Thomas Jefferson University における⽶国の医療現場を肌で触れてみて

【はじめに】
このたび Thomas Jefferson University(以下、TJU)において2026年3⽉20⽇から27⽇まで約1週間の病院⾒学実習をさせていただきました。私⾃⾝にとって、アメリカの医療現場を⾒学するのは⼈⽣で初めての経験であり、⽇⽶における医療の違いや類似点について⾝をもって体験することができたと思っております。拙い⽂章ではございますが、何か少しでも私がアメリカで感じ取ったものが皆様に伝われば幸いです。
【キャンパスについて】
TJU はペンシルベニア州フィラデルフィアにある私⽴⼤学です。TJU の源流は 1824 年にまで遡り、近くにある University of Pennsylvania に次いでペンシルベニア州では2番⽬に最古の Medical School と⾔われています。キャンパスを案内いただいた際にも、多くの建物が歴史を感じる荘厳な建物が多かったことが印象的でした。TJU の Medical School は特別に名前が付いており、Sidney Kimmel Medical College と名付けられています。これは、Sidney Kimmel というアメリカのビジネスマンが多額の寄付を⾏ったため、その名を冠することになったそうです。これは、アメリカではよくあるとのことで、⼤学の他の建物にも⼈名を冠した建物が複数ありました。こうした寄付を⾏う⽂化は⽇本よりも圧倒的に多いと感じました。TJU の施設で⼀番記憶に残っていることは⼤学図書館で⼈体模型の貸出しを⾏なっているということです。全⾝はもちろんのこと、頭部や腹部、眼など部位別にも⼈体模型の貸出しを⾏っていることで、解剖の理解向上にはとても意義のあるサービスだと感じました。
【Internal Medicine round】
私が⾒学させていただいた Green Team 3 は Resident が 2 ⼈(うち 1 ⼈は Chief resident)、Intern が 1 ⼈、Medical student が 1 ⼈の 4 ⼈体制でチームが組まれていました。私が⾒学した時には、このメンバーに AJending doctor が 1 ⼈加わり、⼊退院する患者の回診を⾏っていました。私が驚いたことの 1 つが、Medical student の持つ患者への責任の重さです。Medical student は割り当てられていた担当患者のプレゼンをAJending doctor へ⾏っていたのですが、主訴や患者の経過といった内容はもちろん、⼀連の検査(⼼電図、画像検査、検査データ)についての説明、これらを踏まえた鑑別疾患や、今後の⽅針などを全て 1 ⼈でプレゼンしていました。たとえば、⼼電図の説明では、リズムや⼼拍数から始まり P 波や QRS 波、ST がどうなっているかなど⼼電図で⾒られるすべての事象を 1 から説明していました。⽇本でも、ある程度の患者のプレゼンは⾏うものの、ここまで⼀気通貫した管理は⽇本の研修医にも相当する⽔準ではないかと感じました。医学⽣のもつ責任に驚かされました。
【Emergency Medicine】
TJU の Emergency room では、正確な数字こそ明確ではないものの、⼣⽅の時点で1⽇の診察患者が 100 ⼈を超えており、患者の数が多いことが印象的でした。Philadelphia には薬物が深刻に蔓延している地域があり、⼟地柄的に薬物乱⽤の患者が多いことが特徴だそうです。ご指導いただいた Dr. Laoteppitaks ⽈く、そうした地域の近くにも病院はあるのでそちらに救急搬送されることも多いものの、それでは⼀杯になってしまうことがあるようなので、こちらの病院にも⼀部搬送されてくるとのことでした。実際、⾒学した患者の多くは薬物乱⽤により意識を失っていることも少なくなく、⽇本ではあまり⾒ないような現実に衝撃を受けました。この ER ⾃体には70名ぐらいのドクターが所属しており、⾒学時には計 10 名ほどのドクターが勤務をしていました。シフトがしっかり組まれているので、シフト外では⼗分に休みが取れているともおっしゃっていました。
