米国財団法人野口医学研究所

TJU研修レポート

学生前田広太郎

2016年3月米国トーマス・ジェファーソン大学

「双壁」――これを実感したThomas Jefferson University Hospitalでの研修でした。以下の研修レポートにて、私が研修中に感じた、日本から米国留学及びレジデントを目指す上で乗り越えるべき課題を中心にご報告差し上げます。

 

何よりもまず、「言語」が第1の壁として立ちはだかります。特にリスニング――いやむしろリーディングやライティング、スピーキングといった能力はある意味今回の実習では必要ないとまで感じた程――リスニングの重要性を痛感しました。というのも、想像以上に医師と医師間の会話における理解度が低くなる場面に遭遇したからです。振り返ってみると、日本の病院内でのクリニカルクラークシップ中の回診における医師間の会話ですら、病棟の中でということもあり小声で交わされる故聞き取れないことが多々あることは承知していました。それが第2言語である英語で繰り広げられているのですから、理解出来ないのも必然とも言えるでしょう。私は普段からABC newCNNdiscovery channel等を日常的に視聴しアメリカ英語をメインにしたリスニング能力の向上に励んできました。しかし、上記のメディア等で話されている内容や発音は、特別な訓練を受けたアナウンサーやナレーターが綺麗かつ明瞭な発音をしているが故に聞き取り易いという側面があります。一方で実際の病院で繰り広げられている会話は綺麗な発音でもなくスラングや様々な地方のアクセントが混ざり合い、音量もマイクで拾われている訳でもないため小音で聞き取ることはニュースよりも遥かに困難を極めます。病院での日常会話のスピードに慣れるために準備できることは、普段からネイティヴとの日常会話に自らも繰り出すことが必要であると痛感しました。この研修に参加される方は、医学英語知識の補充も無論肝要ではありますが、何よりもまずリスニング能力を強化しておくことを強く推奨します。リスニング能力は参加の前提条件と言っても過言ではないでしょう。

 

次に、「文化」の壁は想像以上に奥が深いものであると認識することが出来ました。保険制度、医薬品、人種、食事、経済状況、ドラッグ、性への認識、ジョークの性質…あらゆる文化的差異が日本と米国では存在し、日本では散見されない様な事も米国の診察室では当然の如く存在しているのです。例えば、救急外来、小児外来、家庭医療外来での研修中にて、現地に暮らしていないと決して知りうる機会の無いローカルトークに遭遇することが何度もありました。こういった場面では、外部から来た医師や医学生が会話に溶け込み理解することや、共感を持って診療するのが難しい可能性も否定できません。医師―患者間コミュニケーションで最も大切な要素の一つとしてラポールの形成が挙げられますが、米国で医師―患者間の信頼関係を築くには医学の勉強だけでなく、文化理解も深めた上で診療を行わなければ、患者自身を真に理解することも叶わず、良好な信頼関係は築くことは出来ないと考えるのは想像に難くないでしょう。日本人が医師として渡米した時、どれだけのラポールを形成できるかはその人自身と米国文化の相性も重要なファクターではないかと考えます。

 

総じて、米国医学留学をより充実したものにする為には、日々英語に対して研鑽を積み重ねるのみならず、並々ならぬ医学の深い知識を備え、米国文化を愛しと溶け込もうとする資質が求められるのではないでしょうか。私にとって、この研修は「何を得たか」で括れるものではなく、「何が足りないのか」を実感したまたとない機会だった言えるでしょう。

最後になりましたが、この研修をサポートして下さった野口医学研究所の皆様、また、フィラデルフィア現地ではRadiさん、佐藤先生、 Dr.Pohl Dr. Majdan Thomas Jefferson大学の医学生らに心よりお礼を申し上げます。どうもありがとうございました。