米国財団法人野口医学研究所

Thomas Jefferson University Clinical Clerkship 研修レポート

高知大学 6 年笹岡歩乃佳

2023年3月米国トーマス・ジェファーソン大学

高知大学6年の笹岡歩乃佳先生による米国トーマス・ジェファーソン大学での研修レポート

はじめに
2023 3 24 ()~3 31 ()に、Thomas Jefferson University で実習をさせていただきまし た。様々な科の見学や先生方の講義、学生主体のボランティア団体 JeffHOPE の活動の見学、学生さん たちとの交流など、さまざまな経験をさせていただき、大変充実した 1 週間でした。以下、各研修を通 して特に印象に残ったことを中心に、研修の大きな目的であった「日本と米国の医学教育や医療システ ムの比較」に関して感じたことも含めて述べさせていただきます。

Emergency Department (ED)
まず驚いたことは、ED の診察室が 50 部屋もあり、それが全て満室になるほど多くの患者さんがいらっ しゃったことです。また、診察室はすべて仕切られており、プライバシーへの配慮が徹底されていること も印象的でした。患者さんの症状は様々で、呼吸困難、頭痛、腹痛などよくあるものから、透析を長期間 スキップした方、オピオイド常用のため慢性膵炎の腹痛に対する鎮静が効かない方、ホームレスの方や 創傷で運ばれた方など、日本では見られない症例も数多く目にすることができて、とても新鮮でした。米 国では各個人で保険が異なり、さらに ED 以外の外来では予約がなかなか取れないため、今すぐ治療を 必要とする患者の多くはまず ED で引き受けなければならないという現状に驚きました。症状が多岐に わたる大勢の患者さんたちに対し、医師やコメディカルの方々はトリアージや分担を適切に行うなど 様々な工夫もされていました。

Internal Medicine
内科では午前の team rounds 2 日間見学しました。私が見学した Green1 attending1 人、resident3 人、医学生 3 人のチームでした。日本のように、全患者についてカンファレンスを行ってから回診する のとは違って、各患者の部屋に入る前に廊下でディスカッションしてから回診を行っていました。ディ スカッションした直後に患者さんを診るので、評価がしやすいと感じました。また、各部屋にしっかり時 間を取り、丁寧に対話されていたのが印象的でした。さらに、34 年生が日々患者を Pre-rounds した上 で、assessment plan も踏まえて堂々とチームに報告をしており、対等にディスカッションを行ってい たことにとても感銘を受けました。その他、医学生が IV の挿入・抜去などの手技や他科へのコンサルタ ントの電話なども任されており、学生のうちにそこまで実践的な実習を行えるシステムがとても羨まし く感じました。医学生がより実践的に実習を行えるのは、やはりチームごとのピラミッド構造が確立さ れており、上級医がいつでも適切にアドバイスやフォローを行うシステムが出来上がっているからこそ ではないかと思いました。日本ではこのようなシステムはあまり浸透していないので、今後ぜひ取り入 れていってほしいと強く思います。また、学生も含めて、紙にまとめたカルテ以外にも、みなさんスマホ でカルテを見ていたことに大変驚きました。そのようなテクノロジーの有効活用についても日本との違 いを知ることができ、とても参考になりました。

Outpatient
全体を通して、一人一人の患者に 20~30 分程度しっかりと時間をかけ、さらに日本と比べて患者の希望 を重点的に聞き出していたのが印象的でした。どの科も患者向けの冊子を配布しており、患者教育にも とても熱心であることが伝わってきました。また、次回の予約は診察室の外で事務の方が行っており、医 師が診察に集中できる環境が日本より整っていると感じました。一方で、米国の外来は予約待ち期間が 非常に長いことも実感し、日本の医療が恵まれている部分に改めて気づくこともできました。 ・Pediatrics
小児科外来では Check-up が主でした。年齢に応じた成長発達に関する項目を自然に聞き出しており、親 だけでなく子供本人の話をしっかりと聞かれていました。ステッカーや年齢に合った絵本をプレゼント していたのも印象的でした。子供たちが楽しめて、なおかつ彼らの成長に繋がるため行っているとのこ とで、素敵な取り組みだと感じました。また、米国の公立小学校では、成長発達に遅れが出ている生徒に 対して、普通の授業時間とは別に個別の支援を行うサービスがあると知り、日本の特別支援学級のよう なもの以外にも、個人に合った指導が充実していることに驚きました。
Gastroenterology 先生は患者さんたちに対して気さくに雑談もはさみながら診療を行われており、患者さんがリラックス していらっしゃる様子が印象的でした。一日に 20 人ほど外来患者がいらっしゃるようですが、Tele visit も取り入れ、患者の負担軽減や診療の効率化にも取り組まれていました。
Family Medicine よくある慢性疾患の患者さんからうつ症状のある患者さんまで幅広く診療されていました。先生は患者 さんの症状だけでなく、日々の生活についてもじっくりと聞かれており、また現在服用している薬を一つ一つすべて口頭で確認していました。医師側の見落としを防ぐためだけでなく、患者自身の薬につい ての理解を確かめることにも繋がるとおっしゃっていて参考になりました。

