外来診察に同席し、院長先生と一緒に診察・診療に関わり、非常に充実した研修となりました
【研修施設概要】私はTJU関連病院であるJefferson Dorner Family Medicine Clinicで2週間のエクスターンシップに参加させて頂きました。内科や救急科とは異なり、家庭医療科(Family Medicine)の研修はTJU病院ではなく、車で40分ほど離れ、州境も超えたNew Jersey州のBurlingtonという街にあるJefferson Dorner Family Medicine Clinicで行われます。このクリニックは、もともとこの地域で20年以上の長きに渡って地域のプライマリケアを担っておられる院長のDr. Scott M. Dorfnerが3年前からTJUと提携を結んでおられるとのことです。研修においてもDr. Dorfnerの外来診療に参加することになりました。先生は先日体調を崩されたこともあり、フルタイムではなく、半日勤務をされていたので、私も同様の勤務体系をとることになりました。そのような大変な状況下で私を受け入れてくださった先生の優しさに感謝する日々でした。
外来診療においては、各診察室に電子カルテが配置されており、そこにDr. Dorfnerが着席され、私はその横につく形式で行われました。「できるだけ多くの患者を自分で診察したい」という私の希望をご快諾下さり、初日の最初の外来から、身体診察と問診をやらせて頂きました。半日で20人近くの診察を終えなければならないので、(一人あたり15分目安)先生と私が共同で診察を進めていく流れでした。患者さんのほとんどがフォローアップの患者さんであり、中には開院以来のかかりつけの方も多くいらっしゃいました。50〜80歳代の患者の方々の慢性疾患(高血圧・心不全・糖尿病・COPD・心房細動等)の外来管理が主体で、降圧薬や鎮痛薬の使用法など一部異なる点はありましたが、原則的には日本で行われているプラクティスとほとんど同じことが行われていました。
【研修内容】 具体的な診察内容は、先生と私が同時に入室、先生がカルテ記載と問診を平行して行い、私は受診理由と背景疾患を素早く把握し、フォーカスを絞った追加問診と身体診察を行うという流れでした。身体診察は原則私が全て行い、初診の方に関しては、問診もほぼ全てやらせて頂きました。私の診察をもとに処方、検査予定を組むシチュエーションもありました。限られた診察時間の中で、ここまで診療に参加できるとは想定していなかったので、非常に充実した研修となりました。診療時間の合間に診断、マネジメントのディスカッションもさせて頂き、先生の素早いマネジメントの根拠をひとつひとつ学習することができました。
【医療システム面での特徴】 電子カルテの網羅性が高く、現在のプロブレムと処方薬・カルテ記載欄が縦に3列並列されている形式です。プロブレムはもともと設けられている臓器別の項目に病名登録をすると自動的にプロブレムが追加されるため、自分でプロブレムリストを作る必要はありません。当日の現病歴のカルテ記載を終えるとROSチェック欄が出現し、そこでチェックした項目の詳細を記入すると、自動的にカルテの身体所見欄に反映され、それ以外は正常としてROSの身体診察内容が記載されます。カルテ上部にはASCVD等のリスクスコアが並んでおり、ハイリスクのものは色違いで強調されます。また、バックグラウンドに合わせ、未実施であるHealth maintenanceのアナウンス(肺炎球菌ワクチン・下部消化管内視鏡等)がアラートとして自動的に出現します。
チェック項目が非常に多い印象である一方、その分、ROSや予防医療を意識せざるを得ないように設計されていました。
各患者情報の医療スタッフ間やり取りもカルテ上のメッセージで確認でき、誰がいつ記載したか、何がどこまで進んだのかが、カルテを開くと一目でわかるようになっておりました。また、スマートフォンアプリで予約取得、医師患者連絡が可能になっており、オピオイド処方の際は医師のスマートフォンからパスワード入力を通じて処方入力画面をアンロックするシステムになっておりました。このような効率性が追求されたシステムは、情報量が増える一方の現代医療において大きな役割を果たしていると感じました。一方、医療者側にとっては、どんなに軽症の患者であっても上記の入力をしなければならない点で負担が大きく、電子カルテ入力時間が長くなり、患者と向き合う時間が減ってしまっているというデメリットもあると感じました。
【最後に】年々米国病院でのエクスターン研修の受け入れは厳しくなっており、研修費用を自己負担せずに参加できる研修はほとんどないと思われます。野口医学研究所でのエクスターンは、米国での臨床研修に興味のある方にとって、またとない機会になります。私も今回の研修で得た経験を礎に、米国臨床研修の実現を目指していきます。
研修の実現にあたり、ご多忙の折に実習をご快諾頂いたDr.Dorfner, 研修日程や現地での行動について細かく調整頂いた、ラディ様、中村様、研修開始前の全般調整をして頂いた、野口医学研究所医学交流担当の木暮様をはじめとした全ての関係者の方々に心より御礼を申し上げます。