Thomas Jefferson University研修レポート
2018年3月26日から30日にかけて、Thomas Jefferson Universityにおいて研修をさせて頂きました。将来医師として日本国外でもできることがあればやってみたい、そのためにアメリカでの医学教育に触れてみたいという思いから参加させて頂きました。5日間という非常に短い時間でしたが、大変有意義な研修となりました。訪れた診療科のうち、いくつかピックアップしてその経験をお伝えしたいと思います。
・Internal Medicine
Internal Medicineでは、1チームに研修学生1~2人を配置して頂き、半日病棟で研修させて頂きました。このチームはattendingのドクターをはじめとして4人のドクターと、医学生が二人参加していました。まずチームの担当している患者さんについてのディスカッションを行い、その後回診に同行しました。初めに驚いたのは、ディスカッションにおいて医学生が会話に参加している量の多さです。アメリカの実習では医学生が臨床に大きく関われている、というのは耳にしていましたが、むしろ朝のmeetingではほとんど医学生がメインで発言していて驚きました。まず各患者さんについて医学生が診察し状態を把握しており、それをチームドクターの前でpresentationし、今後の方針について上級医と話しあいます。診療チームの一員のような位置づけでもありながら、ディスカッション中、時折attending doctorが治療や検査について質問を投げかけ、知識の確認・整理も促しており、非常に教育的であると感じました。
・Emergency Medicine
Emergency Medicineには二日に分け、半日ずつ訪問させて頂きました。私はresidentのDr. Young Jun Chai、attending physicianのDr. Zach Rislerに同行させて頂きました。Residentのドクターが問診、診察、方針決定をし、上級医に相談する、という様子を二日にかけてみることができました。この部署はベッド数も50床以上と多く、大きく二つのチームに分かれ、さらに外傷・重症患者用の部門が設置されています。ERCP後の膵炎を疑う腹痛、胸痛、感冒症状、DVT、薬疹、泥酔し転倒による骨折、など患者さんは様々でした。外傷や重症例は私は2例ほどしか出会いませんでしたが、その分非常に多くの症例を経験することができました。私がここで感じた日本との違いは、職種の多さです。日本には国家資格として存在していないNurse Practitioner, Physician Assistantの方々が特に活躍しているのがこのEmergencyだと感じました。ドクターが診察する前の段階の問診はもちろん、心肺停止状態の重症患者さんに対する処置についても関わっている部分が多かったです。現在日本では厚生労働省主導で「働き方改革」が行われており、医師の働き方改革については議論もされています。その一つに、医師の業務の軽減として、採血、点滴、カテーテルなどの処置は技術を持った看護師の業務とする方針も推進されています。これはアメリカをはじめとした諸外国において、医師・看護師以外の多様な医療技術者の活躍を参考にしていると聞いていました。今回、その参考にすべき現場を見ることができたと感じました。
・Neurology
Neurologyでは、Epilepsyを専門とするDr. Higdonのチームで研修させて頂きました。日本でも、もちろんてんかんはcommonな疾患ではあります。しかし私は今まで実習などで学んだ経験が少なかったので、基礎的な脳波の見かた・考え方から丁寧に教えて頂きました。こちらのチームはepilepsyを専門でみているということもあり、臨床現場でありながらかなり専門性が高く、研究チームに近いような雰囲気を感じました。また、こちらでは様々な国から学びに来ているドクターが多く、偶然ではありましたがアメリカでの多文化・多人種を受け入れてチームを組む現場の雰囲気を感じ取ることができました。この時は病棟で持っている四人の患者さんについてディスカッションと回診を行いました。学生には丁寧に解説をして頂きながら、かつドクターどうしではかなり専門的な内容のディスカッションが行われていました。今回の研修は期間も短く臨床現場を少しずつ覗くことになってしまっていましたが、Neurologyでは研究の様子も垣間見ることができたように感じ、とても印象に残りました。
・Pelvic Session
Women’s Primary CareのDr. Russoによる、婦人科診察の人形モデルを用いたシミュレーション実習を研修生全員で行いました。日本と用いる機具の違い、そのメリットなども含め、講義を交えながら丁寧にskill trainingをして頂けました。
・Family Medicine
こちらでの研修は、今回私が最も楽しみにしていたもののひとつでした。日本では最近でこそ総合診療の専門医制度がありますが、家庭医を専門とする分野についてはアメリカの教育が優れていると感じていたためです。こちらではベテランのDr. Markhamに同行させて頂き、外来患者さん15人程度の診察をみさせて頂きました。日本との違いは、患者さんが診察室で待っていて医師がそちらに出向くというスタイルです。そして、入室したら握手・自己紹介をし、丁寧に病歴や生活歴を聴取していました。Dr. Markhamは、患者さんとしっかりと向き合い、世間話をしながら生活についても聞いており、アメリカの文化における患者さんの生活背景についても知ることができました。患者さんはmedical checkを目的とした方から、関節痛、生活習慣病のフォローまで、非常に様々です。印象に残ったのは、依存症の患者さんや生活習慣病の患者さんに対しての生活指導において、患者さんを「褒めている」というところです。「食事を制限しなさい」と命令するのではなく、「食事改善を続けられていますね、素晴らしいです」と褒めることで、患者さんとの人間関係を構築し、つねに患者さんに共感していると感じました。
今回の研修で得たことはここにはとても書ききれない程多いです。学んだ医学的知識ももちろんですが、何よりアメリカでの医学教育のあり方、アメリカにおける臨床のあり方を肌で感じ、自分が今後どのように勉強しなければいけないかということを考えさせられました。それを活かして、今後自己研鑽に励みたいと思います。最後になりましたが、今回の研修を支援してくださった野口医学研究所、TJUのジャパンセンターの方々、また各部署の先生方に心から感謝申し上げます。