米国財団法人野口医学研究所

⽶国研修を通じて学んだ外傷診療体制の違い

京都府⽴医科⼤学医学科4年今⽥倫太郎

2026年3月19日〜3月28日米国トーマス・ジェファーソン大学

野口医学研究所による今田さんの研修レポート

留学の⽬的
2026 年 3 ⽉ 19 ⽇から 3 ⽉ 28 ⽇にかけて、⽶国トーマス・ジェファーソン⼤学病院にて研修の機会をいただきました。私は外傷診療に強い関⼼をもっており、この分野において先進的な取り組みが⾏われている⽶国で臨床を学びたいと考え、本プログラムに応募しました。留学にあたり、以下の⼆つの疑問を設定しました。
 1. ⽇本においても⽶国のような外傷センターを整備すべきか。
 2. 外傷患者が減少傾向にある⽇本において、どのようにして外傷外科医を養成すべきか。
本研修ではこれらの問いに対して⾃分なりの考察を深めることを⽬的としました。

救急科
トーマス・ジェファーソン⼤学病院では、外傷診療に特化した処置室(Trauma Bay)が救急部に併設されており、外傷患者の初期対応は救急医が担っていました。プライマリサーベイおよびセカンダリサーベイの後、外科的介⼊が必要と判断された患者は隣接する⼿術室へ迅速に搬送されます。
特に印象的であったのは、外傷専⽤の⼿術室が併設されている点です。このような施設の維持には⾼額なコストが伴いますが、いつ発⽣するかわからない重症外傷に対応するためには必要不可⽋な体制であると感じました。
また、外傷症例数の多さにも強い衝撃を受けました。平⽇のわずか 2 時間の⾒学中にも複数回の外傷コールが発⽣しており、限られた時間内でも多数の症例を経験できる環境であると実感しました。症例数の多さが、外傷診療の質の向上および教育体制の充実に直結していると実感しました。
搬送⼿段にも⼤きな違いがあり、多くの患者がヘリコプターによる航空搬送で来院していました。⼀⽅で救急⾞を⽤いた陸上搬送は⽐較的稀でした。ヘリコプターを⽤いた航空搬送は⾮常に⾼額であり、これは⺠間医療保険が広く普及している⽶国ならではの特⾊と考えられます。⼀⽅で、保険適応外となるケースもあり、患者の⾃⼰負担が問題となっている現状についても現地の医師に伺い、医療制度の違いが臨床現場に与える影響を強く認識しました。
外傷の種類に関しては、想像していたほど⽇⽶間で⼤きな差はなく、鈍的外傷が中⼼である点は共通していました。⾃分がドラマを⾒て想像していたような銃槍などの鋭的外傷は必ずしも頻繁ではなく、むしろ多様な外傷に幅広く対応している印象を受けました。
以上を踏まえて、⾃分は下記の問いに対してこのように考察しました。

1. ⽇本においても⽶国のような外傷センターを整備すべきか。
この問いに対する私の結論は「整備すべきだが、現実的な導⼊は困難である」でした。外傷センターは診療の質の向上および教育の観点から⾮常に有⽤である⼀⽅、その運営には⾼度な設備投資と⼈的資源が必要となります。⽶国では医療がある程度ビジネスとして成⽴している側⾯があり、このような体制が維持されていますが、⽇本の医療制度下で同様のシステムを構築することは容易ではありません。また⽇本にはすでに独⾃の救急医療体制が存在しており、その利点も⼤きいことから、外傷患者の集約化を最優先課題とする必要性は必ずしも⾼くないと感じました。

2. 外傷患者が減少傾向にある⽇本において、どのようにして外傷外科医を養成すべきか。
外傷症例の減少が進む⽇本において、外傷外科医の育成は重要な課題です。特に⽇本は災害が多い国でもあり、⼤量外傷への対応能⼒は維持されるべきです。この点において、海外留学は有効な選択肢の⼀つであると考えました。⽶国のような症例数が豊富で、体系的な教育体制が整った環境に⾝を置くことで、⾼度な外傷診療能⼒を効率的に習得することが可能だと感じました。ただし、州や施設によっては症例の分散が⽣じることもあるため、トーマス・ジェファーソン⼤学病院のような外傷診療の中⼼となる施設を選択することが重要であると感じました。

