クリニカルクラークシップを通して学んだこと
3/25~3/31の7日間、フィラデルフィア市内のトーマス・ジェファーソン大学(TJU)にてクリニカルクラークシップに参加させていただきました。将来は国際的に活躍する医師になりたいと考えており、最先端と言われるアメリカの医療、医学教育の質を自分の目で確かめるために参加させていただきました。一週間という限られた時間ではありましたが、外来診察、病棟回診の見学、教授からの講義、JeffHOPEという課外活動など、様々な角度からアメリカの医療を経験することができ、それらすべてが私の日本の医学部での経験とは大きく違い刺激的でした。特に印象に残ったことを記載いたします。
【外来見学】
私は消化器内科、小児科、家庭医の見学させていただきました。どの診療科も限られた時間のなか、入念な準備を行い、患者が納得するように工夫をされているようでした。私が見学した消化器内科の先生は膵臓と胆嚢の内視鏡をされている先生で、市中病院では治療できないような複雑な症例の患者の外来をされていました。一方、小児科、家庭医の外来では日本の開業医と同じような役割で、疾患の重症度に関係なく地域の患者を診察しておりました。フィラデルフィアという大都市の中心に存在する大学病院とあり、専門性の高い診察のみを行っていると推察していた私にとって、general な外来を大学病院で行っていることに驚きました。TJUで40 年以上家庭医をしている医師にその理由を伺ったところ、evidenced-based の他の模範となる家庭医を大学で実施する価値はあると語っており、大学の役目は必ずしも専門性の高い医療のみを扱うわけではないという事実を再認識しました。また、小児科の外来では、アメリカと日本の保険の違いを垣間見ました。一人の患者の加入している保険では治療の選択肢が限られ、その限られた保険の中でできる最良の治療はないかと指導医の方は議論をしており、アメリカの国民皆保険ではない保険の実態を認識しました。
【病棟見学】
救急の病棟見学と内科の回診に参加させていただきました。救急では、患者の中には治療を拒否する方もいらっしゃり、実際に患者の希望通り帰宅されている様子を見て日本とアメリカでの患者の権力の違いを感じました。内科ではホスピタリストのチームに配属され、カンファレンスと指導医による診察を見学しました。カンファレンスでは、医学部3年生が担当患者の評価、治療の計画を指導医にプレゼンしており、日本の医学部生と比較にならないほどレベルが高かったです。診察では、患者に対してわかりやすい言葉で丁寧に説明している指導医の姿、すべてを理解しようと努力をする患者の姿を目撃し、アメリカでは患者であっても医学を理解する文化があるとわかりました。
【講義】
Wayne Lau先生は私がこれまで見てきたどの医師よりも教育に情熱をかけている臨床の先生で、一言一言が私の心に刺さりました。先生の講義を通し、医師は患者に貢献して初めて意味があるという事実を再認識しました。医師になることが格好いいからといった自己満足で終わるのではなく、患者に還元するという強い意識を持ち、医師として精進します。
Majdan 先生の講義では、心音の講義、模擬患者を通した臨床能力の講義を受けました。心音、問診の仕方でもともに「型」を身につけることの重要性を理解しました。「型」を身につけることで自信を持って診断することができ、余計な不安を取り除いて診断をすることで、患者へ余計な心配をかけません。模擬患者を利用した問診の講義では、専門用語はなるべく使用しない、最終的な診断は考えうる疾患をすべて排除して初めてなされるということをアドバイスいただきました。自信を持って問診を行うことができるよう、これから何度も練習をしようと思います。
【JeffHOPE】
JeffHOPE は約30 年前に始まった、ホームレスの患者に対する学生主導型のクリニックです。クリニックでは問診、血液検査、ワクチン接種、薬の処方などの医療行為を医師の指導下、ホームレスの患者へ提供します。当日はTJUの医学部1年生とともに問診をし、処置の見学をしました。無料で治療を受けることができる患者さんにとってはもちろんのこと、医学部生にとっても、1年生も実際に問診をし、疑問点は3年生から教わるという教育場所としての機能も果たしており、学生、患者ともに有益な理想的な環境だと感じました。
【その他】
これらのセッション以外にもCHOPで働かれている臨床の先生、研究の先生よりアメリカで医師として働く動機、研究者としてのアメリカでのメリットをお話してくださり、将来のキャリアを考える機会を頂きました。またTJUの佐藤隆美先生より、日本とアメリカの腫瘍内科の役割の差異について伺い、私が現在最も興味がある腫瘍内科について理解を深めることができました。日本を飛び出して米国で世界を相手にご活躍されている日本人先生を見て、誇りを持つとともに、先生のように世界基準で医療に貢献できる人材になりたいと強く感じました。
【まとめ】
今回の研修を通して、日本とアメリカの医療の捉え方、患者の立場、実施のされ方について差異を深く理解することができました。確かに日本とアメリカでは医療の差異はありますが、環境のせいにするのではなく、アメリカの良い点を取り入れることができるよう、積極的に行動します。また、科学の視点ではない、心の観点からの医学も学びました。AIの発展以来、医師は単に医療知識、正確性を持ち病気を治す存在ではなく、患者と直接対話をし、信頼関係を築き、患者を包括的に治療することが求められます。研修中にお会いした先生のような共感と思いやりを持つ世界の医療に貢献できる医師となるよう、精進します。
最後に、新型コロナウイルスの影響にも関わらず、TJUでの研修の実現に尽力してくださった、野口医学研究所の皆様、母のような存在で常に暖かくサポートしてくださったRadi Yumikoさんを始めとするジャパンセンターの皆様に感謝申し上げます。また、思いやりと共感を持つ医師像を行動で示してくださったDr. Wayne、Dr. Pohl、学生を思って情熱的な医学教育をしてくださったDr. Majdan、病棟見学、小児科、家庭医、消化器の外来見学でお忙しいなかシャドーイングを許可していただき、教育までしてくださったDr. Sonia、Dr. Minal、Dr.Perkel、Dr. Kowalski を始めとするトーマス・ジェファーソン大学の先生に心より御礼申し上げます。