ハワイ大学 内科 Kuakini Medical Center
<はじめに>
この度は、野口医学教育研究所の助けをかりて、2018年11月5日-30日の4週間ハワイ大学(3週間はKuakini病院内科、1週間はDr. Tokeshi道場)でのオブザベーション研修をさせて頂きました。同年度の米国のレジデンシーマッチングに参加していたこともあり、滞在中にハワイ大学内科を含めた4つのプログラムのインタビューがイレギュラーに入ることもありましたが、コーディネーターのMs. Uchimaさん、Kuakini Medical Cneter のChief Medical Resident の Dr. Go の温かい支援のもと何とか オブザベーションを行うことができました。Kuakini Medical Center は中規模の病院でハワイの青い空によく合う白壁が美しい病院です(写真1)。また、滞在中は病院のすぐ裏にある徒歩3分のアパートに滞在しましたが、とても清潔でキッチン/洗濯機/アイロンなど必需品が用意されておりとても快適でした。(写真2)。以下は、それぞれのローテーションの概要と、臨床留学の準備の視点からの感想を述べさせて頂きます。
<内科ローテーション(Kuakini Medical Center)>
ハワイ大学内科レジデンシーでは、内科のローテーションはKuakini Medical Center (以下KMC)とQueens Medical Center (以下QMC)に別れて行われます。私が研修したのは前者のKMCでQMCに比べると規模は大きくない市中病院であり、チームの構成もUpper Level Resident (2-3年目)+Intern(1年目)+医学生(3/4年生)となり、固定のAttending physicianがいる訳ではなく、担当患者それぞれを担当しているHospitalistが指導医として診療方針の確認を行います。このため、1チームで2-4名ほどの指導医のHospitalistと一緒に仕事をしますが、実質一緒に過ごす時間はプレゼンテーションの10-20分ほどで大半はResidentたちが独立して診療を行います。今回のオブザベーションでは見学する機会はなかったですが、QMCでは各チームに固定のAttending physician が常時行動を一緒にするため、よりフォーマルなプレゼン/診療を通じた教育が行われるそうです。このため、ハワイ大学内科レジデントからするとKMCでの内科研修はQMCに比べて、ICU/緊急入院の初期対応など多くの面で自分が初療に当たるので、自立性/実力が試される良い機会だとされています。
1日の大まかな流れは朝05:30に研修医室で集合しIntern/Medical student と合流。担当患者をもらっている場合は、電子カルテでバイタル/検査結果/夜間のイベント/他の専門科・専門職のノート確認などを行います。06:00-06:30頃になると上級のレジデントがくるので一緒に病棟へ行き、ナースから直接夜間の様子を聞き、実際に患者さんにあって診察/問診を行います。だいたいチームでは常時1-3名のICU患者と2-5名ほどの一般病棟患者(10名がチーム上限)を担当していることが多いです。日によって違いますが朝07:30-08:30くらいの間にMorning reportやそのほかの専門科指導医のレクチャーなどがあったりします。そのあとは、指示出し、プログレスノートなどを記載して、病棟で仕事をしている指導医を見つけて患者をプレゼンして方針を確認することになります。11:00からはICUでのカンファレンスがあり、患者のプレゼンを通じてICUの集中治療医と方針を確認する他、その夜のオンコールの上級レジデントに患者の状態を引き継ぎます。大体忙しくない日であれば昼過ぎくらいには全ての指示出し、ノートも終了してInternだけ17時の引き継ぎまで残って、上級レジデントも帰宅(何かあれば呼び出し)、医学生/オブザーバーも解散となることが多いです。4日に1回オンコールと呼ばれる24時間、新入院患者を受け続ける日があり、この日だけは一日中忙しいですが、それでも新患者の受け入れも5名/日の上限はあり、インターンが忙殺されて学ぶことができなくならないように配慮されています。オンコールの日でなければ、担当患者さんの容体が安定しているとゆっくりした勤務であることが多い印象です。オブザーバーとしてできることは上級レジデントにお願いしてプレゼン/プログレスノートの練習のための担当患者を割り当ててもらい、その患者さんの容体を把握して、指導医へのプレゼンをさせてもらい、日々のプログレスノートのデモを作成することです。私のいた時は、チーフレジデントのDr. Go がプログレスノート/新患者のアドミッションノートを添削してくれました。添削してもらえるだけで、かなり勉強になるのはもちろん、私は同年のマッチングにも参加していたので採用委員でもあるチーフレジデントに自分の診療能力を知ってもらうために複数回ノート添削をお願いしました。火曜日の午後QMCで行われるAcademic half-dayというIntern/Residentのための座学講座にも参加させていただき、内科ローテーション中以外の日本人レジデントの先生たちともお会いして、マッチング/インタビューなどに関するアドバイスを頂く機会にも恵まれました。
