ハワイ大学エクスターン体験記
ハワイ大学で1ヶ月のエクスターン(3週間の内科病棟・1週間の家庭医療)をさせていただきましたので、その記録と感想をまとめました。
内科病棟 2014/10/6-25
ハワイ大学は独自の付属病院がなく、複数の提携病院で研修を行います。1年(52週間)を13ブロックに分け、4週間ごとにローテートします。内科研修の中心はQueens Medical Center(QMC)-500床, Kuakini Medical Center(KMC)-200床であり、今回はKMCで3週間の病棟研修を行いました。
<一日の流れ>
A~Dまでの4チームあり、各チームはUpper(2-3年目)、Intern(1年目)、Medical Student(3-4回生)の3人で構成されます。Internが2人いるチームもあり、そのチームはInternの1人が2週間毎に交代でNight Float(NF:夜間勤務)を行います。NFは17時~翌日6時の勤務で、On callチームのUpperとともに夜間入院や病棟対応を行います。私はTeam C (Upper: Kristie, Intern: Brandon, Aaron, Student: John)につきました。
5時半くらいにIntern/学生はカンファ室に来て、NFから夜間の申し送りを受けます。その後担当患者をラウンドしてカルテをある程度仕上げます。Upperは7時くらいに来るので、そこでIntern/学生がプレゼンを行い、その日の方針を話し合います。その後さらにAttendingとディスカッションして方針を確定し、残りのカルテ書き・退院調整を行います。
9時半~10時にICUラウンドがあり、ICUで入院している内科患者をみんなの前でIntensivistへプレゼンします。KMCのICUは基本的に内科チームが管理を行い、適宜Intensivistに相談する形式になっています。
私が訪問した時点ではまだ紙カルテ(オーダーは電子化)でしたが、近いうちに全て電子化するそうです。一通り終わってOn callにサインアウトしたら終了です。何時までいないといけないというルールはなく、患者が少なければ昼過ぎに帰れます。
<当直・休日>
土日も含め4日に1日はチーム全体が入院のOn callとなります。救急などから呼ばれると、チーム全員で行って情報を収集します。オーダーを入れつつ、患者の病歴・診察をレビューし、本人・家族に治療方針を説明して入院を進めます。1チームの受け持ちは5-10人と比較的余裕があり、キャパオーバーになるのを防ぐため、1日の入院が5人になるとストップがかかり、それ以降はAttendingのHospitalistが1人持ちします。80時間ルールの影響もあり、On callの日でもInternは夕方には帰り、Upperは病院に泊まりますが翌日の昼には帰ります。
入院疾患は肺炎、尿路感染、心不全などコモンなものが多かったですが、プロブレムが複数臓器にわたる重症症例も珍しくなかったです。全体的に日本同様、高齢者の入院が多く、終末期の様々な問題も絡んでいました。学年に関わらず週に半コマ外来があり、週に1日は必ずOffが与えられます。土日はオンコールであれば平日同様にチーム全員が出勤し、オンコールでなければUpper/Internのどちらかが来て担当患者をラウンドしてサインアウトする形式です。On callがClinicと重なった場合はカバーが入り、土日でOffを取れなかった場合は平日にoffが与えられます。
<カンファ・レクチャー>
月・金曜日は8時ごろよりMorning Reportがあり、担当チームが症例プレゼンを行います。AttendingのDr. Sumidaが進行役となり、みんなで盛んに議論をしていました。他の曜日もCardiologyの先生が心電図の読み方をレクチャーしたり、症例ベースの各科レクチャーも行われました。毎週土曜日の朝にJournal Clubがあり、論文の読み方を勉強します。また毎週火曜日の午後にQMCでAcademic half-dayという座学講座もあり、専門医試験やフェローを見据えた内容となっています。
主に外国人向けですが、毎週木曜日の夕方にDr. Littleというプレゼンの仕方を長年教えている方のセッションもありました。本も出版されているのでご参照ください。
3年間の研修を終えたResidentの中から毎年Chief residentが2名選出され、上記のスケジュール管理を行うとともに、Residentの評価を行います。逆にResidentの意見を取りまとめ、Attendingと協議して研修内容を改善するなどの調整も行います。
