米国財団法人野口医学研究所

2019年 トーマス・ジェファーソン大学での臨床技能研修についてのレポート

学生千葉馨

2019年3月米国トーマス・ジェファーソン大学

私がThomas Jefferson大学での5日間の研修で学んだことを時系列順にまとめていきます。

Thomas Jefferson大学構内にて

まず1日目、2日目の午前中のInternal Medicineです。朝カンファレンスでは聴衆参加型の症例発表が行われ、様々な年数の先生方が小グループに分かれ、鑑別診断とそれに必要な問診、検査を考えるという形式でした。相当キャリアの長そうな先生が、時に臨床上の重要なポイントを解説しながらディスカッションに参加していたことが、日本ではあまり見られない光景であり印象的でした。また、施行できる検査が5つまでなどの制限があり、検査・治療を必要な分だけ行うことが徹底されているアメリカの医療を反映していると思いました。病棟回診では、10人弱の患者について学生やレジデントが現病歴、検査・診断、入院後経過を指導医にプレゼンする形で進みました。そこで私が驚いた点は学生のレベルです。複数の患者を担当し、診断や治療に関して自分なりの考えを述べ、指導医の質問にも答えていた姿から、日本における初期研修医に近いレベルをアメリカの医学生は求められているのだと感じました。

1日目の午後はFamily Medicineの外来で、原因不明の皮疹の患者、内視鏡検査のため高血圧薬を休薬し血圧が上昇した患者、かかりつけ医を変更するための検診の患者の診察を見学しました。この科では特に、医療事務員、看護師に加えNurse Practitionerの活躍もあり、医師が患者の問診、診察、上級医へのコンサル、治療計画作成に集中できる環境であると思いました。また、日本と絶対的に異なる点として、患者の加入している医療保険によって治療方針が変わり得る点が挙げられます。幅広い年齢の患者、疾患に対応し、かつ患者の経済的事情まで加味して適切な治療選択を行っており、日本より患者ひとりひとりに個別化した医療が提供されている印象でした。

2日目の午後はPulmonary Medicineの外来で、肺炎や抗がん剤の副作用による肺障害、横隔膜ヘルニアの患者の診察を見学しました。肺音聴取の方法、声のかけ方など、実践的な内容を学ぶことができました。

3日目、4日目の午前はEmergency Departmentで指導医のシャドーイングを行いました。癌の多発転移のある意識障害の患者の家族にDNAR(do not attempt resuscitation)の説明をしていた場面に立ち会い、アメリカでのDNARの説明方法を学びました。またEDで研修しているレジデントについて回り、レジデントによる患者の問診、指導医への報告、アセスメント、プランの立案の一連の流れを見ました。短時間で効率よく患者を問診し指導医に分かりやすくプレゼンするというのは、日米で言語の違いはあろうが変わらないことだと実感しました。

3日目、4日目の午後はDr. Majdanによる心臓の診察、病歴聴取のレクチャーを受講しました。内容が極めて実践的で、これから医師として働く上で役立つことをたくさん学びました。特に病歴聴取の重要性、疾患をみるのではなく患者のhumanityをみて診療すべきことなどは心に残りました。今後の病院実習や医師人生でも忘れずにいたいです。

3日目の夕方から夜にかけては、JeffHOPEというプログラムでチャイナタウンのクリニックを訪問、見学しました。ここは中華系の移民を対象に無償で医療を提供している施設です。中国語の通訳を介した問診、検査結果の説明に同席しましたが、患者の背景、経済的事情を踏まえ、可能な範囲で患者の希望をかなえてあげようとしていた医師の姿が印象的でした。アメリカの医療は高額であり医療保険非加入者に対して厳しい側面はありますが、それと同時に、有志の医師・学生が集まり移民やホームレスの人々を救済するシステムも存在していることを知りました。日本でもいくつか同様の取り組みがあることは知っていましたが、ここまで規模が大きく、かつ医学生が参加している例を見たことがありません。医学生にとっては普段の病院実習よりも患者の近くで実践的な医療を学べる、教育の場としても機能しているのが画期的で素晴らしいと思いました。日本でも大学と地域が連携し、このような場所ができるとよいなと考えています。

5日目の午前は小児科の外来で、乳幼児の定期健診を見学しました。日本との大きな違いは母子手帳が存在しないことですが、電子カルテ上でワクチン接種歴や成長曲線が記録されており、それでも医療者・親にとって特に問題がないようでした。Family Medicine科も同様でしたが患者が先に診察室に入り待機している点、絵本や場合によっては風車、お菓子を診察後に渡し子供が病院嫌いにならないように工夫している点は、私の大学病院の小児科とは大きく異なる点でした。

病院での研修全体を通して感じたこととして、医師、看護師、技師などの医療職間の距離が近く、コミュニケーションが双方向に活発に行われており、それによって患者の診療以外での医師の仕事が軽減されているように見受けられたことです。この点においては日本もアメリカのように変わってほしいと個人的には思っています。

Closing Ceremonyにて

以上のように、5日間という短い期間でしたが、実臨床、医療システム、医学教育など様々な観点で日米の相違点を見つけ、アメリカの医療が実際どのように動いているのか、医師や医療関係者、医学生がどのように働き、学んでいるのかを肌で感じることができました。将来アメリカで臨床することを考えている私にとって、今回の経験は自分のキャリア選択のための貴重な判断材料になると同時に、残りの学生生活においてどのような姿勢で臨床実習に取り組むべきか考える契機になりました。具体的には、病院実習で担当する患者に関して、アセスメントやプランまで、信頼できる根拠と共に提示できるレベルにまで、学生のうちに到達出来たらと思います。この研修で得た学び、経験を忘れず、今後の人生に生かしていきたいです。

 

【謝辞】

今回の研修でご指導くださったMichael A Weintraub先生、Lionel S McIntosh先生、 Michael Lippmann先生、Nandan Prasad先生、Joseph F Majdan先生、Wayne Bond Lau先生、Alisa Losasso先生、選考会や歓迎会、送別会で大変お世話になった佐藤隆美先生、私たちの研修全般や現地での生活をサポートしてくださったラディ由美子様, 中村りえこ様, Noah Levyさん, Bowen Yaoさんに心より感謝申し上げます。そして研修プログラムを実現してくださった野口医学研究所、Thomas Jefferson大学のご関係者様に深くお礼申し上げます。ありがとうございました。