米国財団法人野口医学研究所

アメリカ 栄養士研修レポート

女子栄養大学短期大学部大原布由実

2015年2月米国トーマス・ジェファーソン大学&フィラデルフィア小児病院

<期間> 2月19日(木)~3月1日(日)
<場所> Philadelphia、Washington D.C.、New York City
<研修生メンバー> 大原布由実、中摩慶子、鈴木愛美

◆2月19日(木)

12:30に成田空港に集合。昼食をとりながら今後のミーティングをし、16:15に離陸した。
およそ12時間のフライト後、デトロイト空港に到着。入国審査等を済ませ、17:42発のPhiladelphia行に搭乗(しかし1時間程度の遅延があった)。
20時過ぎにPhiladelphia空港に到着。Mr.J.Michael Kenney(以下、Mikeさん)が迎えに来てくださり、宿泊予定のMartin Residence Hallへ向かった。チェックイン後、Mikeさんと夕食をとった。

――― 研修について ―――

◆2月20日(金)

<p朝、Ms.Yumiko F. Radi(以下、Yumikoさん)とMs.Nobuko Iijima(以下、Nobukoさん)とミーティングを行った。その後、オリエンテーションが行われるAlumni Hallへ向かった。

Orientation Session

説明の前に、Immunization Recordの原本、海外旅行保険の控え、パスポートなどの指定書類の提出、そして各々の英語での自己紹介が行われた。

Ms.Janice BogerからThomas Jefferson University(TJU)の概要、TJU周辺の街の概要の説明を受ける。

TJUの歴史や、TJUの有する他の部門の大まかな概要を聞いていると、規模の大きさに圧倒された。そして覚えておきたい事柄として、非常時の電話番号や気を付けることをレクチャーしてくださり、海外に慣れていない私たちへのこの心遣いは非常に嬉しかった。さらにMs.Janiceは英語に慣れない私たちを考慮し、非常にゆっくりお話ししたり、地図やPPTを指示しながら説明してくれた。さらにYumikoさんやNobukoさんも合間に翻訳してくださったおかげで、よく理解できた。

Campus Tour、ID Badges

IDカードを作成するためにBookstoreに向かう。その道すがら、各キャンパスの紹介や、街の案内をして頂いた。Orientation Sessionが行われた建物内には学生が自由に利用できるジムがあり、各々熱心にトレーニングを行っていた。ランニングマシーンやサイクリングマシーンのような一般的なトレーニングマシーンの設置はもちろんのこと、プールやバスケットコートもその施設設備の充実さには驚いた。また、年会費を支払えば職員も利用でき、回数をこなせばキャッシュバックされると聞き、その制度はやる気が奮起させることができ、良いものだと感じた。

Tour of Simulation Center

Ms.Crystal WaterにSimulation Center内を案内して頂いた。施設内部はとても明るく、窓から見える景色は素晴らしいものであった。Ms.Crystalは医師と看護師との中間職にあたる“ナース・プラクティショナー”という職種の方であった。

学生講義の教室、薬剤師、作業療法士、看護師、医師等の、さまざまなシミュレーションルームがあった。それぞれ実際の現場を想定して大変リアルな設備になっていた。またどの部屋もカメラが設置されており、学生自ら客観的に振り返りができるようになっていた。薬剤師向けのシミュレーションルームは、実際の薬局を想定しており、様々な状況に応じられるように訓練されるそうだ。

Tour of Emergency Department

Mr.Stephan Mcdonaldによって施設の案内と説明をして頂いた。Emergency Department内は非常に混んでおり、職員の皆さんは忙しそうであった。私たちがPhiladelphiaに上陸した日は、例年にない寒さだったそうで、そのため、この急な寒さによりEDに訪れる人が多いのではないかと教えて頂いた。

このEDには年間6300人の患者が訪れており、患者は受付でもらうIDバンドで管理していた。患者はESIという方法で5段階に識別され、治療を行っているそうだ。患者をより多くみるためには、各職員の教育(各々がしっかりと理解したかをテスト)し、その上でのチーム医療が大切だということが分かった。

