米国財団法人野口医学研究所

Pacific Partnership 2018(PP18)に参加して

株式会社スーパーナース 看護師(保健師)萩原芽衣

2018年4月スリランカ

PP18に参加し、行く前に抱いていたイメージとは異なることも多々あったが、参加する上で、自身の目標としていた「様々な国籍、人種、信仰など多様な背景を持つ患者やスタッフと関わり、視野を広げること」を達成することができたと感じている。活動は現地での直接診療(CHE)、Mercy内ICU待機、シンポジウムに参加させていただき、文化交流としてMercy内のtea ceremonyの進行も行った。2週間という短い期間ではあったが、私の人生の中でとても密度の濃い貴重な経験となった。

ほぼ毎日CHEに参加できると思っていたためMercy内のICU待機は予想外であり、待機中患者が運ばれることは無く残念であったが、その間、積極的に他のスタッフと交流を図った。スタッフとの会話を通じて、また設備を見渡して共通していることが多いことを知り、医療は国を超えても繋がっていることを実感した。一方で、病棟に見学へ行った際に、手術から戻ってきた痛がる患者に対して米軍看護師の患者を労う姿勢があまり無いことに驚いた。もちろん看護師の性格や経験にも寄るとは思うが、言葉かけやタッチングを重視するのは日本の看護の特徴なのかもしれないと感じた。米国では看護師の役割自体がどちらかというと直接ケアよりも管理・教育に重点を置いている印象で、バイタルサインや観察はcorpsmanという麻薬管理とIVpush以外は看護師と同様の仕事ができるスタッフに任せていた。優劣を付けるのは避け、それぞれ役割の良い面を吸収し、自分なりの看護が提供できるようにしたいと感じた。

CHEでは、バイタルサインを測ったり、通訳を介して問診をしたり、待機時間に糖尿病予防について教育したりと患者と関わる機会を得ることができた。英語での会話に問題が無くても、既に診断名がついた患者の看護しか経験がなく、問診・トリアージをすることに緊張したが、2年の病棟看護の経験だけでも作業をこなすうちに要領を得ることができた。医療英語には自信が無かったが、逆にわかりやい英語の方が通訳に通じやすくスムーズに問診することができた。英語が母国語の看護師の問診も聞かせてもらったが、どうしても専門用語や難しい単語を並べており通訳が理解できずに困っていたのがわかった。もちろん医療者間のコミュニケーションにおいて専門用語の知識は必要であり、実際に問診した内容を問診票に書く際に専門用語が書けず困ったので、私の課題であることは間違いない。しかし、たとえ話す言語が母国語であっても患者に対してわかり易い説明や質問を心がけたいと再認識した。

休日に現地の医療機関を見学したが、スリランカは想像よりも医療自体は整っており国立医療機関の医療費も無料である。だが、やはりその分待ち時間が長かったり、医師が患者に病状説明をする時間があまり取れておらず、患者も医者に任せる姿勢で自分や子供の病状・障害や飲んでいる薬に関しての理解が進んでいない人も多くいた。CHEではそうした患者がセカンドオピニオンや慢性的に抱えている痛みや疑問に対する答えを求めて並んでいることを問診を通じて感じた。患者の様々な訴えを聞きながら、10年前の内戦でひどい暴行を受けたという男性も多く、身体の慢性的な痛みとの関連について考えたり、精神面のストレスを感じている人が思ったより多いことを知ったり、chewing betelという噛みたばこを常用している男性が多く歯が変色していること、胃潰瘍を既往としてあげる人が多いのは辛い食べ物が影響しているのだろうか、喘息の既往が多いのは砂が舞うこの環境が影響しているんだろうか、紅茶文化が根付いており砂糖摂取量が多いことはどうか、と様々なことを考えた。実際のところはもっと時間をかけて聞き取ったり統計を基に考える必要があるが、生活背景、文化的背景、政治や戦争、宗教、様々な側面を考慮しながら予防や医療提供・教育に携わる必要があることを実感した。

宗教上の考え方の違いを感じる印象に残った場面がある。それはMercy内で手術を受けた仏教徒の患者が亡くなった後に全ての身体のパーツが揃った状態で埋葬されたいことから切除した臓器を持って帰る事を希望したこと。同じ仏教徒でもこの考え方をしない人は増えているようだが、臓器は近所の病院で保管してくれることになった。また、ちょうど私たちが滞在した時期はブッダの誕生を祝うウェサック祭があり、この時期はお肉やアルコールは一切摂らないため、Mercyに入院する患者のためにベジタリアンメニューを用意していたようだが、お祭りを理由に入院自体をキャンセルした患者も多かった。これから先、様々な背景を持つ患者と関わることがあると思うが、宗教も含め、本人が大切に思っている事は尊重したいし、多様な背景を知っていきたいと思う。

活動を終えて感じた事は英語が話せるだけではダメだという事である。アセスメント能力はもちろんの事、積極性、コミュニケーション能力、様々な背景・性格のスタッフと上手く協働する能力、アサーティブに自分の意見を伝える能力、どれも大切であり心がけることができたが、より伸ばしていきたい力である。また、日本以外のpartner nationとして、カナダ、オーストラリア、イギリス、ペルーのスタッフが参加していた。日本より少ない人数で参加し、スリランカの前からMercyで米軍と生活していることもあるが、日本よりも溶け込んで積極的に活動に参加し、自国での活動を発表する場面もあった。私も日本人バスでの移動や、日本人部屋での寝泊まり、日本人とバディを組まなくてはいけないなど制限がある中、なるべく他国スタッフと交流を図り活動を通じて感じたことを共有することもできたが、やはり彼らは上記した能力が高い。また、教育や発表の機会があるのであれば、事前準備をするべきであったと反省している。

今回PP18の活動を通して学んだこと、その経験と課題をこれから先の私のキャリアに繋げ、学び続けたいと考えている。2週間後にはイギリスに渡ることになるが、今回の経験は大いに活かすことができると思う。日本にい続けたら見えない事はたくさんある。これからも世界の多様な人々に対するより良い看護・医療について考え続けたい。

この様な貴重な経験を与えてくださった野口医学研究所の皆さん、私たちのリーダーとして手本となる姿勢を見せてくれたり、相談に乗りサポートしてくださった佐野先生、そして仲間として迎えてくれた米軍の皆さんに心から感謝しております。また、その他の日本・他国の参加者の方々との出会いを通じて共通する志しを持つ仲間ができました。その出会いにも感謝します。