米国財団法人野口医学研究所

研修レポート

学生増田海平

2017年3月米国トーマス・ジェファーソン大学

2017327日から31日までの5日間、野口医学研究所主催のもと、Thomas Jefferson UniversityでのClinical Skills Programに参加させていただきました。

このプログラムに応募しようと思った理由は、米国の医療システムや医療現場、医学教育を自分の目で見て体験してみたいと思ったからです。日本は国民皆保険、社会保障などの制度が充実しているため医療サービスへのAccessibilityに優れているという長所がありますが、米国の医療・医学に関しても日本とは異なる優れた点があるのではないか、と思っていました。また、米国では日本に比べていわゆるジェネラル系(総合内科、家庭医療、感染症、ER、腫瘍内科など)の分野が進んでおり、実際にどのような雰囲気か、どのように機能しているのかを見てみたいと思いました。

実習内容は、Internal medicineimpatient round, Emergency DepartmentPediatricsFamily MedicineOutpatientDr. Wayne Bond LauDr. Joseph F. Majdanのレクチャー、Simulation Centerでの実習、JeffHOPEへの参加等でした。どの実習も非常に有意義で、多くの貴重な経験をすることが出来ました。

Internal medicine ではアテンディング1人、レジデント 2人、医学生(M4)で構成されたチームに参加させていただきました。日本とは異なり、病院総合診療医、いわゆるHospitalistによる病棟管理が行われており、病院総合診療医が幅広い疾患をマネージメントしておりました。日本とは大幅に異なっている点でした。日本では見られない鎌状赤血球症なども経験でき、改めて米国に来たのだな、と実感することもありました。朝のカンファレンスでレジデントが医学生にインスリンの投与方法を丁寧に指導していた光景が非常に印象的でした。

Emergency department では50床を超えるベッドがあるERで、各々のドクターが診察を同時並行で行っており忙しそうでした。日本でもcommonな脳卒中や虫垂炎といったものから精神疾患、脊髄損傷など幅広い疾患を見ることができました。患者さんもいろいろな人がいて、英語の喋れない中国人も受診していました。このようなときには固定電話のような形をした翻訳機を使用した問診が行われており、非常に新鮮な光景でした。

家庭医療外来でも多くの経験をできました。先生が仰っていた“We have to see the WHOLE PERSON.”という言葉が印象に残っています。患者さんの中には、“家庭医の先生と30年以上の付き合いです。”と言っていた方もいて、Doctor-Patient relationship(信頼関係)の構築が非常に大切であるなと実感しました。患者さんも僕が自己紹介するとすごくフランクな反応をしてくださったので非常に楽しい実習となりました。日本では立ち会うことのできなかった乳房の診察やPap smearなどを見学させていただき大変勉強になりました。一般的には日本の大学病院ではプライマリケア医ははおらず、大学病院に来る患者さんはすでに診断がついた患者がほとんどです。日本の大学病院では一般内科などの分野は採算が取れず赤字の原因となるため排斥される傾向にありますが、Jeffersonではプライマリケアと先端医療の連携がうまくできているなと実感しました。

小児科外来でも日本との違いがたくさんありました。私の大学では患者さんのほとんどは白血病などの造血器腫瘍や慢性肉芽腫症といった原発性免疫不全など重症な患者さんがメインですが、一方、Jeffersonでは乳児健診や、咳をきたした小児のファーストタッチなど日本の大学病院では行っていない業務もこなしていました。また、実習ではM3の学生につきました。学生が実際に患者の親や本人に問診をとり診察を行っていました。iPadを使ってその動画を撮り、レジデントに見てもらいフィードバックをもらう、という教育体制をとっていました。とても熱心な教育が行われていて驚きました。

JeffHOPEでは上級生(M3M4)と下級生(M1M2)とでチームを作り、ホームレスなどの医療難民の方々の診察にあたっていました。まず、下級生が診察をし、上級生がそのフォローをするといった形式で行っていました。“気管支拡張症と無気肺の違いは何か?”などの病態の説明なども上級生が下級生に丁寧におこなっており、屋根瓦形式の教育が行われていました。Volunteerismも素晴らしいですが、このような学生同士で勉強ができる環境も素晴らしいなと思いました。Dr.Wayne Bond LauVolunteerismのレクチャーでも先生の熱血さが伝わってきて、医者としての生き方に感動しました。

Dr. Joseph F. Majdanのレクチャーでは心臓の診察や臨床推論の基本、医療面接や医療倫理を学習しました。Dr. Joseph F. Majdanは循環器内科のドクターですが、長年学生の教育に専念してきたとおっしゃっており、彼の部屋の扉はいつでも空いており学生が困ったときには助けてあげられるような環境をつくっているということでした。医学というものは一般的に、臨床、研究、そして教育という三本柱で成り立っておりますが、日本の医学部はまだ医学教育の水準が全世界の基準に至っていないと問題視されています。私の大学のレクチャーのほとんどは最新のトピックを扱うアカデミック授業がとても多かったです。一方でこちらでは実際に現場に出るにあたってすぐに役立つような実践的な講義を受けることができ、新鮮でした。

なお、米国の講義は最近ではオンライン化が進んでおり、Escort してくれた学生は倍速で受講して残りの時間を自分の勉強に充てているそうです。自由度の高い学習環境もアメリカの医学教育の魅力なのかな、と感じました。

米国の医療現場や医学教育を実際に目で見て自分の価値観が変わりました。日本ではまだ普及しきれていないジェネラル系の面白さを実感することができました。また、険しい道ではありますが米国臨床留学をしてみたいとも痛感しました。それと同時に英語のコミュニケーション能力やディスカッション能力もブラッシュアップさせたいと思いました。

今回、日本から派遣された研修生は皆優秀でとてもいい刺激を受けました。今後も付き合いが続いたらいいなと思います。

最後に、このような素晴らしい機会を与えて下さった浅野先生、津田先生をはじめとする野口医学研究所の先生方、スタッフの皆様、Japan Centerのスタッフの皆様、Gonnella先生、Joseph先生、Lau先生をはじめとしたThomas Jefferson大学の皆様に心よりお礼申し上げます。誠にありがとうございました。今回の経験をこれからの私の医師人生に上手く活かせるよう、これからも精進していきたいと思います。