を使って、これはこうじゃない?これはこうなのかなと、気づけば二時間も白熱して話し合いました。観光では得ることのできないとても充実した二時間となりました。一番印象に残っている事は、貧血があると骨形成が少なくなるためか、眼科の裏側に穴が開くことです。一つ一つの人骨を見ながらその違いについて観察しました。
【Outpatient family medicine】
朝7時半から昼の12時まで見学させていただきました。朝の7時半から外来診察が始まっており、まずその早い始業時間から衝撃を受けました。 また、積極的にオンライン診察を取り入れており、何度か見学させていただきました。 日本でもコロナを機にオンライン診察が増えましたが、私が今まで日本で見学したことがあるのは、音声電話のみであります。ビデオ通話でオンライン診察は、患者さんの顔の表情を見て診察できるという点からとてもいいなと感じました。加えて、カルテが全国ネットワークにつながっており、 他のクリニックの受診歴やカルテ記載を参照できることがとてもいいなと感じました。
【Outpatient Pediatrics】
朝9時から昼の12時まで見学させていただきました。
一番印象的であった事は、お母さんが子供ができたことに対して、日本ではオーバーリアクションに取られるほど、褒めてあげていることでした。また医師も一緒に褒めてあげることで、子供にとってもお母さんにとってもとてもいい雰囲気づくりができているなと感じました。自分も将来子供が授かったり、小児科に進んだり、他の診療科においても子供の患者さんにであったり、もちろん、子供の患者さんでなくても、一つ一つ達成したことに一緒に相手が喜ぶほど、褒めてあげられる人間・医師になろうと強く思いました。
【Outpatient ObGyn】
昼の13時から夕方16時まで見学いたしました。私が今回見学させていただいた外来は、中絶に関するブースでした。州により人工妊娠中絶ができる州と、できない州とがあります。人工妊娠中絶ができない州から、人工妊娠中絶のためにできる州に移動して妊娠中絶を行うことが違法であると言うことを聞き、とても考えさせられました。日本で中絶薬である、mifepristone(ミフェプリストン)とMisoprostol(ミソプロストール)の合材が認証されたと言う話題を先生から振っていただきましたが、自分はそのことを知りませんでした。自分の国の内情についてもっと勉強が必要であると強く感じました。
【Dr. Asano Humanities講義】
夜のDr. Asano Humanities講義に参加させていただきました。今回は、Deafの方による手話の講義でした。医学部の学生が参加しているので、「 What is your name? 」などの日常会話や手話についての歴史だけでなく、「 I have a headache」や「 I have a stomachache 」などの医療用語も学ぶことができました。とても新鮮な授業でした。また参加している学生は皆、手話をスムーズに使っており、その光景にとても刺激を受けました。私も日本で手話を学んだことがあり、似ている表現や全然違う手話の表現があったり、フランスのハンドサインから由来していたりと、手話の一つ一つの由来までも知れたりと、たくさんの発見がありました。今でも、自分のY・U・K・Iのスペルは手話で伝えれるよう覚えています。この経験を活かして、手話をもっと学びたいなと感じることができました。ありがとうございました。
【謝辞】
今回の研修でたくさんの学びと気づきを得ることができました。このような貴重な機会をいただき、参加できたことを心より感謝いたします。
野⼝医学研究所の足立先生、佐藤先⽣、⽊暮さん、中西さん、TJU のDr. Joseph Majdan, Dr. Chantel, Dr. Wayne Bond Lau, Dr. Julia Palecki、TJU循環器麻酔科 森田先生、Japan Center のRadi Yumikoさん、Martin HallのDestinee Sulakさんその他本研修の実現に関わって下さった皆様に⼼より感謝申し上げます。ありがとうございました。