米国財団法人野口医学研究所

野口エッセイコンテスト 入賞作品
〜夢〜 10年後、あなたが成し遂げていること

野口エッセイコンテスト
入賞作品
〜夢〜 10年後、あなたが成し遂げていること

新型コロナウイルスを機に世界中に医療を

面美来

金沢医科大学 医学部 医学科 3年

 高校2年生の時、昔から志していた「途上国で働く医師」に本当になりたいのか、自分の目で見て肌で感じて確認したく、医学部受験を前に、私は単身ガーナへ行き医療ボランティアに参加しました。
 
 指から採血をし、バッファーをかけて待つこと15分。迅速検査キットにはくっきりと2本の線が浮かび上がり、結果は陽性でした。「ここ一ヶ月元気がなくて…十分なお金もなく無料で診てもらえるここに来ました…」と話すお母さんの腕の中にはぐったりとした3歳の男の子がいました。私はここで初めてマラリア患者を目の当たりにし、強い衝撃を受けたことを今でも覚えています。年間大勢の人がマラリアにより命を落としている事実は知っていましたが、実際にマラリアで苦しんでいる人を見ると、言葉を失ってしまいました。日本では心配する必要がない病気に苦しみ、金銭的に医療を受けられない状況を見て、自分の迷いも晴れ、将来医師になって、「世界中全ての人が必要な医療を受けられるように貢献したい」と意思が固まりました。
 
 この大きな夢を実現するためには様々な方法があると思います。私はガーナでのボランティアで、現地の看護師がガーナ人の生活や習慣を踏まえて、健康に関するアドバイスなどを提供し、治療をされている姿を見て、自分が途上国で医療を提供するのではなく、発展途上国が国⺠が必要とする医療を提供できるように、そしてその国の今後の医療の持続的、自立的、そして更なる発展のためにも、発展途上の国々の医療従事者の育成に携わりたいと考えています。
 
 医学部3年生の私にとって、これからの10年はこの夢を成し遂げるための準備期間だと考えています。具体的には、これからの5年間で日本の医師免許を取得し初期研修を通して医学、医療の基礎をしっかりと身につけたいです。加えて、ECFMGを取得し、次の5年間でアメリカのレジデンシーで臨床経験を積み、米国の医師免許を取得し、さらに公衆衛生大学院でより専門的に医療について学ぶことを目標としています。
 
 発展途上国の医療従事者の育成に携わるには、まず自分が様々な医学教育に触れる必要があると感じます。そのため自分は日本の医学教育、初期研修だけでなく、アメリカの医学教育も受けたいと考えており、そのため在学中にECFMGを取得し、その後アメリカで臨床を経験したいと考えています。アメリカのレジデンシーには世界中の国からの医師も参加するため、その方々からも刺激を受けて将来に活かしていきたいと思います。自分がアメリカで臨床経験を積むことで、アメリカと日本、そして世界中の国々の医学教育の良さを融合させ、途上国の医療従事者の育成に役立てたいと考えています。さらに、途上国の医療に携わる際は、医学的側面だけでなく、より意識して患者全体をみる必要があると思います。患者の経済的、社会的背景なども念頭に治療を行わなければ、真にその患者の役に立つことはできないと感じます。公衆衛生大学院で専門的に公衆衛生や保健、福祉など医学を取り巻く様々な側面を学ぶことで、将来に役立てていきたいと思います。
 
 そして最後に、この10年間で自分自身の理解を深めたいと思います。アメリカで生まれ、12年間アメリカで過ごした後、帰国し、日本の中高を経て、日本の医学部に進学した私は、日々日米の文化や価値観の違いを感じ、自分のアイデンティティについて考え、悩むことが多くあります。日本とアメリカだけでなく、世界を舞台に働くには言語を流暢に話せるだけでなく、文化や価値観、慣習まで深く理解し、尊重する能力が必要であると強く感じます。この10年で自分自身に向き合って、自分の中での日米のバランスを見つけ、自分らしさを生かし、周りの人にいい刺激や影響を与え、周りと切磋琢磨できる人になりたいと思います。
 
 私の志の根本には、自分の意思では決めることができない、生まれた国、経済的地位という要素によって、医療が受けられるか否かが決まることは不公平であってはならないという考えがあると思います。勉強をするにも、仕事をするにも健康な身体なければやりたいことをできません。生活の基盤である健康を支える医療は必要とする全ての人が権利としてアクセスできるべきものだと思います。しかし残念ながら、現実はそうではありません。日本でかかっても保険が効いて治療して治る病気でも、途上国でかかると医療へのアクセスや医療資源がないため命を落としてしまうことや、医療費の支払いで生活が困窮してしまうことが現実です。私はこの不公平を少しでも減らして、世界中の人々が健康で幸せな生活が送れるよう、途上国の医療従事者の育成という側面から医療格差をなくす手助けをする仕事に就きたいと考えています。豊かな国にたまたま生まれた自分は恵まれない人を助ける義務、Noblesse Obligeがあると感じこれを果たしたいです。
 
 現在、新型コロナウイルスの蔓延により、生活様式が大きく変わり、医療崩壊も懸念され、感染の心配や、今後に対する不安を抱えながら毎日を送っているかと思います。しかし、これは途上国の人にとっては新しいことではなく、COVID-19以前から向き合ってきた問題です。感染症の心配、必要とする医療が十分に受けられないこと、医療従事者や医療資源の不足…いわゆる医療崩壊という今私たちが懸念している最悪の事態を途上国の人々は今までずっと経験してきたのです。COVID-19は先進国の人にも感染症の恐ろしさ、そして必要とする医療を受けられないかもしれないという不安を感じさせ、今まで当たり前のように受けていた医療のありがたみを再認識する機会になったと思います。COVID-19によって浮き彫りにされた課題は以前から存在していたものも多く、COVID-19によってより顕著になっただけに過ぎません。災難の後は一番の改善どきであり、成⻑と改革のチャンスでもあります。この危機を乗り越えた後、我々は浮き彫りにされた問題点を改善していく必要があります。また、医療や医療体制への関心、意識が高まり、この恐怖を身を持って体験したことで、先進国の我々は自国の医療の改善に加えて途上国の医療に対しても協力的な意識を持って、改善に向けて支援をしていく良いきっかけになったのかもしれません。新型コロナウイルスにより世界中に医療が行き届くように支援や政策を促すチャンスを与えられたと思います。私この世界的危機から生まれたチャンス、改革期を利用して、生涯をかけて、世界中全ての人が必要とする医療を受けられるように、多くの方々の理解と支援、協力を得ながら、発展途上国の医療従事者の育成に携わりたいと思います。