米国財団法人野口医学研究所

TJU研修レポート

学生岩田秀平

2017年3月米国トーマス・ジェファーソン大学

はじめに

2017327日から31日にかけての5日間、野口医学研究所の主催するThomas Jefferson UniversityでのClinical Skills Programに参加させて頂いた。今回の実習の目的は、①米国の医学教育を実際に体験すること②これまで大学や海外の病院で学んできた医学と英語のスキルを実際の医療現場で試すこと③日本と海外の医療の相違を認識した上で自分が将来医師としてどう力を付け、どう発揮していくかのキャリアを考えること、の3点である。ここではそれぞれに関して自分なりに感じたこと、考えたことを述べさせて頂きたい。

 

米国の医学生と医学教育

米国では4年制大学を卒業した後に4年間医学部に通う、という話は有名であるが、実際に米国の医学部生と話をしてみると、医師として明確なビジョンを描いている人が多い印象であった。「医師になるまでに長い時間を要することはデメリットでもあるけれど、自分の将来をじっくり考えた上での選択ができることは良い。日本では高校生の段階で自分の進路を決めなきゃいけないのは大変だね。」と話していた。また、日本と比べてすでに家庭をもつ学生も多く、将来の志望科は自分の興味だけでなく家庭とのワークライフバランスを考えて選択するとのことであった。また、TJUのように私立大学医学部の場合、学費が年間600万円程であるため、多くの学生はローンを組んでおり、早く返済できるように給料の高い科やレジデントの期間が短い科を選択することもあるとのことであった。

医学教育で印象的だったのは、患者さんを具体的にイメージできる実践的な教育である。

日本のように系統的な講義はあるようだが、多くの学生は講義に出席せずに講義のビデオを2倍速で見ているとのことであった。インプットは早く済ませてアウトプットの練習を行うことに重きを置いており、日本でも行われ始めているTBL(Team Based Learning)PBL(Problem Based Learning)が盛んに行われていた。また、Simulation Centerでは模型を使った身体診察やエコーの実習、腹腔鏡手術やロボット手術の練習、ビデオを用いた医療倫理の授業等があり、日本と比べて早い段階から臨床を意識した教育が行われていた。Jeff HOPEでは一年生が患者さんの問診を取ってプレゼンをし、4年生がフィードバックと今後の治療法の計画を立てており、実践的でインターラクティブな学習が行われていた。

 

米国の医療現場

内科の病棟見学では、アテンディング1人、3年目レジデント1人、1年目レジデント(インターン)1人、医学生1人のチームに付かせて頂いた。米国のレジデントの朝は早く、6時頃からプレ回診を行って担当患者(10名程度)の状況を確認し、8時半頃からプレ回診をもとにしたアテンディングとのディスカッションを行って、午前中に回診を行っていた。この回診は、「Patient Centered Round」と呼ばれており、その名の通り、患者さんと関わる全ての職種(医師、看護師、Nurse Practitioner、薬剤師、PTOT、ソーシャルワーカー、通訳など)が参加しており、患者さん一人一人の状況をチーム全員で確認しながら治療を行っていて、「患者中心の医療」の実際を経験することができた。

家庭医外来や小児科外来でも同様で、患者さんをより包括的に捉えてチームで患者の問題を解決していくという印象を受けた。例えば家庭医外来では、薬の調整だけでなく、健康診断を行えているか、生活への影響はどうか、社会制度への知識はあるか等、多くのことに気を払っており、家庭医療の醍醐味を経験することができた。その際に、どの保険に加入しているかも治療法、今後の計画を決める上で重要な要因の一つであった。

救急や外来では患者さんが一人一人与えられた部屋で待機し、医療者が患者の部屋を訪れるという仕組みであるが、これは医師だけでなく看護師やNP、ソーシャルワーカーなど他職種で患者をケアすることにおいて、効率の良いものである。ここにも患者中心の医療を感じることができた。

今回は1週間という短い期間の実習であったため、どうしても見学メインになってしまいがちであったが、私はできるだけ毎回質問をして、見学にとどまらない参加型の実習を行おうと決めていた。その結果として患者さんと話す機会や問診とプレゼンをする機会を得ることができた。まだまだ自分の臨床能力や英語能力の乏しさを思い知らされたが、その中でもこれまで留学のために勉強してきたことが役に立ったと実感できたことは、これからのモチベーションの向上にも繋がった。

 

将来へ

今回の米国研修は、将来医師として世界を舞台に活躍したいと考えている私にとって、かけがえのない経験となった。やはり医師同士で議論が始まると、大まかに理解するのが限界で、この環境でチームの一員として機能することはかなりハードであると感じた。医療の現場では80%の理解など許されないからだ。しかし、ディスカッションの内容が難しすぎてついていけないという訳ではなく、医療のレベルとしては日本と大差ないという現実も体験することができた。ただし、日本では誰かの意見や自分の経験に基づいた医療を行いがちであるのに対し、米国では臨床で疑問が生じたときにすぐに文献を探し、理論的に考えて理由付けを行い、それに基づいたディスカッションを行ったうえで診療を行うという印象を受けた。日本における英語へのアクセスの悪さと日本人のディスカッション経験の少なさが原因の一つであるだろう。これから私が日本で医師となって世界に活躍するためには、日々の臨床に疑問を持ち、自分で調べ、理論的に考えた上でディスカッションを行うということを習慣にしていくことが必要であると考えた。自分の専門性を日本で極めることができれば、海外にも十分通用する人材になれると確信できたことは、私にとってとても大きな財産である。

また、Dr. Lauの講義やJeff HOPEでの経験を経て、Volunteerismの重要性に改めて気づかされた。自分の恵まれた環境に感謝をし、自分が情熱を持てる分野で社会貢献をすることは、私達医療者の義務であると感じた。

 

謝辞

今回このような充実した研修を行うことができたのは、選考会で選んでいただき、学費を援助して頂いた野口医学研究所の浅野先生、三宅さん、中尾さんを始めとする皆様や、貴重な経験をさせて頂いたThomas Jefferson UniversityDr.Charles A Pohl先生、佐藤隆美先生、Dr.Joseph S Gonnella先生、Dr.Wayne Bond Lau先生、Dr.Joseph F Majdan先生、Japan Centerのラディ由美子さん、中村さん、ホストスチューデントのIvyさん、そして一緒に研修を行った同期のおかげです。心から感謝しております。本当にありがとうございました。