◆2月23日(月)  at Methodist Hospital

NobukoさんとMartin Residencs Hallロビーにて待ち合わせし、タクシーでMethodist Hospitalへ向かった。

Roles of Dietician at Methodist Hospital

Methodist HospitalではMr.Nicole Keastnerによって栄養管理のシステムと、施設案内、厨房見学をさせていただいた。

栄養管理は、RDのみが使用するサーバを利用していた。また、患者の電子カルテを記録した共通のサーバも利用していた。

Methodist Hospitalで使用している経腸栄養剤のリストを見ながら、Methodist HospitalにおけるTPN・PPNの状況を教えて頂いた。

Lecture: US Health Care System

Mr.John Lewisよりアメリカにおけるヘルスケアの講義を受けた。アメリカの医療保険については、漠然とでしか知識がなかったので、Ms.Johnの講義で詳細に知ることができた。また、日本のようにヘルスケアの課題への改善策は、なかなか難航している問題だと感じた。

Lecture: Interprofessional Education and Practice (IEP)

Ms.Shoshana Sicksからインタープロフェッショナル教育について講義を受けた。他職種連携の大切さ、そしてそれを教育していくことの重要性を知ることができた。日本でも、他職種連携の大切さを教育しているが、実際に就職し社会に出るまで実感しにくい現状である。他職種連携には具体的に何が必要か知ることができて、非常に勉強になった。

◆2月24日(火)

Roles of Dieticians at Thomas Jefferson University Hospital

Ms.Linda GallagherからTJUHにおける栄養・食事管理についての説明、厨房案内をして頂いた。

実際に患者に配布しているメニュー表を貰ってみてみると、その選択の豊富さに驚いた。患者はそのメニュー表から食べたいものが選択できるという。メニュー選択は紙ベースだったが、将来的にipad入力に全面移行することにより、メリットが多くなるという。(メリット:紙ベースだと、患者自身の手元に残らないが、ipadだと何を頼んだか自分で振り返ることができる。またメニューの選択を看護師が患者に聞きながら入力することで、入力ミスを防ぎ、患者に適したメニューを勧めることもできる。患者とのコミュニケーションをとることができる。)

栄養教育については、まずは1つの習慣を変えることを重要としていた。代替の食べ物を教えたり、量を少なくする方法を教えたり、分かりやすく実行しやすいことを患者に伝えているとのこと。そして退院したら、外来に来るように繋げることが大切だと教えて頂いた。

厨房はカフェテリアと隣接するようにしてあり、シェフが2人、調理する人6~7人で作業し、およそ400食を提供しているという。1つの大きなトレイに1つの料理の材料が全て入っており、それを全部調理すれば完成するようになっていた。このように、効率よく素早く作業ができる工夫がされていた。

Dean’s Concert Series

軽い昼食をとりながら聞けるミニコンサートであった。勉強だけではなく、こういった文化的な面にも興味を持って欲しいという大学企画であった。学生や職員がたくさん聴きにきており、席は満員となっていた。そのコンサートは旧式のフルート、チェロ、ピアノを使った三重奏であった。昼食をとるのを忘れるほど聞き入ってしまうくらい、素晴らしい演奏であった。

Lecture: Diabetes Education in US

Ms.Janice millerからアメリカにおける糖尿病教育について説明を受けた。

アメリカの糖尿病問題も日本と変わらず大きく難しい問題となっているようだった。驚いたのが、糖尿病患者への寄付金は結果がすぐに出ないため、集まりにくいという点だ。日本とは財源の種類が違うが、同じように医療費の問題を抱えているのだと知った。糖尿病のように、個人の生活習慣から発症する病気は個人の意識・行動を変えていかなければならないので、食事の選択や運動推進に工夫を凝らしていることが知れた。

◆2月25日(水)