【Endocrinology OutpaSent ⾒学】
TJU のキャンパスが⽴ち並ぶ市内中⼼部からバスで 20 分ほど南下したところにMethodist hospital という病院があり、そこで Endocrinology の外来を⾒学させていただきました。この病院の周辺は所得がやや低く、移⺠も多く住んでいるとのことで、市内の TJU の病院を⾒学している時とは異なった雰囲気を感じることができました。英語を話すことのできない患者も少なくないため、電話で通訳にすぐにつながるできる体制が整えられていました。どれくらいの⾔語に対応しているかは定かでないですが、私の⾒学時には少なくとも中国語やベトナム語などの通訳を介して診療していました。
また、アメリカでは⽇本と違い皆保険制度でないため、所得の関係から医療保険を持てない⼈もいるようです。この⾒学中にも、そのような患者に幾度となく遭遇しました。ただ、Philadelphia は特別に医療サービスに対する⽀援が⼿厚いようで、たとえばインスリンを必要とする患者には無保険でも提供してくれる公的なヘルスセンターがあるとのことでした。
【Pediatrics】
外来の⾒学をさせていただきましたが、特に印象に残っているのはこれからスポーツを本格的に学校で始めたいという男の⼦の診察でした。Philadelphia では、スポーツをする⼦どもは⼼疾患のリスクがないかを事前に医療機関でアセスメントする必要があるそうです。これは、万⼀その⼦がスポーツによる⼼疾患を起こした時に学校が責任を追及されないようにするための対策だそうです。裁判による解決が多い訴訟社会のアメリカを反映したような外来⾒学となり、とても印象的でした。
【JeffHOPE】
TJU では、Medical student が主体となってシェルターに住んでいる⽅達への医療の提供を⾏う活動として JeffHOPE があります。今回、私は ACTS と呼ばれる Philadelphia のやや北にある⼥性や⼦供をターゲットとしたシェルターでの活動に同⾏させていただきました。JeffHOPE は学⽣主体の活動とはいえ、とても組織化されています。診察を⾏う学⽣、薬剤を処⽅する学⽣、⼦供の世話をする学⽣などいくつかの班に分かれて⾃分たちの任務を⾏っていました。私は、STI(性感染症)の診察を⾏う学⽣についていたのですが、STI の可能性があるか問診を⾏うところから、膣 Swab テストの説明を⾏なったり、⾎液検査のための採⾎を⾏なったりまでしていました。この学⽣はまだ 1 年⽣とおっしゃっていて、とても驚いた記憶があります。⽇本では学⽣による医療系のボランティア活動は多くないですが、こうした活動が広がると、学⽣の臨床⼒や医療リテラシーの向上などに資するかなと思いました。
【SimulaSon class】
循環器内科医でもある Dr. Majdan のレクチャーを受けることができました。⼼⾳や⼼雑⾳など覚えることが多く、間違えやすいような内容についてポイントを絞って覚えやすいようにレクチャーいただき整理することができました。また、実際に模擬患者に来ていただき医療⾯接の練習も⾏うことができました。⽇本でも OSCE を中⼼に練習する機会はありますが、回数も少なくある程度形にはまっています。しかし、Dr. Majdan によれば現地の学⽣は 10 近くのテーマに沿った医療⾯接を Medical student は⾏うとのことで、その量に驚きました。
【Nephrology OutpaSent ⾒学】
今回私が訪れた Nephrology は腎移植を⾏う患者だけを診察する専⾨的な外来を⾏っていました。普段は地域の病院やクリニックで腎疾患をフォローしているものの、腎移植が必要になった場合には、この外来に紹介をされ移植前の評価や移植後のフォローアップを⾏うとのことでした。アメリカは⽇本よりも専⾨の細分化が⾏われており、患者側がより専⾨的な治療を受けやすいのではないかと感じました。
【その他】
他にもプログラムの⼀環で、現地の研究者の⽅からアメリカにおける研究施設を⾒せていただきました。研究室における働き⽅やポジションの⾒つけ⽅など教えていただき参考になることが多かったです。また、⽇本⼈の⼼臓外科の先⽣ともお話しする機会を設けていただきました。働き⽅、⽣活⾯での苦労、今後の展望など丁寧に教えていただきました。
