米国財団法人野口医学研究所

プログラムを通じて学んだこと、気づいたこと

神戸大学医学部6年周詩佳

2022年3月オンライン開催

研修レポート「プログラムを通じて学んだこと、気づいたこと」

2022年度 Clinical Clerkship (Virtual)は、私が医学生としての最後の一年となる6年に進級する直前に開催されました。ポリクリと大学の関連病院実習を終え、日本の医療現場を垣間見た私にとって、Thomas Jefferson 大学の皆さんの話はどれも新鮮かつ刺激的で、とても3日とは思えないほどの濃い時間なりました。どのセッションも勉強になる内容でしたが、米国の「医学教育」と「医師像」が特に印象深く、こちらの二つの学びを報告したいと思います。

まずは、Thomas Jefferson大学の医学教育への熱意に圧倒されました。日本の多くの医学部では、解剖学や生理学などの基礎医学を学んだ後に、循環器や消化器などの臨床医学を学びます。しかし、Thomas Jefferson大学では教育者の負担を承知しながら、基礎医学と臨床医学を統合させた器官別講義を採用しています。講義もスモールグループで行われ、より早期から臨床に携われるよう、症例に沿った講義が用意されます。私がここで最も驚いたのがClinical Skills Small Groupsが、低学年の内から医療現場での困難な状況をロールプレイすることで、患者さんとのコミュケーションと共感する技術を磨く授業です。日本の大学では知識ベースの授業がほとんどなので、医師としては不可欠なコミュケーションと共感などのソフトスキルに注視する授業があること自体が驚きでした。

また、米国で医学教育は学部学生を対象としたもの (UME = Undergraduate Medical Education)以外にも、レジデンシー中の教育(GME = Graduate Medical Education)と生涯教育(CME = Continuous Medical Education)の概念が存在します。レジデンシー中も、カリキュラムが細かく設定され、お話した研修医も忙しい毎日を過ごしていましたが、目標が明確で、均一的に質の高い専門医が養成されていると感じました。また、米国では医師免許を維持するために、10年に一度専門試験を受ける必要があり、練習問題や講義を通して専門医の質を担保しています。今回のClinical Clerkship中にもThomas Jefferson University Hospitalで実施されているGround Roundsを経験し、卒後教育の大切さ、そして医師として常に向上心を持つことの大切さを学びました。

Thomas Jefferson 大学のClinical Clerkshipでもう一つ印象的だったのが米国での「医師像」です。もちろん米国でも理想とする医師像は個人や組織によって種々かと思います。しかし、Thomas Jefferson大学の先生らは、共通して医師の「視野の広さ」も重視されていると感じました。Ground Roundsでは医学の話だけでなく、公衆衛生学や人種間の格差などの社会問題が度々話題として挙がり、患者の健康を守ることは、生物医学的観点だけなく社会的決定要因(Social Determinants of Health)についても理解し見識を深める必要があります。そしてなにより、Thomas Jefferson大学はCompassionに溢れる医師と医療を理想とするのだと、様々なセッションを通して感じました。Joseph F. Majdan先生の授業やJeffHOPE学生ボランティア団体の紹介などでは、常に主語が「患者」で、医療者として患者になにができるかに焦点を当てていました。Compassionは患者さんだけでなく、さきほど記した医学教育も対象としており、見ず知らずの日本学生である私たちにすら時間を設けること自体、Thomas Jefferson大学では全てにおいてCompassionが大切にされていると気づきました。

3日間と大変短い間でしたが学びと気づきが大変多く、今度は実渡米して医学教育と医師としての姿勢を実際に拝見したいと改めて思うようになりました。Thomas Jefferson大学の皆さまの話を通じて、医療は常に私たち医療者が作り上げていくもので、日本でも志を持った者が最善の医療教育・医師について討論し、邁進していくことで、より良い医療を提供できるではないかと感じました。貴重な機会を与えて頂いた野口医学研究所の皆さま、そしてThomas Jefferson大学の皆さま、心よりお礼申し上げます。

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“Professionalism と Compassion” についてなにを学び、その学びを将来へどのように生かすことができるのか


2022 Clinical Clerkship (Virtual)を通して、今まであまり考えたことができなかったProfessionalismCompassionについて見識が深めることができました。プログラム終了後数週間経った今でも学びを咀嚼仕切れておりませんが、学んだことについて述べます。

医師は専門的な知識を持ちながら、大半の時間を生身の人間を相手にする、大変特殊な専門職だと思います。北村聖先生の授業では、医療においてのProfessionalismには3要素あると紹介されました:患者対応へのEmpathy、チームワークと職種間連携、そして生涯教育です。個人主義である米国で、ここまでチームワークが重視されていることが驚きでしたが、医療は医師が1人ではなくチームと他職種が存在するからこそ、患者に最善の医療を提供し、医療スタッフにとっても働きがいのある職場環境を構築できると学びました。今回のClinical ClerkshipではThomas Jefferson大学の普段のチームワークや他職種同士の連携を見ることができませんでしたが、日本での医療現場、そしていつかは海外の医療現場でのチームワークを参考にしながら、良いチーム体制とはなにかを考えていきたいです。

また、専門知識を駆使して治療を行う医師にとって、生涯教育はいつまでも大切にしなくてはならないと、Thomas Jefferson大学でのGround Roundsを通じて痛感しました。もちろん、日本でも教育は重要視されていますが、米国では卒業後もGrounds Roundsが頻繁に開催され、10年に一度は医師免許を更新するために試験も受ける必要があり、医師として常に最新の知識を追い求めていました。生涯教育と通じて医師の質が担保されだけでなく、個人個人のモチベーションへの向上にもつながると学びました。医学部を卒業してからも、新しい知識を積極的に取り入れ、私自身や周囲の方の好奇心を大切にしていきたいと思います。

そしてなにより今回のClinical Clerkshipで最も発見が多かったトピックが、患者対応へのEmpathyでした。以前はEmpathyなんて身につけられるものなの?と懐疑的でしたが、Thomas Jefferson大学の皆さんのお話を通じてEmpathyは磨ける技術だと学びました。医療は常に「患者」のためにあるもので、主語は「患者」です。「私がなにができるか」ではなく「この患者さんのためになにができるか」に焦点を当て、目の前の患者さんに全力尽くすことがEmpathy、そしてCompassionではないかとヒントを得ました。将来医療現場に立った時、様々な私情が邪魔するかと思いますが、主語が「患者」であることを忘れずに医療に従事していきたいと思います。

最後に、医療Professionalismの3要素はどれも高いモチベーションが必要で、内発的動機がないと遂行が難しいと思います。また、Clinical Clerkship中にある先生から「今は立派な医者になりたい理由で勉強・留学したいと思っているが、将来は誰のために医療したいか、誰を救いたいかを考えるようになる」とアドバイスが非常に印象に残りました。もうすぐ医学部を卒業し、医師として医療現場に立つ人間として、自分自身が医療のプロフェッショナルになる内発的動機についても考えていきたいと思います。そのため、私は「いかなる状況下でも、目の前の患者と真摯に向き合える、自分自身の信念の持った」医師になります!