米国財団法人野口医学研究所

Children’s Hospital of Philadelphiaへの研究留学の機会を頂いて

金沢大学附属病院小児科伊川泰広

2018年4月Children’s Hospital of Philadelphia

2018年4月から2019年3月までの1年間、野口医学研究所を通じて水野基金よりサポート頂き、Children’s Hospital of Philadelphia (以下、CHOP)のRivella博士のもとに研究留学をさせて頂きました。私自身、小児血液学を専門とする立場からも、世界的に有名な小児病院に留学させて頂けることに渡米前から興奮していました。

私がお世話になった研究室は、β-ThalassemiaやSickle Cell Diseaseといった赤血球異常症に対してレンチウイルスベクターを用いた遺伝子治療の研究を行なっているRivella博士の研究室でした。Rivella博士は、本疾患に対するヒトの臨床試験樹立を目指してイタリアからニューヨーク、そしてCHOPに移ってきた赤血球研究における第一人者です。

そのRivella博士の研究室に配属されて私が与えられた研究テーマは、マウスの実験で結果が出た新規ウイルスベクターを、ヒトの造血幹細胞(以下、HSC)に効率よく遺伝子導入を行うプロトコール作成という課題でした。遺伝子治療を成功させる上で重要な因子の一つに、十分量の遺伝子を標的細胞に導入することにあります。しかし、ヒトのHSCは遺伝子導入に対して抵抗性が強く、世界中のグループが様々な工夫を施しながら効率的な遺伝子導入を試みていました。さらに、我々が用いているウイルスベクターは過去に報告されたどのベクターよりも効果的である一方で、ベクターサイズがとても大きく遺伝子導入をさらに難しくさせました。

そこで、過去に報告された遺伝子導入効率を上昇させたと報告がある試薬10種類、ウイルスエンベロープ3種類を用いて、治療可能レベルの遺伝子導入効率を獲得できる遺伝子導入プロトコールの樹立を試みました。ヒト骨髄由来のCD34陽性細胞にレンチウイルスを感染させ、digital droplet PCR法を用いることでvector copy numberを解析し遺伝子導入効率を評価しました。すると、試薬に対する反応は過去の報告と大きく異なること、またわずかな濃度変化に伴って強い細胞毒性を有することがわかりました。可能性がある組み合わせを全て試すことで、ある条件下で遺伝子導入効率を3.6倍上昇させることに成功しました。さらに、遺伝子導入を複数回行うことで、使用ウイルス量を80%削減させることにも成功しました。本研究結果を2019年4月にWashington DCで開催されたAmerican Society of Gene & Cell Therapy annual meetingで発表することができました。また、Human Molecular Genetics誌に遺伝子治療の総説を書く機会を与えていただきました。

最後に、このような素晴らしい機会を与えていただいた野口医学研究所の浅野嘉久名誉理事、素晴らしい研究テーマを与えていただき丁寧に指導してくださったStefano Rivella博士、そしてRivella研究室の仲間たち、Philadelphiaでとても親身に面倒を見てくださった足立一彦先生と奥様の美穂さん、2回目の海外留学を快く認めてくださった金沢大学小児科の医局員の先生方、そして単身留学中に家族を守ってくれた妻に深謝致します。