Lecture: Roles of Dietician at Magee Rehabilitation

Ms.Evelyn PhillipsにMagee Rehabilitationの施設案内、栄養・食事管理について説明して頂いた。嚥下機能障害がある患者に対する栄養剤が充実しており、色々な種類の栄養剤の試食をさせていただいた。日本には無いような味の栄養剤や、アメリカらしいピザ味のムース食品など、非常に興味深かった。

Magee Rehabilitationで活躍していらしている、日本人のMs.Naoko Otsujiからもお話を聞いた。こちらの施設はスタッフ同士名前で呼び合うことを大切にしており、Ms.EvelynとMs.Naokoの会話からも仲の良さがこちらにも伝わってきた。この雰囲気の良さが患者にも伝わることにより、より良い医療を提供できているのだなと思った。

◆2月26日(木)

Lecture: The RD Curriculum /RD Internship

Drexel Universityでは、午前中にMs.L.LeonbergからRDの教育カリキュラムについて、午後にMs.Nyree DardarianからRDのインターシップについて教えて頂いた。

事前にアメリカのRDについて調べたときに、大まかな情報しか得られなかった。今回具体的に知ることができ、大変納得できた。

やはり日本のRDと比べると、アメリカのRDは資格を得るまでに非常に時間と努力が必要であり、そのため、より専門性の高い職種になれるのだと感じた。また、インターシップで実践力を身に付けることにより、現場に出たときの即戦力になれるのは非常に有益なことだと感じた。

日本では教育カリキュラムの関係上、1か月で2つの施設にインターシップのようなものに行くが(本人の希望により1カ月に1つの施設も可能)、その短い期間だとようやく施設に慣れたころにインターシップが終了してしまう。

専門性の高いRDになるにはどうしたら良いのか、考えさせられる講義であった。

TJU Outpatient Team Weight Mgmt Practice

Ms.Sue Emeryがお話してくださった。

ここで私が感動したのが、“RDがどのような仕事をしているか”等が書いてある書類を作り、若い医師に伝えているということだ。職種間において、自分の職種以外がどんな仕事をしているか能動的に動かなければなかなか知ることは難しい。しかし理解し合わなければ、他職種連携はスムーズにいかない。自分自身がより良い仕事をするために、より良い治療を患者にするためには、自分から他職種へアプローチすることが必要ということを知った。

◆2月27日(金)

Lecture: Clinical Nutrition Function at CHOP and Nutrition Planning and Prep Function

午前中にMs.Sue Kinzlerからフードサービスシステムと厨房案内、午後にMs.Robin Meyers とMs.Colleen Thomasから栄養管理や栄養教育について説明して頂いた。

子供に関する規律が厳しく、病院の中に入るためには病院が発行したネームプレートを身につけなければならなかった。また、病院の職員になるためにも、厳格なチェックをクリアしなければならないという。このようにセキュリティチェックの厳しいThe Children’s Hospital of Philadelphia(CHOP)は、建物の中に入ると子供が喜ぶような装飾や壁紙が施されており、吹き抜けで広々として開放的で明るい病院であった。

厨房の他に、調乳ルームもみせて頂いた。たくさんの冷蔵庫が立ち並んでおり、また鍵付き冷蔵庫も設備されていた。調乳に関しては一層の衛生管理がなされていて、作業する前には調乳台をアルコール噴霧していた。

病室には小さなキッチンが備え付けられており、家族が自分の子どもに簡単なものを作れるようになっていると聞いた。また栄養教育に関しては、小さい子でも興味がわき理解できるように、フードモデル等を使っているということが知ることができた。

――― 観光について ―――

◆2月21日(土)

アムトラックを利用し、およそ2時間かかりワシントンD.Cへ行った。着いたころにはパラパラと雪が降っていた。ホロコースト記念館、リンカーン記念館の2ケ所を観光してきた。

ホロコースト記念館は、ナチス・ドイツのユダヤ人殺戮について映像や写真、実物の展示物等が展示されており、非常に衝撃的なものであった。人生で1度は来ることが出来て良かったと思った。

