米国財団法人野口医学研究所

Thomas Jefferson University Jefferson Hospital for Neuroscience での研修を終えて

合志病院 脳神経外科レジデント西山遼

2022年12月米国トーマス・ジェファーソン大学

西山遼先生による米国トーマス・ジェファーソン大学での研修レポート

今回私はThomas Jefferson University hospital の一つであるJefferson Hospital for Neuroscience (JHN)で11/28-12/16まで3週間主に脳神経外科で臨床見学を行う機会を得ま した。

アメリカ北東部のペンシルベニア州フィラデルフィアにあるこの病院は病院群全体で900床程度あ り、脳神経外科はメインの病院とは離れたところにあり、地下1階地上8階建で84床あります。 脳血管、腫瘍、脊椎、機能学とチームが分かれていました。

アメリカのレジデントは学年としては日本の専攻医と同じくらいになりますが、業務としてはか なり異なっていました。 レジデント1、2年目は病棟での業務がメインで手術に参加することは基本的になく、手術後の患 者の全身管理、検査の担当、家族への説明などを主に行なっていました。 チーフレジデントに報告し、より詳細に方針を確認していました。 3、4年目では他の市中病院に行ったりメイン病院に戻って手術に主に参加していました。 5年目レジデントは1年間臨床もしくは基礎研究を行うとのことでした。 6年目はチーフレジデントとしてそれぞれのチームを統括し、数ヶ月でローテートしていました。 7年目レジデントは最終学年であると同時にフェローでより高い専門性を身につけると言う仕組は 日本ではなく、印象的でした。

入院期間はかなり短く、安定している場合には手術後数日で退院し、リハビリ病院や自宅退院に なっていました。 病院での入院は高額な医療機器を設置する必要があるため入院費用は非常に負担の大きいもので す。また日本と異なり国民皆保険のないアメリカでは保険バーできる日数も制限されているため に、早期退院が一般的とのことでした。 退院後の設備がその分しっかりと整えられているためにできることだと思いました。

1日のスケジュールは朝6時からICU患者でのラウンドで夜間帯で起こったイベント、身体所見の 変化、採血データの変動や新規入院患者のプレゼンを病室を回りながら行います。血管チームの チーフレジデントが1、2年目レジデントからのプレゼンを聞いてその日の方針を確認します。 その後一般病棟にいる患者については血管、腫瘍チームともに確認します。 その後7時から曜日ごとにジャーナルクラブ、脳卒中カンファレンス、手術症例のカンファレンス を行います。 ジャーナルクラブでは悩んだり失敗したりした症例から他の施設ではどのように行なっているか 論文をもとにディスカッションしました。 また月に1回その月に起こった死亡例、合併症例について脳神経外科全体で検討しました。 どちらでも次に同じ失敗のないように院内でのプロトコルを作成したり、論文にまとめたりと教 育的にも学術的にも日本よりもさらに積極的に行われているのがアメリカの大学病院ならではの ことだと印象的でした。

その後8時から手術の見学を夕方までしました。 地域の基幹病院であるので症例も多く、周りの病院から手術の必要な患者が転送されてくること もよくあるため、JHNには11の手術室がありましたが、毎日稼働していました。 日本でも現在専攻医として執刀、助手をしている手術でも日米での小さな手技の違いを感じた り、日本では見たことのない装置や方法を目の当たりにしました。 より高学年で研修した場合にはさらに違いを感じることができたのではないかと思います。 また手術を執刀するのは主にチーフレジデントが一人で、ジュニアレジデントが手伝ったり、アテ ンディングが監督に来たりすることはあっても大部分を一人で執刀しているのは日本とは違い印 象的でした。 アメリカではレジデントが終了するまでに日本と比較して非常に多くの症例を経験することがで き、一人前の執刀医として独立できる技術を身につけており、専門医になってからもまだこれか ら執刀をやっと任されるようになる日本とは大きく異なっていました。

週1回夕方からChinatown clinicに行き、ここでは無保険の患者や低所得で病院に通うことのでき ない患者に簡単な診察や採血、降圧薬の処方を行っていました。 このclinicはChinatownの教会に20年前から設置されており、無償で医療が提供されていまし た。 学生が最初に診察、問診を行い、おおまかな治療について患者と話した後統括しているDr.Lauが 最終的に患者に説明していました。 またJeffHOPEでは無保険や低所得者の家族が暮らしているシェルターにいき、診察や処方をおこ なっていました。こちらも学生が主導して行っており、日本ではここまで積極的にボランティアを 行う施設はなく、医学生の意識の高さを目の当たりにしました。 2階では子供と絵を描いたりおもちゃで遊んだりしました。日本から持って行った京都や地元三重 のお土産をとてもうれしそうに受け取ってくれました。

現在大学院でマウスの脳梗塞モデルに対して基礎研究を行なっており、JHNでもラットを用いた 研究を行っていると聞き、1日見学させていただきました。 脳梗塞モデルを作成する方法は研究室によって様々ありますが、重要なのは誰がやっても同じ脳 梗塞巣ができる再現性があり、長期生存できることです。自分の研究にも活かせる方法や対策が あると聞き、帰ってからトライしてみようと思いました。

週末はWashington D.C.やNew YorkまでAmtrak(電車)で移動し観光しました。何度か訪れた ことはありましたが、やはりアメリカの中心地で最新の流行や文化に触れることができました。 また都会の喧騒を離れてShenandoah国立公園でリフレッシュしました。

世界各国からアメリカにレジデントが集まってきており、とても刺激を受けることができまし た。また自分に足りていない技能や知識をさらに身につけたいと再度確認する機会となり、帰国 後も臨床、研究ともに励んでいけたらと思います。

最後にこのような機会をくださった野口医学研究所の木暮様をはじめスタッフの皆様、現地でサ ポートしてくださったラディ様、中村様、JHNでチームの一員として迎え入れてくれたDr.Nikolaos、Dr.Eliasをはじめレジデント、アテンディングの先生方、Chinatown Clinicに歓迎 してくださったDr.Lauに感謝申し上げます。 多くの方のサポートのおかげでとても充実した研修を送ることができました。ありがとうござい ました。

手術見学の際に快く受け入れてくださった Dr.Pascal, Dr.Christopher 手術見学の際に快く受け入れてくださった Dr.Pascal, Dr.Christopher
夕方のJefferoson Hospital for Neuroscience 夕方のJefferoson Hospital for Neuroscience
手術見学の様子 手術見学の様子
修了式でDr.Lauと 修了式でDr.Lauと
市庁舎前で行われていたクリスマスマーケット 市庁舎前で行われていたクリスマスマーケット