上記の通り、⼤変有意義な実習を⾏うことができましたが、実習以外の時間でもたくさんの思い出を作ることができました。Philadelphia は映画『Rocky』の舞台地であり、主⼈公ロッキーが階段を駆け上がるシーンは実際に訪れることができるため、私が訪れた際にも多くの観光客がそのシーンを真似されていました。私は、元ネタを知らなかったので、皆さんは⾏かれることがあればぜひ事前に映画を⾒てみてください!市内にはカフェや雑貨屋、本屋、服屋などお店も多く、時間がいくらあっても⾜りませんでした。また、Philadelphia は 2〜3 時間移動すれば New York や Washington D.C.に⾏けるため観光もしやすいです。さらに、現地で仲良くなった医学⽣とランチや飲み会に誘っていただく機会もあり交流の輪を広げられたことも良い思い出です。
【得られたもの・今後の展望】
今回のプログラムを通じて、なんとなく聞いたことのある程度の⽇⽶における医療の違いを実際に体感することができました。やはりアメリカでは、専⾨性が深く分かれている点や ER で⾒たように働き⽅のオンオフがはっきりしている点などが優れているように感じました。また、こちらの医学⽣は医学部に通うだけで年間 1,000 万円近くやそれ以上かかる場合もあり多くの学⽣はそれをローンとして背負うため、いち早く⼀⼈前の医師になり返済する必要があります。したがって、将来、より広い選択肢が取れるよう貪欲に勉強し、その上で⾊々な課外活動をしています。こうした姿勢は⾒習わなければならないと感じました。⼀⽅で、⽇本の皆保険制度は医療機関の⾚字につながるなど批判もありますが、患者の医療アクセス向上にはとても資すると思いました。⽇⽶の医療システムでどちらかだけが良いということはないと思いますので、より良い医療を患者に提供できるよう⾒習うことのできるエッセンスは⾒習っていきたいです。
将来的には、研究と臨床をバランスよく⾏いながら Physician scientist のようになりたいと考えています。そうした⼟壌が整備されている地の⼀つとしてアメリカは魅⼒的です。そうしたアメリカに集まってくる世界の優秀な医学⽣とも対等に渡り合えるよう医学の勉強はもちろんのこと、勉強以外の活動などにもこれまで以上に精⼒的に取り組み、オリジナリティのある⼈間になりたいと思っております。
【謝辞】
まず、今回このような⼤変貴重な機会をいただきました野⼝医学研究所の皆様に⼼より御礼を申し上げます。初めてのアメリカでの病院⾒学で不安も⼤きかったのですが、ご質問などにも迅速丁寧にご対応いただき、安⼼して現地に渡航、滞在することができました。特に、野⼝医学研究所の佐藤 隆美先⽣、佐野 潔先⽣、本多愛美さま、TJU Japan Center の Dr. Charles Pohl、Dr. Wayne Bond Lau、Ms. Yumiko Radi、Mr. Vincent Gleizer の皆様に深く御礼を申し上げます。また、⾒学においてご指導を賜りました Dr. Jack Goodman、Dr. Chaiya Laoteppitaks、Dr. Jessica Watari、Dr. Mary Ross Sammon、Dr. Lara Phillipps、Dr. Prashamsa Pete Shenoy の皆様にも厚く御礼を申し上げます。さらに、SimulaSon Class を担当くださった Dr. Joseph Francis Majdan、私たち学⽣のために時間を作って現地でのお話を聞かせてくださった Dr. Yuta Kikuchi、Mr. Kevin Kim の皆様にも深く感謝を申し上げます。
最後に、実習ではお互いに切磋琢磨しながら、実習外の時間ではたくさんの楽しい思い出を⼀緒に作ってくれた⼭⼝さん、磯⽥さん、富⽥さん、佐々⽊さん、鴇⽥さん、今⽥さん、ありがとうございました。
Internal Medicine でお世話になったTeam と
Yumiko さんと Vincent さんと
現地の医学⽣達と Bar で⾷事
Dr. Majdan と講義後に