脳神経外科
研修中には脳神経外科⼿術を⾒学する機会もいただきました。トーマス・ジェファーソン⼤学には脊椎⼿術を中⼼に⾏う本院と、頭蓋⼿術を主に⾏うJe=erson Hospital for Neuroscience があります。今回は本院にて脊椎⼿術の⾒学を⾏いました。⽶国の脳神経外科は朝が⾮常に早く、午前 5 時から医局でカンファレンスが⾏われていました。カンファレンスは主にレジデントの医師が主導し、上級医にプレゼンテーションを⾏う形で進められていました。終了後には指導医による回診が⾏われます。
回診で特に印象的だったのは、患者の国籍の多様性です。⽶国は多国籍国家であるため、様々な背景をもつ患者が⼊院しており、中には英語を⺟国語としない患者も⼀定数存在します。そのような場合にはオンライン通訳サービスを通じて⼿術の説明が⾏われていました。脊椎⼿術などの⼤きな⼿術では多くの質問が患者からよせられますが、それら⼀つひとつに対して通訳を介しながら対応している医師の姿が⾮常に印象的でした。
回診後は⼿術室に移動し、チーフレジデントの Dr. Self と脊椎⼿術の教授である Dr. Prasad のもので脊椎⼿術を⾒学させていただきました。その⽇は朝から約 10 件の⼿術が予定されており、脳神経外科の領域における症例数の多さを実感しました。⼿術室の設備は⽇本と⼤きな差はなく、⽇本製の機器も使⽤されており、親近感を覚えました。
⼿術では Dr. Prasad が Dr. Self に対してマンツーマンで指導を⾏っており、充実した指導体制が整っていると感じました。⽇本では 1 ⼈の指導医に対して、複数⼈の専攻医がつくことが多く、教育資源の豊富さにも違いを感じました。また教授とレジデントが下の名前で呼び合うなど、上下関係においても⼼理的距離感が近く、質問しやすい環境が醸成されていました。外科教育システムにおいても、⽇本との違いを強く実感しました。

その他
研修中には、ホームレスシェルターにおいて学⽣主体で診療を⾏うプログラムJe=Hope にも参加しました。Je=Hope では医学科 1 年⽣の学⽣と 4 年⽣がチームを組み、患者の問診や触診を⾏っていました。医学教育の早期段階からこのような実践的トレーニングを受けられる環境は⾮常に優れていると思いました。
患者は学⽣による診察であることを理解した上で来院しており、教育的意義に理解のある協⼒的な⽅が多い印象でした。問診と触診の後には、学⽣同⼠で鑑別疾患を挙げて議論を⾏います。医学科 1 年⽣の学⽣も積極的に意⾒を述べ 4 年⽣と活発に議論する姿が⾮常に印象的でした。医学⽣であっても「⾃分の患者に責任を持つ」というプロフェッショナルな姿勢で診察に臨んでおり、その主体性は⽇本の学⽣にとっても学ぶ点が多いと感じました。
さらに、⼩児科の外来も⾒学させていただきました。⽶国の外来診察は、患者が診察室へと案内され、医師がそこに赴いて診察を⾏う形式が取られていました。
診察の中で特に印象に残ったのは、思春期患者に対する違法薬物の指導です。⽶国では州ごとに規制が異なり、フェンタニルやコカインなどの薬物へのアクセスが問題になっています。そのため、政府や教育機関が多⾓的に対策を講じており、⼩児科外来においても薬物教育が重要な役割を担っています。
実際の診察では、患者は必ず保護者とは別室で薬物使⽤歴について問診を受け、必要に応じて検査が⾏われていました。また、医師は薬物使⽤の有無に関わらず患者を否定することなく、なぜ薬物にかかわるに⾄ったかという背景に寄り添いながら対応していました。このような全⼈的なアプローチは、⽇本の⼩児科診療においても広く応⽤可能な視点であると感じました。

今後
本プログラムを通じて、⽇本と⽶国の医療制度の違いや臨床現場の実際について理解を深めることができました。今回の経験を踏まえ、⽶国という先進的な環境で外傷外科医として働きたいという思いを⼀層強くしました。今後は、この⽬標を実現し、さらにそこで得た知識や経験を⽇本に還元できるような医師になるために、勉学・研究・臨床の⾯において⼀層精進してまいります。

謝辞
この度は、⽶国の臨床現場を⾒学するという⼤変貴重な機会を賜り、野⼝医学研究所ならびにトーマス・ジェファーソン⼤学の皆様に御礼申し上げます。
特に現地にてご指導・ご⽀援を賜りました救急科の Dr. Lau、Dr. Ratner、Ms. Kristina、脳神経外科の Dr. Prasad、Dr. Self、ならびにジャパンセンターの Ms. Radi、Mr. Gleizer に深く感謝申し上げます。

救急科でお世話になった Dr. Wayne Bond Lau と 救急科でお世話になった Dr. Wayne Bond Lau と
外傷診療に特化した処置室(Trauma Bay) 外傷診療に特化した処置室(Trauma Bay)