米国財団法人野口医学研究所

野口医学研究所& Thomas Jefferson University “Clinical Skills Program”に参加して

学生白井麻理恵

2016年3月米国トーマス・ジェファーソン大学

2016年3月18日(金)から3月25日(金)の1週間、Thomas Jefferson Universityにて実習の機会を頂きました。まず、選考委員の先生方に心からお礼を申し上げたいと思います。というのも、山梨大学では勉強会なども機会がなく、私にとっては選考会が他大学の学生と言葉を交わす初めての機会だったからです。ほとんど英語で行われ、実際にアメリカでの診療経験等を持つ先生方が口々に自らの経験や私たちの将来についてモチベーションの高まるお話を聞かせて下さり、それぞれに熱く、鼓舞して下さる雰囲気に、とても励まされたのを覚えています。

実際の研修でも、同じ選考班だった2人や、懇親会で話をした何人かと再び顔を合わせることができ、大変楽しく、充実した時間を過ごすことができました。

また、一番ありがたいと感じたのは、事前にスケジュールや寮、周囲の観光スポットなどについて詳細な資料を送って下さり、現地担当者の方に加えて、日本からもスタッフの方が現地に行って下さっており、実習以外はまったく心配のいらない環境を整えて頂けたことです。もともと心配性で細かいことが色々と気になってしまう私でも、集中して実習の準備や勉強に取り組むことができました。

初日はオリエンテーションでした。大学の施設案内や図書館、JeffHope、Chinatown Clinicといったボランティアの説明をお聞きし、現地で研究をされている日本人の先生方のラボ見学に伺うことができました。月曜日から、下のようなスケジュールで実習が始まりました。

初の現場にどきどきしながら扉を開けると、そこはドラマのERやグレイズアナトミーの世界、飛び交うスピーディーな専門用語の連続にしばし圧倒されました。優しいResidentの先生が絵を描いて説明して下さったり、話しかけて下さって質問もしやすく、同じ部署に日本人の学生2~3人ずつ行ったこともあって、みんなで聞き取れた内容を合わせると、なんとか話がつながる、といった感じでした。Internal Medicineでは、1チームにAttending1人、Resident数人、Intern1~2人、学生2人でしたが、カンファレンスが終わって真っ先に部屋を出て行ったのは日本ではありえない学生2人でとても驚きました。入院時の病歴聴取や身体所見、退院手続きは学生の仕事であるらしく、日中はなかなか忙しいそうです。日本の医学生より年が上のせいもあるかもしれませんが、チームの中にいるとどれが学生かわからないというのは本当だな、と思いました。

回診は、患者さんとの会話がとてもフランクで、Attendingはベッドに腰掛けたりしてレジデントのPresentationを聞いていました。患者さん1人につき、カンファレンスルームで1回、部屋に入る前に1回、部屋に入って1回プレゼンや確認をしていて、すごく丁寧でした。また、患者さんへの伝え方も、日本の回診ではあいさつをちょっとして、軽く予定を伝える程度で、検査の説明などは別の機会ですが、アメリカでは病状の説明やなぜその検査をするのかなどを一連の流れとして回診の際に説明しており、患者さん本人やご家族も色々な質問を挟み、Attendingがみんなの前で説明する、という感じで、その場にいるだけで患者さんの状況が部外者の私でもはっきりと分かり、とても良いなと感じました。

患者さんも皆、おしゃべりではっきりしていて、医療チームにもフレンドリーな方が多く、日本だと回診の際に患者さんがあまり言葉を多く発する印象がなかったので国民性の違いもあるのかな、と思ったりもしました。

また、私が今回のプログラムで一番感銘を受けたのは、Dr. LauのChinatown Clinicの見学です。Visaの問題や不法入国などで病院に受診できない人がたくさんいる。毎朝目覚める度に、不安を感じる、その気持ちがどれほどのものか想像してください、と先生に言われ、私なりに考えながら見学に向かいました。救急のような感じをイメージしていましたが、実際は糖尿病や高血圧などの生活習慣病や、体調などの話を聞く、健康管理のような感じでした。一部屋を区切って使っている診察室に、身を縮めるようにして入ってくる患者さんたちがとても印象的でした。意外と若い方でも、さっと血圧を測ってみると180越え、ということも多く、Dr.Lauはすごい勢いで患者さんに質問をし、生活上で注意することやその重要性、危険性などを教えていました。一見、健康そうに見える患者さんたちなので、もしもChinatown Clinicがなかったら、たぶん病院には行かないと思います。でも数か月に1回でもDr.Lauと顔を合わせていれば、何か異変を感じた時にも相談することができます。大袈裟かもしれませんが、何かあったら連絡してね、教えてね、と声をかけてくれる先生が一人いるだけで、患者さんたちにとってはそれが命綱になるように感じました。現代のハイテク医療に囲まれていると、医者が一人いてできることなんて本当に小さな事に思えてしまいますが、正しい必要な情報を教える、薬を出すなどはもちろんのこと、医者が身ひとつでできることで一番重要なのは、患者さんに安心感を与えられることなんだ、というのを目の前で実感し、初心に帰る思いでした。  最後になりましたが、集合場所への案内、スケジュールの調整など、研修生活を日々サポートして下さった、木暮貴子さん、Yumiko Radiさん、Tucker Brown、今回の機会を下さった野口医学研究所の方々、現地で素晴らしい講義をして下さったDr. Lau、Dr. Majdanをはじめとする諸先生方に心から感謝申し上げます。