<感想>
エクスターンは見学という立場であり、基本的に患者への接触・カルテ記載は許されません。しかしチームについて回るだけでは非常に退屈であり、インターンを目指しているのであれば自己アピールが必要です。私はチームメンバーにハワイでの研修を目指していると最初に伝えたところ、気を遣ってチャンスを与えくれました。具体的なアピールの機会としてはMorning Reportで症例をプレゼンする、ディスカッションで発言する、ICUプレゼンをする、Journal Clubで発表するなどです。
学生と同様に病歴聴取・診察もできましたし、チームのディスカッションにも加わりました。監督の元で患者を担当したり、自分のノートにカルテを作って添削してもらうのもよい勉強になると思います。Internは医学部を卒業して間もないので、日本で勤務経験があれば、知識では決して劣っていません。ただ知識があっても英語でいいたいことを伝えられなければ能力を認識されません。日本以上にプレゼン・ディスカッションが重視され、その繰り返しで鍛えられているように感じました。
幸いチームのみんなに仲良くしてもらったので、ご飯に行ったり遊びに連れて行ってもらいました。KMCの研修は比較的余裕があるようでしたが、QMCはKMCより一層忙しくシステムも違うので、そちらの話も聞いた方がいいと思います。可能であればぜひ滞在中にインタビューをしてもらいましょう。
とけし道場 2014/10/26-31
渡慶次先生は高校卒業後に沖縄からハワイへ来られ、約40年にわたり家庭医療に
従事されています。道場の名にふさわしいスパルタだと噂で聞いていました。
1日の始まりはだいたい4時台です。KMCの隣に老人施設があり、そこに入所されている先生の担当患者を朝ラウンドします。10-15人くらいいてバイタルも自分達で測ってカルテを記載します。KMCに入院している患者も平均2-3人いるので、その人たちもラウンドしてカルテを記載します。その後6時半に先生と合流し、レクチャーを受けます。カルテの書き方、鑑別診断、医師としての身構えなど多岐に渡ります。
入院患者を一緒にラウンドした後にKMCの隣にある先生のクリニックへ行きます。午前は8時過ぎから12時過ぎ、午後は14時から16時まで計20人前後予約が入っています。主に定期フォローの方が多く、予診を行った後に監督の元で診察・採血・ワクチン注射まで行います。1人1人の患者さんの社会的な背景もよく理解されているのが印象的でした。午後のクリニックが終わったら、再度担当患者をラウンドして終了です。今回は2人で分担してラウンドしたので比較的楽でしたが、1人だと朝がさらに早くなりかなりきつそうです。
またかかりつけの患者が救急を受診すると、受診理由に関わらずどの時間でも患者さんのところに行く必要があります。内科に入院する場合は病棟チームに管理を任せますが、入院サマリーの記載が義務となります。つまりDictationを行う必要があります。入院患者を日々フォローしてカルテ記載するとともに、退院・転院サマリーもDictationします。始めは慣れなくて困惑するのですが、今後のことを考えると非常にいい経験ができたと思います。
先生の話を聞けば聞くほど、知識の深さのみならず、患者さんへの思いやりの深さを痛感します。1000ページを超える道場マニュアルには病気の知識だけではなく、医師としての心構えとそれに通ずる考えが数多く記載されています。こうした姿勢が道場での研修に反映されており、肉体的にはきついですが、精神的には非常に充実した時間が過ごせました。医者の仕事は患者を治すことであり、病気を治すだけであれば機械でもできるという彼の言葉をよく覚えています。
謝辞
ハワイは日系を含めたアジア系の人が多く、本土よりも日本に近い雰囲気でした。スタッフの皆さんは非常に優しく、大変ありがたかったです。研修の調整をしていただいた野口の皆様、Paulaさん、Mayoさん、ありがとうございました。病棟研修でお世話になったDr. Sumida, ChiefのDr. Leon, Dr. Nogi, Team Cのみなさん、日本人レジデントのみなさん、その他KMCのスタッフ、渡慶次先生、Dr. Littleありがとうございました。最後に、様々なアドバイスをいただいた職場の指導医の先生方、私の不在期間に仕事のカバーをしていただいた同僚のみなさんにも感謝申し上げます。