米国財団法人野口医学研究所

Thomas-Jefferson大学 研修報告書(腎臓内科、内科)

横須賀米海軍病院 2015年度チーフフェロー嶋村昌之介

2015年7月米国トーマス・ジェファーソン大学

  • はじめに

2015年7月27日から8月13日までの3週間、野口医学研究所を通じて米国フィラデルフィラ州にあるトマスジェファソン大学に滞在しました。最初の1週間を腎臓内科、残りの2週間を内科で研修させていただきました。本稿では、それぞれの診療科での活動や学んだことを報告します。

  • 腎臓内科研修

私は米国で腎臓内科フェローシップ、特に腎炎・腎移植医療・腎緩和医療を学ぶことを希望しています。そのため最初の1週間はトマスジェファソン大学腎臓内科で腎移植を中心に研修を行いました。外来部門では腎移植患者のケアを、入院部門では入院透析チームおよびコンサルテーションチームに配属されました。さらに、病理診断科との共同で行われている腎病理カンファレンスにも参加することができました。

 

<腎移植外来>

末期腎不全患者においては日本では透析療法が主であるのに対し、米国では腎移植が行われることが多いです。私が経験した日本での腎臓内科研修では、残念ながら腎移植患者管理に遭遇することはありませんでした。そのため、実際にどのように腎移植後の患者を管理しているのか非常に興味がありました。今回の研修で、腎移植後は免疫抑制による重症感染症よりも心血管疾患や悪性新生物で死亡する例が多いことを学びました。免疫抑制薬の管理が主だと思っていた私には衝撃でした。その点においては、心血管疾患および悪性新生物の一次予防や二次予防は私が日本で診察している慢性腎障害患者の管理に共通する点が多いと感じました。移植医療の専門的知識もさることながら、一般内科的な血圧・脂質・予防医療の知識と実践が重要であることを学びました。

 

<入院透析・コンサルテーションチーム>

入院部門では、トマスジェファソン大学腎層内科フェローと協働する機会がありました。腎臓内科へ入院透析やコンサルテーションがある場合には、このフェローたちに最初に連絡がいくようになっています。一日に5-6件程度の依頼があるとのことです。米国フェローシップの最大の利点は、このような専門的な臨床経験を膨大な数、短時間に曝露されることだと思います。しかも一つ一つのケースに関して、専門医から直接指導を受けることができます。私はこれまで慢性腎障害に関しては、日本で質の高い専門研修を受けたと自負していましたが、腎移植医療に関しては日本で経験を積むことは難しく、このような米国フェローシップの環境で学んでみたいという思いが一層強くなりました。

 

<腎病理カンファレンス>

トマスジェファソン大学腎臓内科では、腎移植例が多いため腎生検を年間300例以上行っています。そして定期的に病理診断科と共同で腎病理カンファレンスが開催されています。私が滞在中のカンファレンスでは、特発性膜性腎症の症例が提示されました。免疫染色ではやはりIgGサブクラス4が話題に上り、私も自験例をもとに積極的に議論に参加することができました。提示された症例に関して、病理組織と臨床経過からシクロホスファミドを含めた免疫抑制療法を行うべきかの議論があり大変興味深かったです。また移植腎病理の標本も供覧させていただきました。腎移植後の予後には腎病理は必須との話を聞き、腎臓内科だけでなく腎病理も一層研鑽を積もうと思いました。

 

1週間指導してくださったDr. Gulatiには、腎臓内科研修後も昼食をともにしたり米国臨床留学の相談に乗っていただいたり、公私ともに大変お世話になりました。

  • 内科研修

内科では入院患者チーム配属されました。渡米前に2012年にトマスジェファソン大学で研修された西川豪先生の報告書を拝読していました。西川先生と同様に、私も①アメリカ医学生と同等のパフォーマンスをすること、②チームの一員として貢献することを目標に掲げました。最初の二日間は、チームのレジデントも見学者の私の扱いについて困っている様子でした。その日に、彼にこの研修での私の目標を伝えたところ、快く患者を一人割り当てていただきました。そのレジデントから最初に頼まれたのは、担当患者の内服薬歴をかかりつけ医に電話で確認することでした。英語で電話対応するのは得意ではありませんが、何とか情報を収集し彼に伝えました。するとその直後から、担当患者に関して今後の治療方針や、外来予約の調節まで任せてくれるようになりました。

また、指導医への担当患者の口頭プレゼンテーションもさせていただきました。手稲渓仁会病院での初期研修で英語での口頭プレゼンテーションは何度も行っていましたので、要点を簡潔に伝えるように心がけていました。

私には公式診療記録には記載できませんでしたので、非公式の用紙にプログレスノートを記載し指導医のDr. Wongに添削していただきました。Dr. Wongからは一つ一つの検査や治療に関して、なぜ必要なのか根拠を必ず記載しなさいとアドバイスをいただきました。

 

毎日行われているカンファレンスにも参加させていただきました。トマスジェファソン大学内科研修プログラムでは朝と昼に毎日1時間ずつ研修医対象のカンファレンスが行われています。朝のカンファレンスは、毎回研修医が担当した患者の口頭プレゼンテーションを行い、診断や最新の治療について討論が行われていました。一方昼のカンファレンスでは、研修医は昼食を摂りながら指導医の講義を聴くという形式でした。指導医と研修医が互いに意見を出し合い、活発な議論が行われているのが印象的でした。

 

  • 終わりに

トマスジェファソン大学では本当に「出会い」に恵まれ、腎臓内科・内科ともに楽しく過ごすことができました。これまで手稲渓仁会病院、横須賀米海軍病院で培った経験とスキルをフル活用して積極的に研修しました。また休日にはニューヨークとワシントンDCを訪問、さらにフィリーズ野球観戦にも行き大変充実した3週間でした。

 

  • 謝辞

トマスジェファソン大学の佐藤隆美先生、Japan Centerのラディ由美子様、さらに野口医学研究所の関係者の方々に心よりお礼申し上げます。