<Dr. Tokeshi 道場>
渡慶次先生はKuakini Medical Center敷地内のビルでFamily practice のPrivate clinic をされています。色々な報告書でもその素晴らしい研修内容が取り上げられている他、数々の米国臨床留学をした高名な先生達を門下生として輩出している伝説的なプログラムです。実習はまず、1,200ページに及ぶ”Family Practice Tokeshi’s Dojo Survival Manual“を読み解くことから始まります。これは、Dr. Tokeshiの過去40年以上の指導経験が蓄積されていくうちに数ページの引き継ぎ書が1,200ページを超える超大作となったものです。特に、マニュアルの医師としての心構え、Requirement, H/Pなどは研修を開始する上で必読です。このマニュアルを使ってPre-med(医学部に入学する前の学生)が書いたアドミッションノートを見ましたが、レジデントが書いたアドミッションノートより詳細に社会歴/生活歴などが自然にHPIに織り込まれ大変レベルの高い完成度となっているのに驚きました。
典型的な1週間のスケジュールは、土曜日の昼にDr. Tokeshi のOffice(Clinic)で面談、Pre-medかローテしている学生から患者さん/業務について引き継ぎを受けます。翌日は日曜日から仕事開始で朝5時頃から病院の入院患者とKuakini Medical Centerに併設しているNursing Homeの診察+プログレスノート記載(私の時は病院2名、施設6名)を行います。06:30にDr. Tokeshiと救急外来で待ち合わせをして、そこから一緒に病棟回診+回診後にプログレスノートのチェックを受ける流れになります。本来は日曜の昼は「居合道」の鍛錬に同行できるそうですが(運動できるショーツ/Tシャツは必須)、私のローテ中はあいにく剣道の試合と重なって「居合道」の訓練には参加できませんでした。月曜日からは水曜日を除いては午前/午後とも外来の予診+見学となります。毎日、病院に入院中の患者さんの回診をした後に、クリニックで来られた患者さんの予診を簡単に行って診察を見学させて頂きます。
実習は非常に実践的で、特に朝のPre-round はまさにIntern として仕事をしているのと同じ状態で大変恵まれたローテーションでした。
<留学準備の視点からの感想>
ハワイ大学内科のような毎年日本人を含めた多くのIMGがマッチする大学病院でローテーションできる機会はかなり貴重だと思いました。野口医学教育研究所のハワイ大学内科のエクスターン/オブザベーションは米国の内科レジデンシーに応募するのであれば是非参加した方が良いプログラムでしょう。私の場合、経歴、卒後年数、USMLEスコアなどからすると、大学病院からインタビューを貰える典型的な候補者ではないため、今回レジデンシーのインタビューをして頂けたのも一重にこのオブザベーションのお陰と思います。特にオブザベーションでは、採用委員のチーフレジデント/Dr. Sumida などとも関わることができ、それだけで十二分に価値のあるものであったと思います。注意としては、せっかくの機会で心象が悪くならないように、ある程度他の病院実習などで米国の病院での病歴聴取/診察/ノート記載(アドミッション/プログレスノート)に慣れてからの方が無難かとも思いました。また、Kuakini病院でのローテーションに関して言えば、指導医と密に行動を一緒にするわけではないので、推薦状などが必要な場合は別な病院実習での取得を検討した方が良いでしょう。ただし、それらを除いても繰り返しになりますが、米国の内科レジデンシーに応募するならば、必須と言って良い実習であると思います。
<謝辞>
このような機会を与えていただきました野口医学研究所の皆様、調整を主に引き受けて下さった木暮様、高名なDr. Tokeshi道場で鍛えてくださった渡慶次先生、ハワイ大学内科で指導くださったチームの皆様にお礼を申し上げたいと思います。