リンカーン記念館へは大雪の中歩いて向かった。途中で野生のリスを見たり、雪にはしゃぐ若者を見たり、寒かったけれどとても楽しかった。リンカーンの銅像は大きく、銅像の視線の先の景色は広大で、アメリカという国の大きさに圧巻された。

◆2月22日(日)

アムトラックを利用し、New Yorkへ行った。New Yorkでは地下鉄を利用して行動した。前日に降った雪の影響で、溶けだした雪で道に小さな川ができるほど悪路であった。大雪の後のNew Yorkを体感できるなんて、なかなか希少な経験であると感じた。

まず、St.John Churchへ向かった。首が痛くなるほど見上げなければならいくらい大きく、中に入ると巨大なドラゴンの模型が飾られていた。外から差し込む光によってステンドグラスが輝いており、非常に美しかった。次に、タイムズスクウェアに行った。車も人も非常に混雑しており、ブロードウェイのミュージカルの当日チケットを購入する列は、長蛇の列であった。並んでいる人の中には日本人も多くおり、やはりNew Yorkに来たら一度は観に来た方がいいものなのだろうな、と実感した。

昼食はチャイナタウンで飲茶を食べた。春節の影響で、街はお祝いムードに包まれており、人も多く集まっていた。ミュージカルの開演まで、一通り歩きながら観光した。
本場のミュージカルはとても力強く、役者と観客との距離も物理的にも精神的にも近く、非常に熱気溢れたものであった。

―― まとめ ――

日本との違いを発見したり、米国の文化を知ったり、私自身のRDの見解が広がる非常に充実した研修であった。どの方も熱心に教えてくださり、私は彼らからRDとしての仕事の誇りが感じられた。そして病院に働く人たちは、患者へ充分な治療を与えるために努力をしていた。

自身の英語力が低かったため理解し切れない部分も多く、また、質問したい事項も上手く言葉に出来ず歯がゆく感じた。けれど日本との文化の違いや、アメリカならではの広大な景色、建築物など、アメリカに実際に来たからこそ感じられるものがある。それを自分の六感で直に感じられたことが非常に楽しく幸せであった。

この研修から、自分のRDとしての知識不足を痛感した。もっと専門性を磨く努力をし、挑戦することを恐れない気持ちを持ちたい。そしてこの研修で得た知識と経験を仕事に活かしたいと思う。

―― 謝辞 ――

このような機会を与えてくださった米国財団法人野口医学研究所、創立者・名誉理事である浅野嘉久様に感謝いたします。

研修に至るまで様々な手続きを行ってくださった野口医学研究所の皆さま、ジャパンセンターのMs.Yumiko F. RadiとMs.Nobuko Iijima、研修期間中大変気にかけてくださったMr.J.Michael Kenneyに感謝いたします。

充実した研修を与えてくださった、Ms.Janice Boger、Ms.Crystal Water、Mr.Stephan Mcdonald、Mr.Nicole Keastner、Mr.John Lewis、Ms.Shoshana Sicks、Ms.Linda Gallagher、Ms.Janice miller、Ms.Evelyn Phillips、Ms.Naoko Otsuji、Ms.L.Leonberg、Ms.Nyree Dardarian、Ms.Sue Emery、Ms.Sue Kinzler、Ms.Robin Meyers、Ms.Colleen Thomasに大変感謝いたします。

最後に、この研修へ送り出してくれた職場の皆さま、家族、友人に感謝いたします。

医師向けのシミュレーション設備 ( at Simulation Center) 医師向けのシミュレーション設備 ( at Simulation Center)
ムース食: ピザ・グリーンピース・コーン (at Magee Rehabilitation) ムース食: ピザ・グリーンピース・コーン (at Magee Rehabilitation)
リンカーン記念館にて リンカーン記念館にて
NY、ブロードウェイにて NY、ブロードウェイにて