米国財団法人野口医学研究所

TJU研修報告書

学生金井亜未

2018年3月米国トーマス・ジェファーソン大学

2018年3月22日~30日、Thomas Jefferson University Hospitalにて行われましたM3研修プログラムについて、報告致します。

まず始めに、今回の貴重な研修の機会を頂けましたことにThomas Jefferson Japan Centerの関係者はじめ、ER研修でお世話になりましたDr. Christopher、神経内科外来でご指導いただきましたDr. Liang、Clinical sessionでレクチャーいただきましたDr. LauやDr. Russo、そして留学支援を請け負ってくださった野口医学研究所のみなさまには深く御礼申し上げます。5日間という短い時間ではありましたが、米国の医療に触れ、志を同じくした全国の医学生と出会うことのできた大変有意義な時間を過ごさせていただきました。

研修内容としましては、「入院患者、外来患者に対応する医療チームへのshadowing」から、「症例検討レクチャーおよび婦人科レクチャー」、さらには、医学生を主体として運営されるJeffHopeへの参加を基本としたものであり、米国の医療現場を体感するものから、知識を生かした鑑別診断の考察、内診などの手技、さらには、米国医学生とともに実際に患者対応を行うものまで、米国の医療現場や医学教育システムについて広く学ぶことができる充実した内容となっておりました。私はなかでも特に、日本と米国の医療現場の違いについて学習したことが多く、そこで特に印象に残った事例を2点ほど報告させていただきます。

まず1点目は問診、診断、処方までの過程における日本との相違です。shadowingを通じて検査オーダーに関しては特に大きな違いがあると感じました。日本では、腹痛を訴える患者で本人が自ら検査を希望して救急外来受診された場合、超音波を使うことが第一選択とされるのではないかと思います。しかし、米国では、過去の受診歴を参照に病態を推測し、検査が必要なのか、本当に必要な検査は何であるのかをその都度、検討していました。血液データのオーダーに関しても同様で、日本ではルーチンとして行われる血算などの項目も、米国では必須ではなく、行う場合は「なぜ必要なのか」を常に問われていました。私は医学生として知識が及ばなかった点も多くあると思いますが、他科を回っている際にも検査に関して質問する中で、「なぜ必要なの?お金の無駄遣いでしょう?」と先生方に指摘されてしまうことが何度かあり、たとえ非侵襲的で安価であっても不必要な検査は行わないことが徹底されている環境を痛感しました。

日本医療において行われる毎回の血液検査や、低侵襲な検査による現状の確認は、患者の病態を正しく把握し、新規の病変を見つけるために有益であるかもしれません。しかし、米国で実践されているように、過去のデータを参照に患者の現状を推察し、無駄な検査を極力控えて診断まで行き着き処方する方式は、医療費高騰が続く日本の医療現場にも転用できる点ではないかと感じました。日々患者に接する中で、現状把握のためにルーチンを行ってしまうことは、自分に生じうることだと思います。いかなるときも「なぜ必要なのか」を考えることは、今後医師として診療を行ううえでとても重要であり、非常に大切な姿勢を学ばせていただきました。

2点目の米国の医療体制について特に印象的だったのは、GPの存在です。米国では、すべての患者が「who is your GP?」の質問に答えられます。米国では出生後、12歳まで小児科医で定期的にフォローされた後に家庭医に受け継がれ、一生涯、人生の健康をサポートする医師であるGPと付き合っていきます。一方日本では、主治医を持つ人は少数であり定期的に病院を受診する習慣もなく、健康診断も各企業が提供する場合に受診する人が大多数です。加えて専業主婦や退職後の方は任意となるため受診されていない方が多く、健康診断未受診数は更に増加すると考えられます。このため病気になった際、誰に相談すればいいのかわからず、病院を二転三転せざるを得ない患者も少なくありません。そして残念なことに病院に行くこと自体を恐れ、取返しのつかない状態で救急外来に搬送される患者さんも多く存在します。このような状況の中で、今回目にした、米国のGPの存在と患者との信頼関係は、患者の人生を豊かにする基盤になると考えました。GPと患者の良好な関係は、医療機関を転々とする患者の削減にもつながり、医療費の抑制にも寄与し得る、今後日本に必要な医療体制として参考にすべき体制であるとも感じました。

この1週間の研修プログラムを通して、日本と米国の医療を比較し医師としての接し方、疾患へのアプローチの仕方、さらには、医療制度について学習することができました。米国の医療には、今後の日本に参考とすべきことが多くあることに気づかされるとても貴重な経験となりました。この経験を活かし、今後も理想の医師像を模索し、勉学に励んでいきたい所存です。

最後とはなりますが、この度はこのような貴重な機会を設けて頂きまして、改めて感謝申し上げます。本当にありがとうございました。