米国財団法人野口医学研究所

M3トレーニングプログラム報告書

学生柘植竜太

2018年3月米国トーマス・ジェファーソン大学

本プログラムでは日本での研修では得難い貴重な経験を数多くさせていだきました。津田先生からの紹介もあり、非常にありがたいことにM1の臨床講義にも参加できました。この報告書では、Thomas Jefferson University Hospitalで働く先生方や医療従事者と患者との関係性、病院や大学での先生生徒の関係性、M1の臨床講義内容、JeffHOPEでの活動内容などの観点から記載できればと思います。

本プログラムで、救急科、神経内科の外来、総合内科のカンファレンス・回診、Family Medicineの外来、小児科の外来に参加いたしました。すべての科での経験が大変貴重なのですが、特に印象に残っているのは神経内科でのDr.Spareの患者に対する姿勢と、総合内科での教育環境です。研修1日目の午後にDr.Spareのシャドーイングをしたのですが、彼女は頭痛の専門医で彼女のもとには難治性の偏頭痛の患者が多かったように思います。“難治性”なので、10人以上の医師に診察されたが改善しない患者と数名お会いしましたが、中には「この方は本当に病気なのだろうか。なんでたくさんの医師にかかるのか。痛み止めが多くほしいのか。」など考えてしまうこともあったのですが、彼女は相手がどんな患者であれ、診察を始める前に患者自身に「いまの自分の病気に関してどんな情報をもっているのか。その情報はどのように得たのか。自分の症状とその情報はどこが同じでどこが違うのか。」など、まず相手の“病気に対する理解度”を確認したうえで、相手がわかる言葉を用いて、生理学や病態の観点から痛みがおこるメカニズムを説明していました。たしかに日本の外来とちがい、1人あたりの患者に40分以上かけることができたのも“寄り添う”医療には必要かもしれませんが、まずは患者の理解や状態を患者自身の言葉で説明してもらい、注意深く傾聴することでラポールを形成することが、その後の診察に大きく影響する、ということを肌で実感しました。特に医師に対する不信感をもたれている患者には重要だと、彼女は仰っていました。総合内科でのカンファレンスでは、指導医の先生がM3M4、レジデントの先生に「なぜ」を多く問いかけていたように思います。また鑑別疾患を列挙する際に、「診断確率」やその確率を算出するためのcriteriaを数多く用いていました。日本の大学病院でのポリクリやククラでは”確率“に関してあまり考慮する習慣がなく非常に新鮮だったのと、回診の際に重症肺塞栓症の患者の前で 「Ryota, close your eyes, and answer my questions about what circumstances he is under」と言われ、患者の外見、ルートの本数、呼吸や循環の様子など、その場での”観察力“や”病態に対する理解“を問われました。事前の知識や言語力が不足していることを感じたのはもちろんなのですが、回診する際にも、患者11人のおかれている状況や病気の進行度を時系列にそって、今後何が起こるのか、を認識する重要性を先生とのやりとりで学べたように思います。

M1の臨床推論の講義に関してですが、九州大学の医学生との違いは、彼らのディスカッションに参加する積極的な姿勢と、問題や疑問がでてきたときにチームで解決する、というTBLの文化です。講義はcase-basedで行われるため、ドクターGのようでで、個人的にも医学部教育1年目は、もちろん基礎医学も重要ですが、問題解決能力やTBLの基礎を築くうえでも、このような教育スタイルの早期導入をすることは、彼らをみて教育効果が高いように思います。重要なことは、お互いの意見を尊重する、自分がしらないことを恥じない、お互いの得意な分野を出し合い問題を解決する、ということだとも感じました。

最後にJeffHOPEでの経験についてです。この1週間で最も私の今後の姿勢に影響を与えたもので、かつ日本の医学生にもシェアしたい内容です。医療的にも生活面でもいわゆる“恵まれない”方たちのための活動であることはもちろんですが、その活動を学生を中心としたチームが運営していること、医療だけではなく疫学の面でもリサーチしデータを解析することでEBMを実践していること、ボランティアの現場であり、かつ医師、M4からM1の学生にとって、医師としての素養を養う貴重な教育の現場になっていることなど、学ぶべきことがたくさんありました。私も1人のアフリカ系アメリカ人女性と子どもの問診と身体診察をさせていただき、かつ医師へのプレゼンテーションをする機会もいただきました。

今回一緒に参加したメンバー全員が目標を高く持ち、彼らに囲まれこの研修をすることができたことに非常に感謝しています。普段とは違う言語や居住の環境で、新しいメンバーに囲まれ、異なる文化や医療のセッティングのもとで研修する機会をいただたことで、やはり自分は、あらためて、「世界中で医療を必要とする方々のために働きたい」という想いが強くなりました。それが米国であれ、日本であれ、途上国であれ、今回の研修で学んだ“医師としての重要な姿勢”をしっかりもち、理想の医師に近づいていきたいです。

 

謝辞

本プログラムを修了し多くの貴重な学びや経験を得ることができたのはプログラムの創設者であるNMRIの浅野先生をはじめ、東京での面接から連絡対応、現地でのマネジメントを担当していただいた三宅さんをはじめ、NMRIのスタッフの方々、到着時からオリエンテーションや宿泊先での対応をしていただいた、Yumikoさんはじめ、Jeffeson Japan Centerの方々、Thomas Jefferson Universityでの刺激的なプログラムを企画し、私たちのケアをしていただいたJaniceはじめ、OIAのスタッフの方々

、診察で忙しい中私たちのシャドーイングの対応をしていただいた多くの教授や医師、看護師の方々、そしてプログラムだけではなく、現地でのガイドや大学生活など公私にわたり助けていただいたM2AngelStephanie。ここにすべてを記載できないほど本当に多くの方々に助けられ本プログラムを無事修了することができました。
協力していただいた皆様へ心から感謝の気持ちと御礼を申し上げたく、謝辞にかえさせていただきます。  

Dr. Winterと Dr. Winterと
M1 clinical reasoninngの講義にて M1 clinical reasoninngの講義にて
大切なプログラムメンバーと。帰りのフィラデルフィア国際空港にて 大切なプログラムメンバーと。帰りのフィラデルフィア国際空港にて