JeffHOPE
水曜日に開かれている、女性や子供のための ACTS Shelter を見学しました。複数の committee に分か れてクリニックを運営しており、各リーダーや全体のリーダーが上手に全体をまとめ上げていました。 全体を通して、1 年生も含め全員が自主性を持って積極的に患者さんに関わり仕事をしている様子を見 て、非常に刺激を受けました。また、患者さんたちが JeffHOPE をとても信頼していること、クリニック が子供たちの交流の場にもなっていることなども印象的でした。私が主に見学した Education Committee では、日用品の支給から、禁煙に対するサポートや患者の保険に適したクリニックの予約なども行って おり、内容の幅広さにも驚きました。クリニック終了後には、全体でその日特に素晴らしい働きをした人 を発表して賞賛し合うなど、良好なチームワークを保つための工夫もされていて素敵でした。今回、学生 が主体で地域の問題に向き合い活動している様子を目の当たりにし、自分たちも地域の人々の健康や福 祉のために出来ることを考えなければいけないと実感しました。

Lectures
Joseph Majdan
先生からは、Harvey を用いた心音に関する講義、シミュレーションを通した問診・鑑別 診断の講義をしていただきました。先生のこれまでの経験についてのお話も聞くことができ、頭で考え るだけでなく心で診ることの重要性、医療の本質的な部分についても学ぶことができ、心温まる大変有 意義な時間でした。また、システマティックに問診や鑑別診断の練習を繰り返すことの重要性を身に染 みて実感しました。
Wayne Bond Lau 先生からは、China Clinic での取り組みを例に、Volunteerism についてレクチャーをし ていただきました。学生も積極的に診療に関わっていること、地域の患者さんたちが安心して暮らせる ように毎週水曜日は必ずクリニックを開いていること、米国の volunteerism に対する先生のお考えなど、 貴重なお話をたくさん聞くことが出来ましたし、私たち学生と熱心にディスカッションもしてくださり ました。医療を通して誰かを助けたいという純粋な気持ちを今後も大切にしていきたいと強く思いまし た。
その他にも
Shuji Mitsuhashi 先生には内科レジデントの働き方について教えていただきました。米国レ ジデントのスケジュールはとてもハードですが、昼勤務と夜勤務チームに分かれて効率的に業務を行っ ていることなど、日本との違いをいろいろと知ることが出来ました。Asano lecture では、佐野潔先生の Empathy Sympathy の違いや文化ごとの違いについての講義を受け、患者さんとの向き合い方につい て考え直す貴重なきっかけとなりました。

まとめ
今回の研修を通して、まず米国医学教育のレベルの高さ、学生の積極性に大変刺激を受けました。医療に 関しても、問診と身体診察に重きをおいた医療、屋根瓦式のチーム医療、業務の分担やテクノロジーの有 効活用、多様性に対する適切な対応など、日本と比べて優れていると感じる部分が多くありました。米国 は多くの分野でシステムの構築が進んでおり、これが特に日本の我々が参考にすべき部分かと思いまし
た。一方、経済の格差や保険、受診のしにくさなど、深刻な課題の数々も目の当たりにし、改めて日本の 医療の良さに気づくきっかけにもなりました。英語に関しては、初めて渡米した中で、まだまだ日常会 話、医療英語共に未熟な部分が多いことを実感しました。一方で、共通の言語を通して多くの方々と交流 すること、新たな学びを得ることの喜びを心から感じることもできました。 今回学んだことを糧に、今後の学習や実習・研修への取り組み方を見直すとともに、自分のキャリアプラ ンについても考えを深めていこうと思います。

また、今回共に研修をした参加者の 4 人には心から感謝しています。多くの時間を過ごす中で、一人一 人からたくさんの刺激を受けましたし、慣れない研修期間の中で 4 人が本当に心の支えでした。今後も 長く交流していきたいと思える仲間に出会えたこと、またそのような機会を与えて下さったこのプログ ラムに深く感謝しております。

謝辞 まず、今回の研修プログラムを主催して下さった米国財団法人野口医学研究所の皆様に深く感謝申し上 げます。また、40 周年という節目の年に関われたことを大変光栄に存じます。

野口医学研究所の浅野嘉久先生、佐藤隆美先生、佐野潔先生、Stellora Sunyobi さん、堤大造さん、掛橋 典子さん、J. Michael Kenney さん、小暮貴子さん、中西真悠さん、撮影クルーの方々、その他私たちの 研修に関わってくださった全てのスタッフの皆様、TJU で毎日研修や生活をサポートして下さった JeffersonJapanCenterRadi 由美子さん、Akikoさん、実習中に大変お世話になったWayneBondLau 先生、Charles Pohl 先生を始め、ご指導してくださった Joseph Majdan 先生、Natalie Margules 先生、 Brenda French 先生、Judith Larkin 先生、Shuji Mitsuhashi 先生、Elizabeth Daly 先生、Nicholas Orfanidis 先生、Scott Orlov さん、Ardhika さん、Rachel さんをはじめとする TJU 学生の皆さん、JeffHOPE の皆 さん、その他関わってくださった全ての皆様に心から御礼申し上げます。今回学んだことを糧に、最適な 医療を通して人々の健康な暮らしに貢献できるよう、さらに努力を重ね精進してまいります。