米国病理診断の実践と今後のキャリアを考える貴重な機会となりました

このたび、野口医学研究所の医学交流プログラムを通じて、Thomas Jefferson University Hospitalの病理部門で約3週間の研修をさせていただきました。1週目は消化器病理、2週目は婦人科病理、3週目は輸血部およびMicrobiologyを中心に見学しました。臨床留学を見据えた米国の病理診断の実際を経験し、日本での診療との共通点と相違点を学ぶことができ、大変有意義な研修となりました。
Anatomic Pathologyでは、午前中は主に生検標本や手術検体のスライドを事前に自分で鏡検し、診断したうえで、午前9時頃から指導医の先生と一緒に顕微鏡を見ながら診断を確認するという流れでした。自分であらかじめ所見を取り、鑑別診断を考えてから指導医とdiscussionする形式であったため、受動的に見学するだけでなく、実際の診断過程に近い形で学ぶことができました。午前中はおおむね正午頃までsign-outに参加し、午後はgross roomで切り出しを見学しました。
消化器・婦人科病理では、腫瘍性病変の診断については、日本で自分が普段経験している診断と大きく異なる点は少ないと感じました。一方で、非腫瘍性疾患については、炎症の分布や活動性、背景の変化などを非常に細かく評価しており、特に生検材料から得られる情報を最大限に読み取ろうとする姿勢が勉強になりました。また、隙間時間に脳腫瘍の標本も見させていただいていたのですが、脳腫瘍に関しては、分子学的検索を自施設よりかなり頻繁に提出しており、よりWHO5版の分類により準拠した診断を行なっている印象でした。
午後の切り出し見学では、日本との運用の違いを強く感じました。日本では、手術検体がある程度展開・固定され、臨床情報や病変部位が明確に示された状態で病理部に提出されることも多いですが、今回見学した施設では、外科医による貼り付けや固定が必ずしも行われておらず、病名や病変部位が十分に分からない状態で臓器が提出されることもありました。そのため、病理医やPathology Assistantがカルテで臨床情報を確認しながら、サンプリングする必要があり、大変な作業であると感じました。
Clinical Pathologyでは、Microbiologyと輸血部を見学しました。Microbiologyでは、検体を培地に接種し、培養後に生えてきた細菌コロニーを観察しました。コロニーの大きさ、色、形、溶血の有無、MacConkey agar上での乳糖発酵の有無などを確認し、原因菌を推定していく過程を学びました。USMLEの勉強で学んだcoagulase test、β-hemolysis、optochin sensitivity testなどの知識が実際の臨床検査で使われていることを確認でき、とても興味深く感じました。
輸血部では、血液型、不規則抗体、輸血副反応、血液製剤の管理などについて学びました。米国では多様な人種背景を持つ患者に輸血を行うため、人種によって赤血球抗原の発現頻度に違いがあることを考慮しながら、適切な血液製剤を選択する必要があるという点が印象的でした。また、輸血医療には医学的判断だけでなく、宗教的背景、法律、FDAの規制、病院内の安全管理体制なども深く関わっており、輸血部が単なる検査部門ではなく、臨床、規制、倫理をつなぐ重要な部門であることを実感しました。
業務終了後ではJeff HopeやChina Town Clinicのプログラムも参加させていただき、医学部生が指導医のもとで、保険に入れない人たちの問診や簡単な身体診察をして、処方や今後のプランを考えプレゼンしていました。患者さんだけではなく、医学部生にとっても実践的なよい取り組みであり、また、医学部に入る前の大学学部生も来ていて、活動への参加が医学部に入るためのアピールになるのは感心しました。
今回の研修を通じて、米国の病理診断の実際を見学できたことは、今後米国で病理レジデンシーを目指すうえで非常に貴重な経験となりました。特に、sign-outでのdiscussion、gross roomでの標本処理、Microbiologyや輸血部でのClinical Pathologyの実践を通じて、米国の病理医がどのように診断、検査、臨床支援に関わっているのかを具体的に理解することができました。また、現地の先生方やレジデントの先生方と私の今後のキャリアや彼らのバックグラウンド、なぜこの施設で働いているかなどしることができ、今後のキャリアを考えるうえでも大変励みになりました。
Acknowledgement
今回の研修にあたり、ご指導いただきましたThomas Jefferson University Hospital Department of Pathologyの先生方、特にDr. Chan、Dr. Maria Averbuch、Dr. Julie Katz Karp、Dr. Matthew Pettengill、Dr. Courtney Comarに心より感謝申し上げます。また、日々のsign-outや見学中にご指導いただいたレジデントの先生方にも深く感謝いたします。さらに、研修の調整および滞在中のサポートをしてくださったJefferson Japan Centerの皆様、そしてこのような貴重な機会を与えてくださった野口医学研究所の皆様に、心より御礼申し上げます。
Dr. Chanと見学に来たPh.Dの学生さんと私
Japan CenterのYumiko RadiさんとVincent Gleizerさん
輸血部のDr. Julie Katz Karpとテルモの機械の前で